「なんで、そんな事……このままじゃライラは苦しむだけなのよ! それを先に助けたいと思うのが、そんなにいけないの!?」
おお、久しぶりにキレてきた。そうよね、こう思うのも分からなくはないわ。
「あなたの言葉からすると、恋が成就してもライラさんは苦しむ……のですわよね? では、恋が叶わなければ苦しくないとでもいうの? 全て綺麗さっぱり忘れられるのかしら。ライラさんが助けて欲しいとも仰らないのなら、わたくしたちは結末を見守るしかありませんわ」
ライラの性格は責任転嫁型かと思ったけど、自分で言ったことはちゃんとやってくれるしっかりした面も持っている。
「……それができないから、困ってるんじゃない」
フラれても『将来性もある、美少女カワイイわたしを選ばなかったあの人は見る目がありませんね!』ってクインシーのせいにして、したたかに生きてくれるのなら……それはそれでいいけど、それができるならレイラが心配することもないだろう。
きっと引きずるタイプだから、おねーさんがこうも心配しているんだと思う。
「あたしたちは――……あなたたちとは違うのよ! 出自も違う! 育ったところだってあんなところなの! もし、クインシーとライラが恋人になったら、家のことも何もかも、全部知ってもらわないといけないじゃない!!」
「……クインシーさんの為人をそれほど深く存じませんけれど、彼はきちんと向き合って、その上で自分の気持ちを言葉にされると思います。レイラさん、あなたはさっきから『話せないことがある』から、ライラさんを諦めさせようとなさっている。わたくしにはそう感じますが……」
するとレイラはその綺麗な顔を悔しそうな、悲しそうなものに歪め……そうよ、と震えた声で言葉を絞り出した。
「そうよ……! 人には話せないことがある。パパとママは、それで大変な苦労をしたわ。その血を受け継ぐあたしたちもそうなるのよ。本当は学院みたいな人の集まる場所に、いてはいけないの……」
なんだその厨二主人公みたいな話。うずうずしちゃうわ。
「――……わたくし、ライラさんの恋愛を止めさせようと躍起になることより……レイラさんのお友達なので、あなたが心に抱く苦しみをお話ししていただきたいわ」
「……あなたみたいに綺麗なところにいる子なんか、友達なんかじゃないわよ……」
ガタッと席を立ち、レイラは決まりが悪そうにわたくしに視線を向け……ごめんなさい、と小さく謝る。
「あなたはそうじゃない、って思いたい。でも、あたしは……あんな辛い思いはしたくない。ライラにもさせたくない。だから、あなたが疑問に思ってることを話すこともできないわ。何言ってるか分からないって思うでしょうけど……」
どうしていいかわからないと迷い子のような目をして、レイラはわたくしに紫色の双眸を向けた。
彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。表情も相まって普段の強気な印象ではなく弱々しい姿だ。
これわたくし男の子だったら、グッときちゃって抱きしめたりするのかな、なんてことを考えてしまう。
「わたくしを信じてくださることは、できないのかしら」
「…………やめて、そんな風に言わないで」
やめてよ、ともう一度弱々しく呟き、レイラはとうとう……大粒の涙をこぼした。
「なんで、そんなあたしが悪い奴みたいな言い方するのよ。あなたはいつもそうだわ。あたしたちのひどい要望をなんだかんだ言って叶えてくれて……今も、あたしの心につけ込もうとしてさ……そうして男を次々にたらし込んだのね。ひどい女だわ」
散々な暴言を吐かれているのだが、わたくしは男をたらし込んだ覚えなどこれっぽっちもない。それに、その言い方だと本当に魔性のクソアマになるからやめてほしい。
「あたしっ、あたしたちはっ……魔族の血を、引いてるのよ……」
レイラがとうとう、そう言って涙を流し、自らの手を握りながら口元を押さえて嗚咽を堪える。
「存じております」
「……ん……っふぇ?!」
一瞬頷きかけたレイラは、わたくしの言葉を理解し、驚愕の言葉とともに視線をあげた。何言ってんだおめえ、みたいな顔をしているが、わたくしはにっこりと微笑んでやる。
「ようやく、腹を割って教えてくれて……わたくし、あなた方に声をかけられたその日から分かっていましたの。ああ、誤解なさらず。ひどいことをしようとか、脅迫しようとかは毛頭考えておりません」
もちろん調べたわけでもない。そう言うと、じゃあなんでそんなことが分かるのよ、と、レイラは涙声で怒り始めた。怒ったり泣いたり忙しい子ね。
「――……長いお話になりますから、紅茶を淹れ直しますわね。でも、わたくしもあなたにお話しするのは、とても勇気が要ることなのです。だって、今は……とっても大事な時期なのですから……」