【成り代わり令嬢は全力で婚約破棄したい/132話】


 夏も終わり、わたくし達支援学科の文化祭も……大きな混乱もなく終了した。


 こうして言葉にすると、あっけないものだけど、下準備は本当に大変だった。


 基本的に無添加・無着色なので、薬草を煮出した液は酸味の度合いや香りに差があれど、だいたいどれも『草』の味がする。


 つまり、違いがよく分からない。しっかり味わうと、分かるけどね……。

『これ……美味しくなるわけ?』と、レイラに散々言われていたが……牛乳やジュースで割ってみると、なかなか飲みやすいのだ。


 メニュー表を作り、材料費から料金を算出したり(銅貨3枚)店の飾り付けなどを手分けして行い、姉妹のレッスンは週末、クインシーが短期集中で行ってくれた。戦乙女の鼓舞以外にも三曲くらい覚えたとか言ってたわね。


 ついでに軽い振り付けまで三人で考えたらしく、文化祭で披露してくれたけど……。

 まあ、美少女二人が可愛く微笑みながら歌って踊ってくれるのだ。こんなにキャッチーな魅力はなかなかないだろう。


 最初の数回は反応もまちまちだったが、毎回見にくるやつとか出始めたくらいだ。


『おひねりがわりにドリンク買ってね!』と、姉妹がウィンクしたら……まあ盛況だったわ。


 男ってやつはこんな単純でいいのかしら……と思いながらも、せっせとドリンクを作ってラベルを貼り、ほぼ姉妹の握手会さながらであったのも良い思い出だわ。


 結局一人でドリンク作るのが大変になってきた頃、アリアンヌが手伝いに来てくれた。


 ちょっと指示しただけであの子テキパキ動くのよ……おかげで捗ったし、セレスくんやイヴァン会長、マクシミリアン(を伴ったクリフ王子)まで来て、なんだか来客が豪華だったわ……。


 そんな感じでお客さんともチームとしてもトラブルというほどの大きな失敗もなく、わたくし達は無事に文化祭の出し物を成功させ、基本点以外にも成功ボーナス評価もいただき、無事にボーダーを超えたわけだが……。

「……成功ボーナスは、要らなかったわ……」


 やりすぎたかもしれない。


 わたくしは自分の評価点を見ながらため息をついた。

『115/85』という数字は、ボーダーギリギリじゃないわ。成功ボーナス20点は……三人とも貰っている。


 まあ、なかなか取れないらしいし、その分加点が大きいのよね。


 わたくしの成績を一番心配していたマクシミリアンも『よく頑張ったな』とニコニコだが、口さがない連中は落ちこぼれのわたくしが成功ボーナスを貰ったので、客はコネを使って集めたのだ、とか陰で言っているのも聞いた。

 そして月が変わった頃には、空席が目立つようになっていた。


 ボーダーが決まっているとしても、学院は人数比率評価はしていない。


 月が変わって教室にいない人は、おそらく評価点不足や様々な都合で退学していったのだな……と寂しい気持ちになった。

 そういう物悲しい十月が来て、本来あるはずの『討伐』という行事がクラス対抗戦の時と同じ理由……王都近辺に魔物の数が少なく、学生に提示できる依頼が確保できない……という事で中止になり、血気盛んな若者達は不満の声をあげていた。


 わたくしにとっては、魔界のことと自身の訓練に力を入れるチャンスであるため、討伐なんていう神経がすり減りそうな行事がなくて嬉しいことこの上ない。


 マクシミリアンには、今月は図書館と美術館に足しげく通いますわ、と前もって告げている。


 実際、美術館も図書館も用事が大ありなのだ。


 美術館は戦乙女の関連で調べたいことがあるし、図書館は……イヴァン会長……じゃなくてもいいんだけど、司書さんに聞きたいこともあるからで……。

 さて、今月も頑張るぞ! と気合いを入れてスタイリッシュ下校を決め込もうとした矢先。


「……リリーティア様、ちょっといい?」


 戸口から、むすっとした顔もかわいいレイラが声をかけてきた。


「あら、レイラさん……」

「……今から、予定空いてる? ちょっと、相談……っていうほどじゃないんだけど……話さない?」


 相変わらず素直に切り出せないところはあるが、少しだけ態度が軟化したレイラは、チラチラとこちらに視線を送る。


「用事というほどのことはありませんから、お話くらいなら構いませんわ」

「ホント!? じゃあ、すぐ行くわよっ! 正門で待ってなさい、あたし鞄とってくる!」

 言い終わる前に駆け出しているレイラに苦笑して、彼女のご指定通りに正門へと向かう事にした。



前へ / Mainに戻る /  次へ


こめんと

チェックボタンだけでも送信できます~
コメント