文化祭の出店を一人ではなく、ハートフィールド姉妹を交えた三人でやることになったわたくしは……イスキア先生に変更のお願いをしつつ、貰ったプリントを手直しして提出する。
無言で受け取った先生は、その際ちらりとわたくしの表情を窺い、そこに介入すべき問題がないと分かったのか……『みんなで力を合わせて頑張ってね』と言って微笑んだ。
そうよね、これから詰めていって、団結を図らないといけないわよね。
「――……あの、もう少しご質問させていただいてよろしい?」
「えー? 聞きたがりねぇ……何が知りたいのよ?」
露骨に嫌そうな顔をし、レイラが不満の声を上げたが……ある程度のところは答えてくれるようだ。プライベート以外なら答えてくれるかな。
「その……店業務と歌うことについてですが、仮にお客さんが店に並び始めたとすると、あなた方は歌いたいわけで……『どのくらい人数が並んだら歌う』のか、そのときに『二人一気に抜け』てしまわれるのか? というのを伺いたいの」
すると、レイラはライラの顔を見て『どうする?』と話し始める。
え、そこ話し合っていなかったの?
「いっぱい並んだら二人で歌うってのはどう?」
「いっぱい、って……どれくらい? 10人以上?」
たくさん並んでいるときに、急に店員がカウンターから出て歌い出したら……そんなことしないで早く飲み物くれ、と思うんじゃないだろうか……。
そこは事前に看板でも出しておこうかしら。
読まない人は読まないものだけど【美少女が時々歌う、フレーバードリンクポーション屋!】みたいに出しておくだけで……なんかキャッチーだわ……。
しかし、いつ歌うのかの条件を作ったほうが早そうね。
そういう意見は後で出してみよう。あの姉妹の話がまとまるのを待つわ。
「歌う役と、注文受けて商品渡す役を交替していく、とかどうかなあ?」
「嫌よ面倒くさい。途中から入ったら、何をどこまでやってるか忘れるじゃない」
ああ、確かにその問題はあるわね。
受け渡しの時に間違えないよう、伝票を貼り付けて……いや、どうせなら飲み物の入れ物を色分け……ううん、ラベルが必要だわ。商品名の。
ラベルと伝票の商品が合っているか確認して貰って、そのまま手渡せば良い。
もちろん注文を取るときに、復唱して確認し……値段も大きくばらつきがあったら、計算するときに間違えやすいわね。
だいたい一日の生活に必要な銅貨が130枚程度 (※家賃や食費、雑費など諸々込めたものを月単位で割った大雑把な計算)くらいだし……原価もそんなにかからないと思うけど、牛乳や果物を使って原液を薄めたり混ぜる……となると、ちょっと高くなるわね。おひとつ3銅貨で材料費足りるかしら?
わたくしはわたくしで、そういったことを箇条書きにしてメモに残し、案を組み立て始めた。
どれくらい経った頃か……決まったわ、というレイラの呼びかけでメモと向き合っていた顔を上げた。
「最初は並び始めたらにしようと思ったけど……決まった時間で歌うことにするわ。並び始めた頃に歌うんじゃ、帰ってきたら注文ゴチャゴチャになって、やりにくいもの」
「そのとき、交替で歌うことにしました! 姉妹二人で歌うと、ちょっと恥ずかしいし、仕事大変になっちゃうからぁ……」
照れ笑いを浮かべて、ライラがそう言うと……レイラも『ライラは歌下手だもんねぇ?』と言って、下手じゃないよぉ、と文句を言うライラをからかっている。
「それで、歌って……一回につき一曲ですわよね? 一度出て続けて数曲歌うとかはなく、同じ曲ばっかりでもありませんわね?」
そう聞いてみると、レイラとライラに浮かんでいた余裕そうな表情は消え、大きな目を見開いて驚かれている。あらやだ、悪い予感がするわ。
「――えっ? 歌うのは一度歌うときに一曲だけど、ずっと同じ曲じゃダメなの?」
「えっ? 一曲だけの予定でしたの? てっきりバリエーションがあるものとばかり……」
すると、レイラとライラは困ったように顔を見合わせている。
わたくし、なんか……困らせるようなこと言ったかしら。
どぎまぎしながら彼女たちの結論を待っていると、レイラがそっぽを向きながら、本当に小さな声で『知らないの』と言う。
「あたしたち……歌、全然知らないの。曲数を増やして歌うことなんか、無理よ」
普段強気なはずの彼女の声は、悲しげにわたくしの耳に響いた。