金髪美少女のアリアンヌと……(黙っていれば、という前提付きだが)見とれてしまう程度に可愛い美少女レイラ。
突然意見してきたアリアンヌに少々苛立っているらしく、ダークグリーンの髪を手の甲で後ろに払い、胸の前で腕を組んで……じろじろと無遠慮にアリアンヌを見ている。これは容姿チェックをしているのだろう。
「素材は良さそうだけど、今ひとつ垢抜けてないわね……」
正ヒロイン様にも厳しい評価だ。今後、いつまでその言葉が聞けるか楽しみ……それどころじゃなかった。
しかし……美少女も怒っていれば怖い。
今までこんなに不機嫌そうなアリアンヌなんて見たこともないし、いったい何が彼女の怒りに火を付けたのか。
「アリアンヌさん、急にそんな喧嘩腰で話しかけてはいけませんわ。レイラさんも驚いているじゃありませんか」
一応アリアンヌに声をかけ、ごめんあそばせ、とレイラにも謝っておく。
「アリアンヌさんはわたくしのことを心配するあまり、あなたにきつい言葉をかけてしまったようですわね。わたくしのほうから謝罪致しますわ」
「お……お姉様のせいじゃないです……!」
わたくしが軽くレイラさんに頭を下げると、隣のアリアンヌが慌ててわたくしの腕を引いたが、わたくしが無言で視線を送ると、自分も渋々といった様子でレイラに『順序をいろいろすっ飛ばしてしまってすみません』と頭を下げた。そういう謝り方じゃないぞ。
軽いものであったにしても、貴族のお嬢様二人に頭を下げられて、レイラのご気分はいかがなものなのだろうか。
「別にいいわ。いきなりお姉様がどうのこうの~って、ワケわかんないし生意気な奴だとは思ったけど、この子……あなたの妹? 全然似てないわね」
「そうですね。私は養女なんで、似てるわけありません。お姉様のように美人でも、スタイルが良いわけでもないです」
綺麗とか美人だと褒めてくれるのはアリアンヌくらいのものなのだが、まあ……それほどでも、ありますけれど。素直に受け取っておきますわね。
しかし、養女だとアリアンヌ本人の口から聞いたレイラは、少々まずいことを言わせてしまった、というような顔をして、そうなの、と話を流す。
「あ、複雑な話じゃないので気にしないでください。とにかく……血は繋がってませんけど、私にとって大事な姉です。だから、理不尽な要求とかされちゃ困ります……っていうか、許しませんから」
などと言ってから急に頬を赤らめ、わたくしの腕にヒシッとしがみつくように抱きついてきて……ニコニコ~っと微笑みを向けてくる。そこで照れるなら、やらなきゃいいのに……。
「……血が繋がってても繋がってなくても、きょうだいなんか一緒にいるだけでウザいわよ」
「お姉様はそんなこと言いません」
そんなことない、違う! ……とレイラの意見に反抗しているようだが、わたくしも口に出して言わないだけで、たまにそっとしておいて欲しいとは感じていますわよ。
「で、あなたの話はもういいわよね? あたしは、最初からリリーティア様に聞いてるわけだけど……思いのほか、時間かかっちゃったじゃない!」
「わたくしも最初から、学科の時間にきちんとお話ししよう……と申し上げておりますのよ」
すると、またここは振り出しに戻って……ここで決めなさいよとまた高圧的な態度で怒られるワケなのだ。
「仮に一緒にやるとしても、わたくしとあなたの求めるところ……ここはしたくない、これはしてほしい、というものを互いに出さないと、準備段階で大きな溝が出来て当日も険悪な状況になってしまいますわ。あなたたちも【文化祭】で結果を出さなければならないのでしょう? ここで早急に決めては、後悔することになると思います」
多少の受け売りもあるが、これでレイラも妹と相談して理解してくれるだろう、と思ったが……彼女は何一つ考える仕草を見せぬまま、あら簡単じゃない、と自信に満ちあふれた表情を浮かべた。
「あなたが店の商品を作ったり客に出したりして、ライラが接客すればいいわけ。あたしは気が向いたらたまにライラと歌うわ」
「ゴ……」
ゴミクズ、とかなりの暴言を放ちそうになる口を押さえ、ゴホゴホとわざとらしく咳払いをして誤魔化し……ライラさんとも学科の時間相談します、と言い切って階段を上り、レイラの側をすり抜ける。
ここで承諾するものだと思っていたらしいレイラは、教室にアリアンヌと向かっていくわたくしの背中に、えっ、ちょっと、と驚きを含んだ声をかけてくる。
「~~ッ、あとで、絶対顔貸しなさいよ! 逃げようって考えてんなら許さないわ! 絶対捕まえるから!」
「ええ。学科の時間に。ごきげんよう」
まだ後ろでギャンギャン騒いでいるレイラを放置し、わたくしは階段を上がりながら、そんなに彼女の相手が面倒くさくない(疲れはする)事に気がついた。
「朝から災難ですね……。本当にあの人、お姉様の意見を理解してくれるんでしょうか」
まだわたくしの腕を取ったままのアリアンヌ。そろそろ振り払っても良いのだけど、理由もなく冷たくすることもないか、と思ってそのままにしている。
「どうかしら。話がまるっきり通じない……事もない気は……しないような、するような……」
「それ、分からないって事ですね」
うふふ、と可愛らしくアリアンヌは微笑んでから……わたくしの評価点のことを聞いてきた。素直に55点であることを話すと、アリアンヌの表情が次第に曇っていく。
「……週末、高ポイント依頼のお手伝いしましょうか?」
「いいえ。自分一人で出来るものをコツコツ探すつもりです。授業も真面目に出ていますし、文化祭までに評価ボーダー残を10ポイント程度に持っていければ、後は多少減点されてもクリアできるはずです」
そう自分では考えているし、高品質のものを普通に作り続ければこんな心配はいらないはずなのだ。
一応イスキア先生に、補習などもあるかなど相談しておこうかしら。
学院一年目のボーダーを超えられないなんてことがあったら、と考えると……まずマクシミリアンとクリフ王子からとてつもない量の暴言が飛んでくることだろう……。
そして、よく頑張ったね、と……ニコニコと微笑むレトの顔まで浮かんでくる。
どっちみち、あの姉妹と話す必要があるっていうのに……。
「はぁ……学科の時間、口論になるかと思うと今から気が重いですわね」
「おれは楽しみにしてるぜ。相手が手を上げ始めたら仲裁してやるよ」
ため息をついたわたくしを心配そうに見上げるのはアリアンヌで、ニヤニヤと笑って本気で楽しみにしていそうなジャンに、わたくしはもう一つため息を零した。