【成り代わり令嬢は全力で婚約破棄したい/102話】


「は~い、いいかしら。支援学科の催し【文化祭】ですが、これは他学科の手を借りてもいいけれど、借りるのはサポート的なところまでよ。メインに関わる役割は、貴方たちが携わるのよ。学科に関係する特技を一つは使うこと」

 学科の時間、わたくしたちの評価査定にも関わる【文化祭】の説明があった。

 メインと言われても、何も知らないんですけど……? と、わたくしを含めた皆は揃って疑問に思ったようで、その表情を曇らせている。


「そう悩まずともカンタンだ。支援学科内の数人でグループを組み、何を出すか決める! そして、錬金術なら錬金術を使った何かを一つ置くこと。 ダンスや歌なら、それだけで集客もパフォーマンスも出来るだろう。人数が集まればもっと大きく……演劇だって合唱だって出来るんじゃないか? あ、もし個人でやりたい人は先生達に相談すること」


 イスキア先生とアトミス先生がさらっと今日やることを教えてくれるが、グループで組めって、冗談でしょ……と思ったら、個人でもオッケーらしい。


 ああ、良かった。友人も特におらず、日々静かに暮らしているわたくしに、必ず誰かと組めといわれたら詰んでしまうところだったわ。


 若干ほっと胸をなで下ろして【文化祭】の流れを聞いていると、どうやら準備は今月……この八月の上旬から、来月の半ばまでに行わないといけないらしい。


 催しは来月中旬……九月の二十日に行われるからだ。


「先生~、催しっていっても、全員支援学科の教室でやるんですか?」

「いいえ。教室に限らず練習場や校庭、調理室なども開放可能だ。だが、火災や事故などが発生しては困る。調理する必要があるものは、安全対策を厳重に行うので、どうしても調理室が近くなるな」


 男子生徒の質問に、アトミス先生がはつらつと答える。


 この厳しめな口調を持つアトミス先生は、イスキア先生に負けず劣らずのセクシー女性なのだ。


 イスキア先生がゆるふわおっとり美女だとすると、アトミス先生はクールな美女だ。それでもって、ボディラインが出てしまいそうな、ぴっちりした服を好んで着ている。


 うっかりからかったら冷たい視線と容赦ない視線が飛んできそうなものだが、ダンスをやっているときはその冷たさがどこかに消え失せ、非常に情熱的でセクシーなのだそうだ。何かのスイッチが入ってしまうのかしら。


 名のあるダンサーだったらしいから、体付きはしなやかでムダがない。

 美を伸ばしてムダな肉を落とすダンスなどがあれば教えていただこうかしら。

 とにかく個人でやるかグループでやるかを今日中に決めて、催し物を考えないといけないわね。


 わたくしは一人で行おうと思うから、先に先生達に言っておかなくちゃ。

「――イスキア先生」


 生徒達があちらこちらで輪になって出し物などを相談しているのを微笑みながら見守っていたイスキア先生に声をかけると、わたくしに気がついて『あら』と嬉しそうな声を上げた。


「文化祭の出し物、わたくし個人で行うことに致しますから……まずご報告をと思いまして」

「リリーティア様はもしかしたらそうじゃないかな~と思っていたんだけど、本当にそうなのね。わかったわ、それで……何をするか決めたの?」


 またバインダーを手に取って何かを記載しているが、先生の忘れないためのメモ……とか、催し物一覧表でも作るのだろう。


「それはまだですけれど、調合を使用して飲み物でも提供しようかと」

「ふんふん……月並みだけど、充分学科の課題としては『調合を行う』ってところでクリアできているし、良いんじゃないかしら」


 月並みというご感想をいただいたが、今度はアトミス先生から、これに記載して自分でもやりたいことをリストアップし、精査理解しておくように……と提出用の紙を配られた。


 そこには出し物の名称、出す項目、危険性として考えられるもの、用意するもの……などの項目が並んでいる。


 用意するものの中に、学院で代理購入や代替品があれば――ある程度融通可能だという。


「なるほど……」

 全ての項目に一応目を通し、いざ書こうとしたとき……横合いから妙に視線を感じる。


「……?」

 何かしら、とそちらのほうへ顔を向けると……。


 二人の美少女が、じっとわたくしを興味深げに見ているのに気がついた。



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こめんと

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