昨日は多くの来客対応があったので、今日はもう大丈夫じゃないかしら……と午前中ゆっくり考えていたのだが、結果だけ言えばそんなことはなかった。
今日来てくれたのはフェーブル先生……ではなくイスキア先生だった。
フェーブル先生はクリフ王子達のほうへ向かったそうで、イスキア先生は学院に近いこちらに来てくださったわけだ。
「リリーちゃんの事心配してたのよ? フェーブル先生にお願いして、こちらの事を任せて貰っちゃった」
うふっ、と可愛らしく笑っているが、その……上目遣いと圧倒的ボリューム感のある部位に惑わされたに違いあるまい。無自覚なのか計算なのか、魔性だ。
「イスキア先生、エリクにもそんなふうにお願いしてましたの? 男性に勘違いされますわよ」
「エ、エリクにはそんなこと一度もしてないわっ!」
急に恥じらいを持って胸を隠しているが、一応胸も人の興味を引きつけているって自覚はあるんですね……。
「ねえ、リリーちゃん。エリク、今回のこと心配してない? あと、なんかその……先生のこととか何か言っていない?」
急にそわそわしてエリクのことを聞かれても……。
あまりイスキア先生のことは話題に出していないのだが、最近なんか言ってたかしら?
「――あ、そういえば」
「そういえば!?」
ぱっと先生の表情が輝き始める。
「……わたくしの先生になったことをお話ししまして、釜のほうが作成に時間はかかるが、いいものが出来やすいですよとか……」
「それ先生のことほとんど言ってないじゃない! エリクの憎まれ口だけよ!」
「そう……ですわね」
「ひどいわぁ~。いくら錬金術を習っていたとはいえ、少しくらい褒めてくれても良いと思わない?」
「え、ええ……」
イスキア先生は、エリクより二年ほど遅く錬金術を習い始めたらしいが、エリクはあの通り一度ものを作り始めるとほとんど外に出てこない。年に数回村の中を歩いているのを見るくらいだったらしい。
「せ、先生? エリクの昔話は今度、本人を交えてゆっくり……」
「あら、そうだったわ! あらこんな時間。あまり長居も出来ないのよね~」
書類を取りに来たと思いきや、エリクの話をして帰るのだろうか……。
「そ、その、わたくしに伝えることとかございませんの? 学院的な……」
「ん~、そーねー……」
今度はわたくしが先生に聞く番になった。
なんたって学院の生徒が新聞に載っちゃったんだぞ。学院方針として声明的なものはないのかしら。
「――……まだ、会議でどうなるかわからないんだけどぉ」
学院で聞くのとは違う、少し砕けた感のある先生の話し方を聞きながら、うんうん、そういうやつよ……! と上半身を先生のほうへ乗り出すようにして言葉を待つ。
「ギルドのほうから打診があってね、クラス対抗戦の魔物討伐分を学院に回せなくなるかもしれないんですって。だから、どうするかって放課後、ギルドの偉い方と先生達で話し合うのよ~」
「……あら」
それはそれで驚きの話題だ。
「あの、それは一昨日の騒動があったからですか……?」
「ううん。その前から、討伐依頼少ないなあって先生達も話してたのよ。対抗戦用の依頼って、ギルドが駆け出しの新人さんでもこなせそうな……いわば低レベルで王都近くのものを優先的に学院へ回してくれてるのよ~。それが今週末でいったん中止になるかも、って言ってるわね」
なるほど。わたくしたちは駆け出し以下だし、適切な難易度のものがないのでは……。
「あ、でもね、その代わり……運搬とかお掃除とか、お手伝いの依頼はいっぱい来てるのよ……学院にとっては大きな収入にならないものらしいけど」
半年後にも対抗戦ってあるのよね、と言いながらわたくしの提出書類のチェックをし、問題がないと分かると立ち上がりながら鞄に収めている。
「安心して。討伐依頼がなくなる可能性は高いけど、対抗戦が中止になるわけじゃないわ。リリーちゃんも最後まで頑張ってね!」
「ええ。依頼状況は毎日確認しておりますから、出来そうなものは登録しておこうと思います」
作成なら、本当は何作っても大丈夫でしょう? と先生が微笑みながら言ってくれる。やってみないと分かりません、と謙虚なことを言って、先生を見送った。