【成り代わり令嬢は全力で婚約破棄したい/67話】


 暦は六月となり、温かい春の息吹の中にも夏の訪れを感じさせられる頃……学院では初の大型イベント……【クラス対抗戦】が始まろうとしていた。

 魔法学科と白兵学科の、依頼消化合戦だ。

 より多くの依頼をクリアしたほうを勝者とするイベントであり、生徒の大多数が所属している双方の学科は、お祭りの前みたいな熱気に包まれている。


 わたくしはこのイベントの前からずっと、レト達と周囲の森や平原に出かけ、魔物達に魔界に来るか、人のいない深い場所に隠れているようにと告げている。


 魔界では依然として食糧問題や住環境が改善されたわけではないけれど、以前よりも緑地は成長し、土壌を作るために活動する魔物達 (土壌生物になっても魔物なのかしら)はその数を順調に増やしているとも本人達から聞いた。


 住民の増えた魔界でも、当然魔物同士の争いが起こるんだけど、止めようとすると他の魔物から『自然ノ摂理、乱スナ』とわたくし達が叱られるので、魔王様に相談したところ……『魔物達の暗黙の了解だし、彼らの掟が弱肉強食ならしょうがないねえ』と仰る。


 結局どこにいても、争わないといけないのか……と思うと悲しいものはあるが、たとえ魔物同士が戦ってどちらかが死んでしまったとしても、その体は土に還ったり他の魔物の糧となるので、そのサイクルをわたくしたちが介入して変化させてはいけない……ということを魔物達は言いたいらしい。

 魔界のことはそんな感じで、なんとか受け入れと共存を模索している。


 クラス対抗戦もあと数日で開催、というところで……。

 ある日登校すると、正面階段前――靴を室内用に履き替える下駄箱前から、クラスに向かう前にある広めの場所――の掲示板に、生徒達が群がっているのを確認した。


 掲示板には、郵便はがき大のメモ帳がいくつも張り出されており、持ち出しは出来ないよう鍵付きの薄いガラスで前面を覆われているようだ。


「何かしら……」


 わたくしも興味をそそられたので、それを確認しに行くと……クエスト依頼状の第一陣のようだった。


『隣町までの配達護衛』『モンスター討伐』『薬の納品』『手品を見たい』……などなど多岐にわたるのだが、中には魔法でも白兵でも支援でもない、それはただの特技だろ、とツッコミたくなるようなものも混ざっていた。

 依頼状には紙の左上に『M-01』『C-01』『S-01』などと記号と番号が振られている。Sは『納品』や『作成』に、CやMは『討伐』関連に多くあるので、どうやら記号は向いている学科の分類、なのかしら。


「もう張り出されていますのねえ……」

「そうだな。開始日時に合わせて一気に始められるよう、一例を見せてるんだろ。随時更新予定、とも書いてあるからな」


 わたくしの呟きに同意したジャンが、掲示板の右下、短冊状の紙に『開催時、依頼が入り次第更新予定』と記載されている箇所を見つめている。

 つまりどの依頼も早い者勝ちということらしい。

 納品や作成というのは比較的楽しそうね。

 わたくしはメモを取り出し、依頼番号と簡単な内容をそれぞれ記載しておく。

 自分と関係の無いところでも、必要になるかもしれないものね。


 でも、たくさん張り出されるようになると、ちまちま記載していくと時間や手間ばかりかかってしまうわ。何かこう、スマホみたいにパチッとカメラで収めて保存~、とか、リアルタイムで閲覧できる機能とか無いのかしら。


 困ったときには魔王様とエリクに聞くのが一番だ。今日魔界に戻るときに、エリえもんに相談してみよう。自分で作ってみなさいといわれるかもしれないから、それはそれで楽しそうだし。


 熱心にメモを取っているうちに生徒の数は減り……予鈴まで鳴ってしまったので、わたくしは慌ててメモを閉じ、スカートを翻しながら教室に向かっていった。



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こめんと

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