今日の授業も終わり。学院では、既に話題は六月の【クラス対抗戦】のことになっている。
クラス対抗と謳っているが、実は学科対抗戦である。
どういうものかというのは事前に説明があったり、担任の先生から詳細を聞いたりしたけれど――自然と耳に届いてくるクラスの会話では、自信ないとか怖いとか、未知なるものに触れる事への恐怖が多いようだ。
かくいうわたくしも、クラス対抗戦に向けて……王都周辺の魔物達にどう働きかけるか、あるいは情報をいち早く収集できないだろうか……ということに意識が向いていた。
武術や魔法に覚えのある方々は、そのときを楽しみにしているようでもあったが――はて。支援学科は何をすれば良いのだろうか。
ちょうどフェーブル先生……わたくしやクリフ王子達のいる、このクラス担当の男性に伺ってみましょうか。
皆帰る準備やご学友とのお話に花を咲かせている間、わたくしは教卓で他の生徒さんとお花している先生に近付く。
先に話していた生徒さんはわたくしに気づいて会釈をすると、早々にお話を切り上げて譲ってくださったので、わたくしもその方にありがとう存じますと礼を告げた。
「お話中のところ大変失礼致します。フェーブル先生、クラス対抗戦について質問がございますの」
「ああ……ローレンシュタイン様。どうぞ、何なりと」
フェーブル先生というジャンより少し上くらいの年若い先生。
わたくしが伯爵の娘ということで緊張なさっている様子だ。
「先生、ここにいる間はわたくしもただの生徒です。皆様と同じようにしていただいて構いませんのよ。難しいのであればせめて、敬語は抜いてくださいませ」
「はは……ローレンシュタイン様がそう思われるのはとてもありがたいですが……社会上、そうも出来ないのはお分かりでしょうに」
きっと、ここを担当するときにいろいろな方々から口を酸っぱくして言われたのだろう、と思うと、このフェーブル先生の苦笑いが悲しげなものにも見える。
「それで……クラス対抗戦の事ということですが?」
「ああ、そうでしたわ! その、対抗戦は白兵学科と魔法学科の依頼数を競う行事だとお話しされておりましたが……わたくし、支援学科としては……対抗期間は、いったいどのようなことをするのでしょう?」
すると、フェーブル先生は『ああ』と深い頷きと共に説明不足だったとご理解してくださったようだ。
「このクラスでは、ローレンシュタイン様……あなたと他二名しか支援学科を選ばれた方がいませんでしたね。困惑させて申し訳ありません」
そう言われた後、そういえば黒いペリースを纏っている人物をほとんど見ていないな、とは思った。そもそも、支援学科は専門的すぎて希望者もそんなにいなかったのだとか。
「支援学科は、戦闘と直接関わりのない、白兵学科と魔法学科からあぶれた依頼の処理です。例えば、道具や薬剤の作成や王都内での運搬、奉仕活動など。学科を超えて協力することも出来ますが……評価は学科分で分けられます」
たとえ戦闘と関わりのないものでも、他の学科の人々が奉仕活動をすることもあるし、納品依頼でも、アイテム作成を支援学科で、納品を他学科が……などいろいろの組み合わせが想定されるという。
先生方も、試してみないと分からないというところがあるようで、どのような問題点や今後の課題が出るかは不明瞭なのだという。おいおい……大丈夫なのか。
「とにかく、今回皆で団結して頑張る……のもありがたいですが、無理そうなら見送るのもひとつの手です」
「ええ、わたくしもそれは考えましたが、それですと……その、個人評価というものに差し障るのではないかと」
個人評価。無印版でもあった、慣れるまで毎回ドキドキのイベントである。
すなわち――……この先の展開に行けるかどうかの生き残りイベだ。
無印版は学科を選ぶとか、そういう項目はなかったからわからないが……とりあえずこのリメイク版も同じだと思う。
数ヶ月に一回学力試験があり、その点数があらかじめ設定された基準値より悪いと先生にキレられ、バッドエンドになる。
そしてタイトル画面に戻され、セーブデータからやり直しになる……のだが、直前セーブしていたりなんかすると悲惨。
やり直しても基準値は変わってないのだから点数をクリアできないと、突破できないんだから結局最初からやり直す事になりかねない。それでも、真面目にやっていさえすれば突破できるはずなので……イヴァン会長ルートほど苦しい問題ではない。かもしれない。
わたくしが話しているのはそのことであり、初日にも『期間評価が基準値よりも下回った場合、学院からの退学があります』と皆は説明を受けている。
すると、フェーブル先生は『評価は半年に一度ですから、支援学科用の文化祭は前期判定内に入ってますよ』などという。
「期間評価は前期・後期の二回だけですから。後期が辛いかもしれませんので、クラス対抗戦で多少の評価を得たあと、文化祭で評価をグンと上げれば、支援学科は一年に一度の査定で済むんですよ」
いや、済むんですよって簡単に言ってくれるじゃない……。でも、確かに楽ではある。
「な、なるほど……非常に参考になりましたわ。ありがとうございます」
わたくしは先生にお礼を言うと教卓から離れ――ちょうどその一部始終を見ていたらしいマクシミリアンと目が合い、軽く手招きされた。
「クラス対抗戦に疑問点があったのか?」
「ええ。支援学科は残った依頼などを扱うことになるようですの」
先生から教えていただいたことをマクシミリアンにもかいつまんで話すと、彼も納得したらしい。なるほどと相づちを打った。
「それなら、リリーティアにも手伝ってもらえることがあれば協力してもらおうか」
「あら。マクシミリアン様なら、クリフ王子とご一緒に活動するもの……と皆存じ上げているのではなくて?」
すると、マクシミリアンの表情が目に見えて曇る。
わたくし、不都合なことを言ってしまったのかしら――と不安になった。
「それなんだが……きみにこんなことを言うのは心苦しいのだが、相談に乗って欲しい」
なんと、マクシミリアンからそんなことを言われてしまった。