【成り代わり令嬢は全力で婚約破棄したい/30話】


 アルベルト・メラス。


 メラス男爵家の三男であり、無印版ではアリアンヌが話しかけると、武器はちゃんと装備したほうがいいとか、ショートカットはどこのキーを押すんだ! とか(どうでもいいような)助言をくれたりする、非攻略対象で黒髪黒目の男の子だった。


 そういうしょーもない会話しかないので、他のモブと同じく影が薄い……と思いきや、他のモブと違って、しっかり会話ウィンドウに顔グラフィック(割と可愛い顔)だけは出ているし、学院の選抜……という、学力テストみたいなものもラストイベント手前くらいまで残っていたのだ。


 そういうわけなので、実力だってそこそこあったようだが……顔グラフィックがあっても立ち絵がないという不可思議な男の子。


 まさか隠しシナリオキャラなのでは? と探したピュアラバガール達も多かったのだ。


……が、メーカーと乙女系雑誌の対談企画があったとき。


「クリフ王子がいれば地位的にアルベルト(男爵家)の上位互換になるでしょ。説教ならマクシミリアンができるって事に気づいちゃって。だから彼は攻略対象から降格になった。でも、顔グラフィックだけは残ってるんで、じゃあ使っちゃおうっていう(笑)」


 というかわいそうな記載があった。


 だが、彼はイベントに一切絡むことのないモブ。


 NPCであったセレスくん(実際リメイク版は未プレイなので、セレスくんもリメイク版で昇格したかどうかは定かではない)とは扱いが全く違う。


 セレスくんはアリアンヌの覚醒イベントに携わることになっていたので、普通に顔グラフィックも専用立ち絵もあれば、なんとスチルにも単独で載っている。


 アルベルトは共通モブの姿なのに、顔グラフィックがあったから違和感があったわけで……。


 そして今回、そういうニッチ好みなファンの声を拾い上げたのか、あるいはキャラを増やすことになったから彼の出番を増やされたのか……は定かではないけど、アルベルトは以前の面影が全くなさ過ぎてびっくりする。


 これは……生まれ変わった、ということなのかしら。


「……マクシミリアンから聞いた話では、一族に突出した才能はなかった……けれど、アルベルトは努力して近衛騎士団に入ったそうです。ご当主はとてもお喜びのようですわ」

「ふぅん。その近衛から選出されたってんだから、期待か実力の高い奴なんだろう、とは考えたんだがな……」


 しかし、ジャンの表情はつまらないものを見るときと同じように、目の輝きがない。口も、への字に曲がっている。


「――……あいつ、剣は強くない」

「え? でも……うぅん……」


 でも、剣を持っているのだから剣も使えるのでしょう? と言いたかったが、元々無印版ではアルベルトに魔術の才があった。だから、わたくしも剣士になっている彼に違和感を覚えたのだ。


 今作のわたくしが才能を隠して行動するのと同じように、彼も……いざとなったら魔法を使うのかもしれない。気になるし、肝心の資質はセレスくんに見抜いてもらうか……。


 ぽそぽそとわたくしとジャンが会話をしていると、予鈴が鳴る。

 もうちょっとで先生もやってくるだろう。


 朝からクリフ王子の大騒ぎに巻き込まれてしまっているので、もはや既にダルい。


「……今日はもう、何事もなく終えたいところですわね……」


 と、本音をふんだんに載せた独り言を呟いた。




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こめんと

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