【成り代わり令嬢は全力で婚約破棄したい/9話】


 おじさまという感じがピッタリの学院長が『代行者候補生の皆さん』とわたくしたちに呼びかけたことで、ああ、ここは変わらないんだなときちんと理解した。

――代行者候補生。

 まず【祝福者】という存在ありきの【代行者】なわけで、わたくしたちは代行者……というものになる要素を持った人々、ということになる。

 要素も玉石混淆(ぎょくせきこんこう)。全員代行者になれるわけじゃない。

 だんだん細かな条件を付けていき、ボーダー以下を選別して落とすって訳だ。これは無印版から変わってない。

 努力不足で落とされると先生に叱られるバッドエンドになる。


【祝福者】とは、精霊の加護を得た人間のこと。


 要するに聖人とかそういうようなもの……だと思う。

 世界にほんの数人くらいしかいない……らしいが、まだ見つかってないっぽい。


 見つかったところで、経験を積ませなくちゃいけないから、年を取り過ぎても幼すぎてもいけない。

 一応アリアンヌもソレ……にゲーム中盤終わりくらいから目覚めるはずだけど、彼女は【戦乙女】っていうもっと特別なものだから【祝福者】に含めていいかどうかは微妙なところだ。


 では、なぜ【祝福者】というのがそんなに欲されたかというと、魔族と戦うためだ。

 これはわたくしが魔界にいたから分かることなのだけど――……地下に住む魔族と地上の生物は、作り出した神様が違うのだとレトが言っていた。

 だから地上の生物たちにはそれぞれ細やかなバランス調整があって、魔界の生物たちは強靱であるという大雑把な設定になっている。

 闇の力というか……まあ、目に見えない魔界のオーラ? バリア? みたいなものでも守られているらしい。


 だから、高い防御力だけでも厄介なのに、普通の武器ではそのバリアに邪魔されて、戦闘も不利になるのだ。


 たまに思ったより防御力が高くない奴もいるようだけど、それは魔物じゃなくて怪物、という……地上で生み出されたものらしく、別の種類なのだそうだ。


 魔物と怪物が違うということだけ覚えておけば良いにしろ、地上の人々はそれらを同一視する。というか区別が分からない。


 わたくしもそうだったから、魔王様からありがたーいプレゼントを貰っている。


 ともかく、精霊の加護を受けた【祝福者】は、魔物のバリアを無効化して攻撃を加えられるわけだ。


 だから人類としては【祝福者】が欲しくてしょうがないんだけど、先の説明の通り、そんな特殊な人間見つからない。


 だから――……妖精達を捕まえて、人為的にその能力を出す魔具(アイテム)を作り出した。

 その魔具の力を引き出して【祝福者】の代わりに戦う……のが【代行者】なのだ。


 この学院は、代行者候補生を作り出すため――魔族相手に互角以上の力を持って戦うための――知識や能力を有した戦士を育成する学院、ってわけ。

 立ち位置的に人類の敵となるわたくしは、その魔物たちが犠牲になる前に見つけて、レトたちに知らせ、魔界に戻して貰う……という事をひとまず考えている。

 候補生としての才能=魔物を手に掛けた数

 という事にも繋がるわけで、そんなことするわけにはいかないって感じ。


 白兵科も魔法科も選ばなかったのはそういう経緯だ。


 ただ、わたくしが久々に錬金術やりたかったから……っていうのもある。

 一人で今までのおさらいをしていたら、校長が何を話しているのかを聞きそびれた。多分『これから一人一人自覚を持って頑張ってください』的な話だろう。

 次は祝辞……というところで、アリアンヌがそわつきはじめた。


 見れば、壇上にはクリフ王子らしき学生と……緑色の毛先が白になるグラデ髪の生徒もいる。

 式のプログラムは新入生の代表挨拶に移っていたようだ。


 あれは……セレスくん。


 よかった、ちゃんと学院に来ていたんだ……!

 クリフ王子……クリフォード・ディタ・フォールズ第一王子は無印版のメイン攻略者だから、まあ顔がいい。


 そしていかにも優等生っぽい感じの雰囲気で、壇上では『王族のなんたらー』『生徒としてうんぬんー』……と話しているけれど興味が無い。


 軽いくせのある柔らかそうな金髪と、穏やかそうな翠の目で微笑む、人当たりの……いや、今考えるのは止めよう。どうせ後で嫌でも会って話すことになる。

 クリフ王子の話が終わると、アリアンヌは通常の三倍くらいの速さで拍手していた。そんなに感動するところあったのかしら。

 続いてセレスくんが一礼し、自己紹介をしながら生徒の顔を見渡し、落ち着いた様子で『教会からの祝辞を預かっております』と言いながら胸のポケットからそれを広げて読む。


 やっぱり教会も『神のご加護がどうとかー』というもので終わるのだが、読み終えた後、わたくしと一瞬視線がかち合い……、セレスくんはほんの少しだけ微笑んだ気がした。

「セレスティオさんも生徒だったんだ……」

 アリアンヌが意外だというような口調で呟く。

 セレスティオ・ニコライ・マスロフ。通称セレスくん。


 中性的な顔立ちのため、男性なんだけど、ふと笑った顔とかが女性っぽくも見える……という、教会の神秘性を体現するに相応しいような人だ。


 彼は人の資質が分かるというすごい特技があり、無印版ではアリアンヌの覚醒イベントに携わるNPCという、重要な役割があった。今回もそれをさせられるかもしれないな。


 セレスくんは魔法学科なので、ペリースとネクタイの色がネイビーブルーだ。


 どの学科の色も可愛いな。


「王族と教会はこの国の二大権力だ。教会からの生徒も必要で、学院に結構いる」

 と、マクシミリアンが小声で彼女に教えていた。


 セレスくんからは以前から学院のことを聞いていたし、多分通うだろうということも知っていた。だけど、実際にいてくれると安心する。


 セレスくんはラズール司教様の養子、つまり教会側の人間でありながら――……わたくしたちの仲間なのだ。



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こめんと

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