【魔界で従者を手に入れました/45話】

……私たちは、クライヴさんの首にはまったチョーカーと、彼の様子にどんな変化があるか、固唾を飲んで見守った。

「……どう、ですか? 何か苦しいとか……」
「いや……?」

なんでもない、と言ったクライヴさんだったが、数秒も経たぬうちに『うっ』と声を上げ、苦悶の表情を浮かべると上半身を丸めてしまったではないですか。


ま、まさか……人間の血じゃダメだったのかも……?!


どうしようと焦った私だったが、ルシさんが『落ち着いてください』と言い聞かせてくれて、頷きを返した後一緒にクライヴさんを見つめる。

「……あ……!」

ルシさんが驚愕の声と共に目を見開き、ヴィルフリートもそれに対して頷いている。

また状況が分かってないの私だけなんだけど。

「――あの、どうなったの?」

もうこのセリフ言い飽きたよ。おバカキャラみたいだもん。

「ルカさんの……人間の血で大丈夫なようでしたよ。クライヴさんの身体に清い魔力が、戻ってきています」

ルシさんの優しい笑顔に、私は自分のやったことが無駄ではないことを知り、半笑いの顔で(半笑いって自覚はあるんだよ)クライヴさんの様子を見た。


なんということでしょう……!

あれほどズタボロだった青年は、ヴィルフリートという匠が技巧を凝らしたチョーカーの魔力で、かつての姿を取り戻しているではありませんか!

腹部の傷はどこにも痕跡すらなく、白い素肌とくっきり綺麗に割れた腹筋を見せている。

生気を失っていた顔には、若干の赤みが差していて……その瞳に力強い闘志も感じた。


うん、これはいつものクライヴさんだ!!


「よかった……! クライヴさん、おめでとう。元に戻ったんだね!」

掌を閉じたり開いたりして、身体の感覚を探っているらしいクライヴさんへ、私は祝福の言葉を口にした。

「……そうだな。君には礼を言わねばいけない。ありがとう。助かった」

と、小さく頭を下げてくれた。


……クライヴさんが。

驚きはしたけれど、私に優しいなんて……これは事件だ。

で、でも、結果として助けたことになったら、人としては礼を言うのは当たり前だよね。

だから、クライヴさんはデレたわけじゃない。

「う、うん。これくらい、平気だし、気にしないで」

何故か挙動不審になってしまう私。

いやー、素直に礼を言われるって思ってなかったもんで。


「……ん」

クライヴさんは会話を打ち切るかのように咳払いを一つしてから、自分の剣をもう一度じっと見つめていた。

そして今度は恐る恐るという感じで、そーっと剣に手を伸ばし……剣の柄を力強く握りしめた。

まさか、また大火傷しないだろうか? そんな勝手な心配をしてしまったので私も一瞬身を固くしたものの、ジュッともいわず煙も出ず、剣はもともとの主、クライヴさんの手に収まっている。

「……聖剣もわたしを拒んだりしないようだ。もう、危惧するところは……何も、ない」

深く頷いたクライヴさんは、ソファに腰掛けて聖剣を抱え、大きく息を吐いた。

それは喜びを素直に表現していないためか、いろいろ疲れたせいか……。クライヴさんは顔を上げず俯いたまま、ずっとそうしている。

この人、静かに喜ぶタイプなのかな。もっと喜んでいいのよ。

そう思っていると、ヴィルフリートが愉しげに『おやおや』とか言い始めた。

「そういやルカ。お前……今ムラムラしてるのか?」
「は? ……今。どこでどういうタイミングでそんなこと考えるわけ? するわけないでしょ」

バッカじゃないの? と軽蔑じみた目を向けると、ヴィルフリートがニヤリと笑った。

何怒られて喜んでんのこいつは。私またからかわれてる?

「俺は、前に人間が欲情している匂いがわかるって言ったよな。
ルカがそうじゃないというのなら――ここに『人間』はもう一人いるから、そっちからか?」

どうなんだよ、とヴィルフリートは……あろうことか、クライヴさんへと視線を投げる。

無言だったが、微かにクライヴさんの肩が揺れた気がした。

「わたしが? ……そんなはずはない」

心外だと言いながらクライヴさんはヴィルフリートをキッと睨みつけるが、ヴィルフリートもそれを受け止めつつ、ニヤニヤと気持ち悪く笑っている。

「なるほど、なるほど。今回はそれが副作用って事か……良かったじゃねぇか、その程度で済んで」

中には副作用で訳の分からないことを騒ぎっぱなしになる奴だっているんだぜ、と言い、クライヴさんのチョーカーを指でつつく。

「言っておくが、俺がわざとそういう風にしたわけじゃない。するんだったら、もうちょっと楽しいことを考えるぜ?」
「信用できんな……! それに、してないと言っている!」

明らかに不快の色を見せるクライヴさん。だが、こうあってはヴィルフリートのほうが攻勢のようだ。

「俺を信用するなっていったろ?
ああ、そうだ。言っておくが。その宝石、一度血を吸わせればいいってわけじゃないぜ」

もう悪役以外のなんでもなくなっちゃってるヴィルフリートが、意地悪くクライヴさんに忠言する。

すると、当然クライヴさんもその件には反応を示した。

「なに?」
「血は何度も必要なんだ。定期的に吸わせるために。
俺も、てっきりお前の血を吸わせておけば大丈夫だと思っていたんだが……ちゃんとした『人間』じゃないとダメみてぇだな」

人間……まぁ、つまりこの場合は私が最有力候補であるわけか。魔界にいるなら。

ということは、定期的に私は献血しなくちゃいけないんだな。この宝石に。

「それじゃ、クライヴさんはウチにずっといなくちゃいけないんじゃないの?」

私が思ったことを口にすると、ヴィルフリートもすぐに頷いた。

「ま、そうなるな」
「――ウァレフォル! そんなふざけた話、聞いていないぞ……!」
「しなかったし聞かれなかったし、忘れてた」
「無責任すぎる……!」

クライヴさんの非難は尤もだよ。噛みつかんばかりの勢いを持ったクライヴさんと、それを適当にあしらうヴィルフリート。

二人のやりとりに、思わずルシさんが『あの』と口を挟んだ。でも、仲裁というわけではないみたい。

「クライヴさんは、その……体の時間を止める首輪? の副作用というのが……性的欲求なのですか?」
「そんな欲求は感じていない!」

断固否定するクライヴさんだが、ヴィルフリートが嘘付くなよとからかっている。

「実際匂うんだからしょうがないだろ。ルカがそう思ってないんだし」
「わたしも思っていない」

否定しまくるクライヴさんに、ヴィルフリートが半眼のまま『へぇー』と口にする。あ、またこれ何かワルい事考えてるよ。

「――不感症のクライヴがそうまで言うんだったら、ルカが欲求不満なんだが嘘を付いている……って事なんだよな?」
「……それは……そういうことも、ないとは言い切れない」

いや、本当に違うし! 私も否定しつつクライヴさんを睨みつけたら、クライヴさんはそっぽを向いた。

顔は確かに、まぁいつもより……健康的な色だ。赤みがあるって感じの。つまり恥ずかしがっているのだろうか。

それにしても、クライヴさん……つまりあんた私を犠牲にして自分だけ助かろうとしてるね!?

「ルカ、クライヴはムラムラしてねぇんだとさ。
だが俺の鼻は誤魔化せない。絶対に人間が欲情してる匂いだ。
で、お前がどうにかしてほしいんだって結論にいきつく……ルシエルと昨日はしたのか?」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ。私本当に何にも……」
「どうなんだよ、したのか」

うわあ、公開セクハラだよ。

私が主人だよね。なんで従者に……まあ、恋人だとしてもなんでこんな事……。

クライヴさん。許さないからね。

「したのかよ」
「……してない」
「ほー。まあ、してる暇もなかっただろうしな。
とはいえ、朝は俺の番だから、たっぷりしてやらないといけないな」

服脱げ、とあっさり言ってくるヴィルフリートに、私はかなり動揺した。

「や、やだ。私じゃないってさっきから言ってるよ!?」
「いーから脱げ。ちゃんとルシエルも混ぜるから」

脱げ、って催促してくるけど、クライヴさんいるんですけど。

「……こ、ここで?」
「当たり前だろ。お前の寿命が縮むと困る」

クライヴのことは気にしなくていい、とか平気で言ってくれるヴィルフリートだけど。

やだよ、そういう露出の趣味はないよ。っていうかなんだ、あんまり寝てないからそういう……いきなり三人はちょっと困る。

「……わたしは席を外そう」

そう言って立ち上がろうとするクライヴさんだが、中腰になったところで困ったような顔をして――そのままソファにまた腰掛けた。

「どしたのクライヴさん? 貧血?」
「そ、そんなところだ」

声までうわずって、額に手を置いてからそっぽを向いて頬杖をつく。微妙にぎこちないな、この人。

「……お困りのようですね、クライヴさん。立てないんでしょう? バレてしまいますから」
「ルシエル……君まで」

ぽむっとクライヴさんの肩へ手を置くルシさんは清々しい顔をしているのに、なんでか……邪悪に見える。

辟易した顔をしているクライヴさんには、私が見ているものより数倍強く感じているみたい。

「ルカさん。では、脱いでください」
「ルシさんまでっ!?」

この家の人たちみんな頭がおかしいよ!!

「人間の道徳は要らないんだよ。脱がねぇなら脱がすぞ」

苛立ってきたらしいヴィルフリートは、私の肩を掴んで服の裾を引っ張る。

「ぎゃーっ!? バカ! 変態!」
「痛ぇな! 叩くんじゃねぇよ!」

ヴィルフリートの頬に掌を置き、引き離そうと力を入れたんだけど、ヴィルフリートも引き下がらない。

イケメンの顔を歪めるという犯罪的な所行をしている私の身体を強く押し、座ったままのクライヴさんに押しつけた。

「クライヴ。ちょっと押さえてろ」
「なっ」

ぐいぐいと自分の胸板に押しつけられた私を、とんでもないものを見るような顔をして動きを止めたクライヴさん。

私を押さえるわけでもなく、手を宙に浮かせたまま、いわゆる降伏のポーズみたいな感じで固まっている。

「……クライヴさん。ルカさんを捕まえてあげていてください」
「そんなことできるわけないだろう! 君らは何を考えているんだ!」

そうだ、クライヴさんもっと言ってやれ。今や君だけが頼りだ……さっきの事は別として。

私、自分のスカートを押さえるだけで精一杯だから。

「っ~~、あー! 面倒くせえ! ルカ、抵抗すると服破くぞ!」
「冗談じゃないわよ! あんたこそ、私の言うこと聞いておとなしくしてよ!」
「お前こそ、セックスの最中はおとなしくなるって約束だったろ!」
「人がいるときと、気分じゃないときは別!」
「汚ねぇぞ! その気にさせてやるから任せておけっ」
「任せられるかぁーっ!」
「もう、お二人とも。みっともないですよ……」

ガルガル言い合いをしている私とヴィルフリートの間に手を差し伸べるルシさん。

「さぁ、ルカさん両手を僕の方へ……」

天使の微笑みを浮かべ、ルシさんが私に両手を差し出す。

うう、やっぱりルシさんが一番頼りにな――……。


ルシさんはニコニコ笑顔のまま私の手ではなく、なんと服の裾を掴んで引っ張り脱がす。

きょとんとする私と、目の前で繰り広げられる様々な痴態に、クライヴさんは見ていられないらしく目を閉じた。

「服は素直に脱いでください。ルカさんの健康が最優先です」
「ル、ルシさんのばかーっ!」

悪く思わないでくださいね、とすまなそうに言いながらルシさんは今度こそ私の手を取って、クライヴさんの首の後ろへ引っ張る。

だが、この体勢では、私はクライヴさんに抱きつくような格好になるわけだ。

「少し失礼しますね」

なんと、今脱がせた服で、私の手首を器用に縛る。

『……な』

絶句する私とクライヴさん。なにこれ、とか、なにする気、とかそういう『な、から始まる疑問符』を内包した『な』だった。


「素直に従ってくれりゃ、痛くしねぇよ」
「はい。あなた方をよい方向に導くためのお手伝いを致します」

目の前で満面の笑みを見せている天使と悪魔は、私たち人間に対して何か恐ろしいことを実行しようとしているようだ。


「まずは、ルカ。クライヴのチョーカーにキスしてくれ」

ヴィルフリートがクライヴさんの喉元あたりを指し示して、やれと命令してくる。

「なんでよ」
「お前の為だよ」

どーしてそれが私の為なんだよ。意味わかんね。

ぷぅと頬を膨らませて否定の意を示してみるが、いいからやれよと取り合ってくれない。

渋々クライヴさんのチョーカーに顔を近づけるけど、クライヴさんから言葉にならない呻きが漏れる。

「……怖いよクライヴさん」
「変なことをしないでくれ」

……私だってしたいわけじゃないよ。

しかも、すごい拒絶されてるのは傷つくんですけど。

「クライヴさんにするわけじゃないから」
「それはそうだが――っあぁ、っ……!」

言い終わらないうちに、私は竜のシンボルにキスをすると……クライヴさんが小さく声を上げて、顎を仰け反らせた。

びっくりして唇を離したら、変な光の筋が後をひく。

「そのまま……そう、じっとしてろ。喋るな」

ヴィルフリートは私の唇からその光の帯? を指にとると、クライヴさんのチョーカーのほうからもその光を取って、端と端をくっつけて円状にする。

「――……」

何か口の中で呪文を軽く唱えたヴィルフリート。

光の環は強く発光してからその輝きを霧散させ、ヴィルフリートの手に残っているのは……金色の細い腕輪。

「これは、クライヴとお前の媒体。
これがある限り、クライヴが吸血鬼化してもお前を襲えなくなる……というより、お前の意志でクライヴを殺すことも飼い慣らすこともできる。アミュレットだと思え」

ぱちん、と私の手首にはめてくれたが、それに納得いくはずもない。

「飼うだと!? それはどういうことだ!」

クライヴさんが身を捩って抗議するが、ヴィルフリートは『決まってんだろ』と悪びれもなく返す。

「うちの主人の防衛は優先だ。ルカはいわば、お前に命を与えている側。
血が無ければ、首輪があってもお前の身体の時間は進む。つまり吸血鬼になる。
ルカではなく、他の人間の血を吸わせることもできるが……その場合、数滴じゃなく一人分必要になる。
クライヴ、お前数日か数週間生き延びるためだけに、人間一人の命を犠牲にできるか?
今じゃ人間は貴重だ。お前の為に、何人も人間を殺してたら俺たちは魔界の賞金首になれるぞ」
「えー……と。つまり、この宝石に血を吸わせた人の血じゃないと、効果が発揮できない? ってこと?」
「んー。効率よく発揮できない、だな」

訂正するヴィルフリートに、クライヴさんは『では』と聞き返す。

「彼女が死んだ場合は?」
「……お前がどうするかだな。
生き延びていくために人を殺すか、自分で首輪を外して灰になるかだ」

灰? と私が聞き返すと、察しが悪いなと嫌味まで言われた。


「クライヴの【身体】の時間……つまり【体外時間】は止めているが【寿命】という【体内時間】は流れている。
だから、クライヴは外見が変わらないまま生きてるってだけだ。
で、寿命が尽きればそのまま死んでるし、首輪を外せば、今まで止めていた時間が一気にクライヴに流れ込んでくる。
すると、その急激な変化に耐えきれず、クライヴは灰になるってわけだ。元々、そのままじゃ吸血鬼になっちまってるはずだしな。
血を吸わないまま生活していたわけで、吸血鬼に必要なものが何一つ入らないままだったから、身体を形成できるわけないだろ」
……わかったような、わからないような。
「装着していてもクライヴさんは死んじゃうんだ……」
「で、その外す権限・外さない権限・どちらかの寿命まで生かしてやる権限を、血液提供者のお前が持ってるわけだ」

ほうほう。なるほど……って。


「……あのさ。それは、クライヴさんの意志とか人権とかそういうのは……」
「必要ない。クライヴは苦難に耐えると言ったからな」

あっさり一蹴。

清々しいまでの無視っぷりに、私は二の句が継げない。

弁護士さんやそういう団体がいたら、さぞ儲かるな魔界は。

「最低だなぁ……」
「褒め言葉をどうも。下着姿のご主人様」

恭しく礼をしてみせるヴィルフリート。確かに私は脱がされて下着姿だけどさ。

「じろじろ見ないでよ……やらしいな」

ヴィルフリートの楽しげな視線から逃れようと、身を縮める私。

必然的にクライヴさんのお膝にのっかってるような状態になってるんだけどさ。

でも、一瞬太股に硬いものが当たって、瞬間クライヴさんは身体を大きく震わせた。

「……あっ」

今の、太股に感じるこの硬いのって……ベルト、じゃないね……。

「…………」

上目遣いにクライヴさんを盗み見れば、彼は視線を外して黙りこくっていた。

つまり、これはアレだろう。

「クライヴさん、やっぱりエッチなこと考えてるんだ」
「違う! これは首輪の影響で――」

つまりは副作用じゃないか。

「というわけで、だ。
ルカ、クライヴには可哀想だが、こうして血液供給者に欲情する体質になっちまった」
「はぁ!?」

つまり、クライヴさんは……わ、私にそういうやましい考えを抱いているという事?

「なんとかしてあげてよ!!」
「できることは何とかしてやっただろ。
俺だって予想外だ。けど、こうなった以上、お前も手伝えよ。一番クライヴを助けたいって言ってただろ」

そ、それはそうなんだけどさ。

「僕らも、主人の意向には逆らえません。
ルカさんが助けたいと賢明に訴えたのが偽善ではないのでしたら、ルカさんのお力も借りたいと思います」

真顔でそれらしいことを言ってくるルシさん。どうにもできないってさっき言ってなかったっけ。

なんか、もう逃げられない気がしてきたよ……。

クライヴさんも心なし不安そうである。

「……どうしたら、いいの……?」

一応聞いてみる。と、ヴィルフリートは、本当はイヤなんだけどな、と前置きしてから……。


「お前の従者みたいなもんだ。お前が何とかしてやってくれ」
「わたしは従者じゃない! 君らと同じ扱いにしないでくれ!」

あ、従者というキーワードがクライヴさんの逆鱗に触れた。

我慢出来ず立ち上がったクライヴさんは激怒するが、私がずり下がってきたので思わず支えてくれたらしい。

「従者、じゃ……ない」

途端、文句は弱々しく消えていく。

「まぁ、俺たちとは【同じ】じゃないぜ。ルカはお前のこと大好きでもないしな」

後がつかえているから、さっさと終わらせてくれ。

そう言って、クライヴさんを無理矢理ソファに座らせると、私のブラをずらして胸をはだけさせる。

「ひゃっ……!?」

ぷるんっ、と弾むおっぱいに、ヴィルフリートの手が伸びてきた。

「うちのお姫様だ。大事に扱ってくれよ、クライヴ」

胸を揉まれ、首筋にキスを落とされただけなのに、私の身体がじわじわ熱くなってくる。

「ルカさんは胸も弱いんですよ」

クライヴさんの耳元で、ルシさんが囁いている……変なことを吹き込まないでほしい。

「ルカ。どうだ? イイのか」
「ん……ッ、言わせないでぇ……」

言わせないで欲しいんだけど、私の身体がピクピクと震えるので、クライヴさんにもみんなにも伝わっているみたい。

気がつけばクライヴさんもじっと私を見ているし、ルシさんは私の乳首を指で摘む。

「ぁふっ……」
「厭らしいお顔ですよ、ルカさん……。
クライヴさんがたまらなくなってしまうじゃないですか……」

触ってあげてください、とクライヴさんに言いながら、ルシさんは手を離す。

クライヴさんは逡巡し、己の欲望に従ったのか、ルシさんのせいなのかはわからないけれど……私の胸にゆっくり手を伸ばし、乳房に触れると僅かに手を引っ込めたが、すぐに躊躇いなく鷲掴みにした。

「ああっ……!」

具合を確かめられているみたいにぐにぐにと指を食い込ませて、揉むというか絞るというか……荒々しい手つきで胸は弄ばれる。

ヴィルフリートやルシさんのそれとは違う感じに、私はつい声を上げてしまった。

「柔らかいな……」

ぽそ、とクライヴさんの口から漏れた感想がなんだか恥ずかしくて、私の身体が羞恥で熱を帯びる。

「は、ずっか、しいぃ……んッ、っァ……」

親指の腹で乳首を擦られたり、人差し指で埋没させられたり。

クライヴさんは胸ばかり虐めてくる。

「ひ、んッ……、クライヴさぁん……。おっぱい、好きなんだ……」
「あ……いや、そういうわけでは……」

はっと顔をあげたクライヴさんは、ルシさんとヴィルフリートの様子を伺っている。

私からはヴィルフリートがどんな顔をしているのかはわからないけれど、ルシさんが再び近づいてきて、私の髪を後ろに払いながら、ブラを取り去る。

「胸だけではイヤだと、仰っていますよ……」

クライヴさんにも、そのままでは服が汚れますよ、なんて言いながら笑っている。

なんで、今日のルシさんは笑っているんだろう。

いつもだったら張り合って、こう……邪魔したりするのに。

「ルカさん。足をあげてください。ショーツも脱いでしまいましょう……?」
「で、でも……そこはっ……!」

ヴィルフリートとルシさんしか……!

焦る私に、ルシさんは耳たぶを甘噛みしつつ囁いてくる。

「クライヴさんも、仲間にしてあげてください……。
大丈夫です、貴女の心は僕のものだというのは分かっています……」

他の人が言ったら噴飯ものであろうセリフをさらっと言って、ルシさんは私にキスをする。

「ん……」

舌がぬるりと侵入してきて、自分の舌と絡められた。ルシさんもヴィルフリートも、キスが上手なんだよね……。ヴィルフリートは当然だとしてもさ、初めから上手なルシさんは天からの才能だよ。天使としてはいらない才能だっただろうけど。

ルシさんの唇、柔らかいなぁ……。

余分な力が抜けて、ちょっとうっとりしちゃったところに……下腹部、つまり自分のアソコに触れてくる感覚があった。

「お。割と濡れてるじゃねぇか」

ヴィルフリートの指が、私の秘所の割れ目をなぞっていたのだった。直に。

油断していたので、そのゆっくりとした刺激には敏感に反応してしまった。

「あっ……! ん、むっ……」

ヴィルフリートに淫裂をまさぐられ、ルシさんには唇を塞がれつつ、私はクライヴさんに跨っている。

そんなクライヴさんは、まだ私の胸を愛撫していた。

あちこちからの刺激に、堪えることが出来ずに身悶えしてしまう。

こんなにいいようにされちゃっているから体の内側がじわじわ熱くて、ちょっと切なくなってきちゃう……。

ヴィルフリートの指が溢れ出る愛液を絡め取り、陰核を円を描くように撫でてくる。

「――クライヴ、見てみろよ。もうこんなになってるぜ……?」

指で陰部を軽く叩いて、クライヴさんの注意を引いたヴィルフリート。

もうだいぶ濡れているのは自分でもわかっているけど、軽く叩かれているだけなのに、ぴちゃぴちゃと厭らしい音が室内に響いた。

「い、やあぁっ……! やめてぇっ!」

それがすごく恥ずかしくて、顔を覆いたくなるほどだったけれど、手は縛られているからそれも行えない。

「止めてほしくないくせに……ここで止められても辛いだろ?」

私の身体をいじり倒しておいて、何を勝手なことを……!

指で叩くのを止めた後、ヴィルフリートは私の陰部……ビラビラの所……を指で開き、眉を潜めて苦しげな顔をしているクライヴさんを見つめながら喉奥で笑いながらどうだ、と口にする。

「クライヴも、そろそろ満足したいようだ……ルカ、お前も欲しいか?」

そんなこと、言われても……。

「でも……」
「お前のお陰でクライヴは助かってる。ここまでやったんなら、最後まで面倒見てやれよ」

うー……。確かに放置はできないけどさ……。

「怒らない……?」
「別に?」

面白くはないが、今回ばっかりはしょうがないだろと笑っている。

……なんか。みんな、クライヴさんには甘いような。人間だから男も特別扱いなのかな。

確かに、ここまで来ちゃったら……後にも引けないよね。

クライヴさんも乱暴しないだろうし、人助けだって思おう……。というか、思うしかない。


「ク、クライヴ、さん……」

あまり言わせないでほしいんだけど、多分この人言わないと分かってくれないんだろうな……。

アソコを広げられながら荒い息を吐き出す私は、さぞかし変態に見えるだろう。

欲情しながら……来て、とまで誘ってるし。

すると、クライヴさんは駄目だ、と首を振った。

「君に、これ以上そういうことは……できない」

自分だって苦しい癖に、クライヴさんは拒否をし続ける。ちゃっかり乳揉んだくせに。

「どうして?」
「……理由は聞かないでくれ」

理由とかあるのか。ちゃっかり揉んでるくせに。

ちら、とヴィルフリートを伺うと、彼はやっぱり知っているようで曖昧な笑みのまま肩をすくめる。

「女の誘いを断るなんて、愚か者のすることだな」
「あんたが言うと、どっちが愚か者なんだかわからないけどね……」

私の指摘に、一度軽い咳払いをして場を濁したヴィルフリート。

でも、埒があかないと零して、私にクライヴのアレを引っ張り出せと命じてきたではないかっ。

「無理だよ!」

クライヴさんの頭の後ろで手をヒラヒラ振ってみると、おお、そうかと間の抜けた言葉が返ってくる。

「じゃあ、ルシエル……」
「僕がやるんですか!?」

ルシさんに衝撃が走る。クライヴさんも同じようにぎょっとしていた。

二人は顔を見合わせ、野球のサインを拒否する選手たちみたいに首を横に振りあっている。

「やれよ」

お前がやれよ。と、ルシさんでさえ思っているに違いない。

「…………よりによって男の人の下着を下げるなんて……」

泣きそうな顔をしているルシさん。クライヴさんもすごく嫌がっているが、これじゃ勃つものも勃たなくなっちゃうんじゃ……。

「ルシエル、後生だからやめてくれ」
「僕も好き好んでやっているわけではありません。ルカさんのためですルカさんの!」

クライヴさんがルシさんの肩を押しのけようとするが、半ばヤケを起こしたルシさんは退こうとしない。

ベルトのバックルを外し、なんか古風な白いパンツ(ボクサーパンツみたいなやつ)を引っ張るルシさん。

「足に力を入れないでくださいっ」
「こんなことをされては、入れたくもなるだろう!!」

互いの顔が悲しげに歪んでいるので、なんだかどっちも不憫に思えてくる。

悲しい攻防戦の後、下半身丸出しになったクライヴさん……。

なんか、クドラクに噛まれた後より悲壮感に満ち溢れているんだけど。

「大人しくしてくだされば、誰も傷つかなかったのに……」

もう半分泣いているんじゃないかというような顔をしているルシさんは、脱がしたズボンを綺麗にたたんでいる。

当然、男に服を脱がされるという体験をしたクライヴさんのアレは猛々しさを失ってしまっていた。

「……念のため聞くけど、クライヴさんはもうエッチな気分なんか無くなってない?」
「まだちゃんと残ってる」

真顔でヴィルフリートが言うんだけど……本当かよ。もうクライヴさん、目が死んでるよ。

「……じゃあ、ちょっと失礼しますね」

もぞもぞとお尻を浮かせつつクライヴさんのお股に自分の秘所を近づける。

「なにを……」

怪訝そうなクライヴさんだったけど、悲しいことに私もいろいろと魔界に来てから、性の知識を植え付けられてしまっているんだよね。

クライヴさんの厚い胸板に、自分の胸を押し付けて首筋に軽くキスをする。

ちゅ、ちゅっと軽く唇を押し付け、時折ぺろっと舐める。

傷は治ったとはいえ、ちょっと血の匂いがするクライヴさん。

これは体に染みついた匂いなのか、それともさっき流れた血なのかな。

好きな匂いじゃないけど、きっとクライヴさんだってこの匂いは好いていないよね……。

「クライヴさん……ごめんね、はしたないことして……」

下のほうも、お尻を左右にゆっくり振ってクライヴさんと自分の性器を擦り合わせた。

すると、だんだんクライヴさんの身体(主に下のほう)も反応して、さっきまでへにゃへにゃだった男根は、また力を取り戻してだんだん逞しくなっていく。

陰部と剛直が密着して、擦れる度に快楽が下腹部から広がっていく。

「ふぁっ、あぁん……!」

気が付いたら、私はクライヴさんの頭を抱きしめながら、腰をくねくねと淫らに振っていた。

私ったら、凄く淫乱みたいになってるよぉ……!

「ごめ……はぁ……っう、クライヴさん、ごめんなさぁい……気持ち良くてとまらないのぉ……も、欲し、よぅ……!」
「……だから、君はだらしがないと言っているんだ……!」

クライヴさんは私を叱るようにして、ぐいっと腰を掴むと――私の花弁を肉棒でかき分けて、一気に蜜壺の中へと突き進んでくる。

「あ……! あっ、はうぅっ……!」

一気に入ってきたクライヴさんので、私のナカが、擦れ、てるッ……!

アソコは十分すぎるほどには潤っていたので、挿入も難なく出来たんだけど、あまりの気持ち良さに、一瞬頭の中が真っ白になる。

クライヴさんも、気持ちいいのかな?

表情を読まれないようにしているのか、感情を堪えるように、口を引き結んでいた。

しかし腰はまだ強く打ちつけてくるし、胸を弄る手はそのままだ。

すっかり快楽と興奮で硬くなった乳首を摘まんでは、乳房全体を掴むように揉みしだく。

「くふぅっ……! クライヴさん、もっとっ……! 激しく、して……!」
「良く知りもしない男に身体を弄ばれ、快楽に溺れている姿を自分の恋人に見られているんだぞ」

恥ずかしくないのかとか説教臭い事ばっかりのクライヴさんだけど、おねだりした通りに奥まで更に突いてくれる。

「あんっ……ふあぁ……クライヴさんっ……! 気持ち、いいよぉ……っ」

クライヴさんをもっと感じることが出来るようにと、抽挿に合わせて自分も腰を激しく振っていると、ヴィルフリートに名前を呼ばれた。

「ふぁ……? んむぅ……!?」

とろんとした顔で振り返ると、口にいきなりヴィルフリートの逸物を押し込まれ、苦しいのと驚きもあって目を白黒させた。

「好きにと言ったがそんなにサービスしていいとは言ってないぞ。
それと、これは今日の分だ。ちゃんと俺の精は受け止めてくれよな?」

私の頭を掴んで、激しく抜き差しするヴィルフリート。

「んぶっ……、ヴィ、ううっ……ふむぁ……っ!」
「黙って咥えてろ。舌噛むぞ」

激しくするものだから、嚥下できなかった唾液が口の端から零れ、細い糸を引きながら床に零れ落ちていく。

上の口も下の口も塞がれちゃって声もろくに出ないのに、すごく気持ち良くて……。

「っむ、ん……!」

自分からヴィルフリートのモノに丁寧に舌を這わせて、下から上に舐めていく。

ゆっくり愛撫してあげたいけれど、下はクライヴさんのモノで蹂躙されていて、これ以上我慢できないよ。長くは私も持たない……。

「んー……っ、ふっ、んむ……! はぉ……」

言葉にならない喘ぎが自分の口から漏れている。

「ん……!」

クライヴさんの動きがだんだん、速くなってくる。もう、彼も限界なんだ。

音が響くくらいに腰を激しく何度も打ち付けられて、だんだん与えられる快感が大きくなってきて……私は大きく身体を震わせた。

「ぅッ……!」

クライヴさんも小さく呻くと動きを止めて、びくびくと震える。

「ルカ、そろそろ出る……ちゃんと受け止めろ」

ぼーっとしている私の頬を軽く叩いてすぐ、ヴィルフリートは私の口腔へと射精する。

「ん、んー……!」
「いいか、一滴も零すなよ……」

口の中にいっぱい入ってくる。

顎を掴んでいる手を叩いてみるが、少しずつ飲めと命令されたので、零さないようにという言葉を忠実に守ることだけを考えて、喉を鳴らしつつ咽せない様に飲み込んでいく。

喉の奥に溜まるような濃厚な感じと、独特の匂い。

全部飲みこむと、ヴィルフリートは満足そうに私の頭を自分の身体に寄せて撫でてくれる。

……アレが目の前にあるんですけど……。

「……あー!!」

ちょっとまったりしていたところに、ルシさんが素っ頓狂な声を上げたため、私たちは何事かと彼の顔を見つめる。

その堕天使さんは、顔を青くしながら私……とクライヴさんの間……まぁ、言ってしまえば結合部辺りを指した。


「あの……クライヴさんの精は、なか、に?」
「……そうだけど」

普通にあんたらがやってるのと同じだよ。

だが、ルシさんだけではなく、ヴィルフリートとクライヴさんもはっとした顔をして私を引き離す。

「な、なに、なによ」
「何じゃねえよ。何普通に構えてんだよお前」

ぼかっ、とまた頭を叩かれた。ちょっとやめてよ。これ以上バカになったらどうしてくれるのさ……!

「ルカさん、忘れていませんか? クライヴさんは一応人間なんですよ」
「知ってるよ、それは」
「人間同士、ですよね。人間が子を宿す手順とどう違いますか」
「…………ふたりとも、同じようにやってるよね」
「バカ。ほんとにバカだな。人間同士だと、避妊しなけりゃ普通に出来るだろ、子供」

ヴィルフリートの指摘に、私はようやく意味が繋がって、あわあわとクライヴさんやルシさんを伺う。

「その……すまなかった。気が回らなくて……その場合はちゃんと責任は取る」
「取らなくても大丈夫ですよ。僕がきちんと愛情をもってお世話をします」

確かにルシさんなら、イメージ的に最良の父親だろうけど、そういう事ではない。

「……ヴィルフリート。あのー」
「薬は作らない」

言い終わらぬうちに結論がやってきた。

身体に負担がかかるから駄目なんだそうだ。

次回から気を付けるんだな、と頭をワシワシされているんだけど、ルシさんの時はぎゃんぎゃん怒ってたっていうのに何なの。

人間はいいの? それとも、そういうのを許容できるほどクライヴさんには何か秘密でもあんの?

「で。クライヴさん、多少は性欲落ち着いた?」
「身も蓋もない聞き方だな……。君のご厚意により、問題はない」

ルシさんからタオルを受け取り、自分の腰に巻くと今度こそソファから立ち上がるクライヴさん。

「……今後色々迷惑をかけるが……もう君に一任する。よろしく頼む」
「え……うん」

私がよろしくと言う前に、クライヴさんは自分の服を引っ掴んで出て行ってしまった。

お風呂に入りにでも行ったんだろう。


よろしく、か……。そうか、うちの一員になるんだもんね。


仲良くなれるかどうかは分からないけど。

でも、よく見ると、あの人結構照れたり困ったりしてたんだ。なんかかわいいな。

くす、と小さく笑っていると、私の肩にそっとルシさんの手が置かれていた。


「御身体は問題ありませんか?」

ルシさんは、いつも私のことを心配してくれるなぁ……。

「うん、だいじょぶ」

それは良かった、と言うや否や、ルシさんは私をソファに押し倒す。

「目の前で二人分見せつけられていたので、僕としても欲求不満です。結局混ぜてもらえませんでしたし。というわけでルカさん僕と――」
「わー! 待って待ってっ! お風呂入ってからにしよう!」

必死に抵抗してみたが、獰猛になったルシさんを留める事はできなかった。

組み伏せられたまま、私はもう一度絶頂を迎えてしまうことになったのだが……。

これ、頻繁に続くのかな。

私の体力が続くか心配だよ……。



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