【魔界で従者を手に入れました/39話】

ちょっと苦しかったから、ようやく楽に――……。

「それじゃ……ルカもお待ちかね、だよな?」

楽しそうに言うので、視線をそちらに向けてみると――いつの間にか全裸になっているヴィルフリートが、私の濡れそぼる秘所に、雄々しく勃っている自身の逸物をあてがっている。


――あ、挿れられ、ちゃう……。

そんな期待にぞくぞくと小さく身震いする私。

「ふ……いい顔してるぜ、ルカ」

あ、また興奮しているのがバレてしまったようだ。

私の左足を肩に乗せるように抱えあげ……そのままゆっくり自身の腰を進めて、ナカへ埋没させていった。

ずっ、と秘所が肉槍と擦れる感覚と、強く押される圧迫感。共に訪れたのは……抗いがたい大きな快感だった。

「う、あっ……! は……ああぁ……ん!!」

我慢できずに声を上げてしまい、シーツをぎゅっと掴んで受け入れる。

ゆっくりだけど、ヴィルフリートが、私のナカをかき分けて進んでいくのが分かる……!

ナカがいっぱいに満たされてて、ヴィルフリートが【いる】のが分かる。それがすごく嬉しい。

「ああっ、すごく、おっき、い……っ!」
「当たり前だろ、そんなこと」

どうやら顔だけではなく、こっちの大きさにも自信はあるようだ。

どこまで自分に自信のあるナルシストなん、だか……わかんないけど、わかんなくてもっ……、もぅ、どうでも、いいよぉ……!

「くふぅっ……! はぁあ、ぅっ……!」

気持ち良すぎて、色々なことがもう考えられない。

気持ちがいいということと、ヴィルフリートが、なんだかすごく愛しく感じるということだけ。

「あっ、あっ……! ヴィルフリート、私、ヘンな感じなのぉっ……! 入ってくるだけで、びくびくが止まらなくて、もうイッちゃう……!」

え、という顔でヴィルフリートが私を見つめるが、ダメなものはダメなんだってばっ……!

「ふぁっ……あ、アアッ……、待っ……ーー!!」

ぎゅっとヴィルフリートの身体にしがみつき、堪えきれない大きな快感を受け入れる。

「そ、そうだな……なんか、確かにいつもと様子が、違うな……」

ヴィルフリートでさえ私の反応が違うため、面食らったのか一旦アレを抜こうとして腰を引く。

「あっ……、やっ、待って、今すぐ抜くのはっ……!」

まだ刺激が残ってる状態なのに、って言う前にまた快感が襲ってくる。

引き抜かれるときの感覚で、また身体が大きく震えた。

「……ルカ、なんだか感じすぎだろ。いくら好き、って気持ちが性的に快感を生みやすいとはいえ……一突きごとにそんな風になってるんじゃ、自分の身が持たないぞ」

俺が心配になってイケない、などと不満を零すが、多分これが本音なんだろう。

「感度が良好なのは喜ばしいんだが、残念なことに時間もそんなに無いんでな……ルカ、ルシエルが来る前に口でしてくれないか?」

口で、というのは……つまり、ヴィルフリートのアレを口に咥えて愛撫してあげるって言う、ほら、あの……フェラ……だよね。

く、咥えたことがない訳じゃないけど、いざ目の前で上向きになっていると、上手くできるかなとか色々考えちゃうな……。

「じゃぁ、ベッドに寝そべってくれると……やりやすいんだけど」
「ん? 座ったままじゃなくていいのか?」
……どうなんだろ。座ってもらった方がやりやすいのかな。
「あんまり……どういうほうが気持ちいいとかよく分からないから……ヴィルフリートがやりやすい方で……」

申し訳なく言えば、彼は小さく笑って『じゃあ座る』と、ベッドの縁に腰掛けた。

「この方が、お前の顔もよく見える」
「……見ないでよ……恥ずかしいから」

ヴィルフリートの前に座ると、まだ上を向いたままの男性の象徴へ恐る恐る手を伸ばす。

私の淫蜜と彼自身の体液が混じって、てらてらと厭らしくぬめる怒張を握り、自分の顔を近づけていった。

唇が触れるまであと少し、という時に――突然、部屋の扉が強めに二回叩かれたので、私は驚きのあまり手を離して身を竦ませてしまった。

「……ンの野郎……!!」

怒りを吐き出すヴィルフリートは、ベッドのシーツをはぎ取ると私に投げて寄越す。

「わっ……」

頭の上からシーツを被るような形で覆われてしまったので、それを掴んでずるずる引っ張りながら頭を出すと……この人たちは一瞬で着替えることができるらしい。

いつの間にか服を着ていたヴィルフリートは、大股でドスドスと大きな音を立てつつ扉に近づくと、ノブに手をかけて引いた。

「……人を呼びつけておいて、出てくるのが遅くないですか?」
「てめぇこそ、随分良いときに来やがって。タイミング見計らってたんじゃねぇのか?」

なんと、戸口に立っていたのはルシさん。そういえば、お祈りが終わったら来るって言ってたっけ。

彼は爽やかな笑顔を浮かべ、またしても急に不機嫌になってしまったヴィルフリートと問答している。

そして、部屋の中に入ってくると――シーツにくるまっている私の姿を見つけ、少々困ったような表情で眉を寄せた。

「……裸でそんな薄手のものにくるまっていては風邪を引きますよ。服は……ああ、脱ぎ散らかしてありますね」

私の服を探してくれたようだが、ベッドの下や上に放り投げられている。うわ、私がやったんじゃないのに恥ずかしい……。

きっとルシさんの目には、私がこうしたように見えるのだろう。

結果、ルシさんは自分のカソックを脱いで、私の肩に掛けてくれた。

「ありがとう……」

礼に対して微笑みを返すルシさん。カソックの下は裸かと思いきや、きちんと長袖の白いシャツを着込んでいた。

ただ、やはりベッドの上に捨て置かれた下着や洋服をなんとかしなくては。

カソックをありがたく着てからモソモソと立ち上がって、私物の回収をしている私の後ろ。

いかにも中世時代に作られました、というような豪華で過剰な装飾を施した、金縁の椅子へ腰を下ろしたヴィルフリート。

足を組み、立ったままのルシさんにも手で『座れ』と促してから、で? と尋ねた。

「で、と言われても……何のことです」
「スっとぼけてんじゃねぇよ。お前、俺とルカの距離が自分より近くなったことが……気に入らないんだろ? 何か文句だとかも言いたいことがあるんだろ? ここで言えよ。溜められて妙な態度取られて困るのはルカなんだ」

ヴィルフリートの歯に衣着せぬ物言いに、ルシさんはキッと眉をつり上げた。

「……僕は、あなた方の距離が近くなったことで腹を立てているわけではありません」

一呼吸置いて、ルシさんは私とヴィルフリートを交互にゆっくり見てから、自分でもうまく言えませんが、と伝えてから、喋ってくれた。



「実際、ルカさんがヴィルフリートを好いているであろうということは……薄々気がついていました。ただ、あなた方の性格から、素直に事が運ぶとは思わなかった。きっとヴィルフリートが何か意地悪をして、ルカさんが悲しい思いをしながらも本音を打ち明けるのではないかと、予想していたんです」
……頭良いな、ルシさん。全くその通りだよ。

でも、他の人に分かるくらい私がヴィルフリートを気にしているように見えたのかな。

「……愛し合っているのに、どうして悲しい思いをしながら愛を打ち明けさせなければいけないのか。
そして……相思相愛になったら。僕は、二人と距離を置かなければいけないのか、などを考え――」
「え、ちょっと、待ってルシさん。どうして私とヴィルフリートに気を使わないといけないの?」

たたむ途中の洋服を投げ出して、私は思わずルシさんの言葉を遮って彼に駆け寄る。

ルシさんは少し寂しそうな顔をしていて、しばし私を見つめてから――どうしちゃったんでしょうか、僕は。と笑った。

「僕は、ルカさんの事を愛しています。本当ですよ。
ルカさんを悪魔の手からお守りすることも、使命であると思っています。
だけれど……情が移ったんでしょうか。本来色々な意味での敵であるヴィルフリートにも、幸せになってほしい。
でも、僕はルカさんとは離れない。だから今世嫉妬に狂って生きるより、来世で添い遂げるようにできると気を落ち着ける方が……」
「い、いいよそんなの。そもそもなに言ってるか分からないし。
私は……ヴィルフリートを好きって言った。それは本当、なの。でも――」

私の言葉に耳を傾けるルシさんの顔には悲しそうなものが浮かび、逆に……ヴィルフリートは、椅子に座って足を組んだまま、結局このパターンかよ、と毒づいてそっぽを向くと額に手を置き盛大なため息を吐いていた。


「……ルカは、お前を幸せにしたいんだとよ」

ヴィルフリートから思いも寄らぬ言葉を聞いたために、ルシさんの表情は瞬時に悲しみから困惑へと変わった。

「お前が堕天したのは、ニーナに操られていたとはいえ自分のせいだってまだ思ってんだよ。
ほら、捨て猫だって拾って飼えば情が湧くだろ。それだ」
「全然猫と同列だって思ってないよ!!
と、とにかく……ルシさんは、私のことすごく良く考えてくれて、優しくしてくれる。
自分だって辛いこともいっぱいあるのに、いつも笑って接してくれる。そんなとこ……尊敬もしてるし、大好きだよ。
だから、私がルシさんを幸せにするから!」

だから気を使わなくていいんだよ、と言えば……ヴィルフリートは、俺にはそんな風に言ってくれなかった、と不満そうに漏らし、ルシさんは瞬きを幾度か繰り返した後……私の手を握った。

「分かりました。婚姻の意志があると、しかと受け取りました。幸せな家庭を築きましょう」

若干涙ぐんだ瞳で私を見つめるルシさん。

どうやらいたく感激したらしい。

「や、えーと、ちょっとそれには気が早……」「僕は幸せ者です……今日という日に感謝いたします」

うあっ、またこのキラキラスマイル……!! 光が、光が溢れて前が見えない! ていうか見たらコロッといってしまう! もういってるようなものだけど!

「結婚、いつしましょうか。今すぐでも良いですが」
「そ、それはいつかという事で……」
「しないんですか?」
「す、するけどさ……」
「――ちょっと待てぇッ!! 人が黙って見てりゃ、ポンポン話を進めやがって! 気がつけば何結婚の約束まで取り付けてんだ!!」

ガタンと椅子を蹴り倒す勢いで、ヴィルフリートが立ち上がった。

ルシさんは私を後ろに隠し、口から憤怒の煙を吐きそうなヴィルフリートと対峙した。

「何を怒っているのです。ルカさんはご自身の意志で僕に告げてくれたのですよ。あなたの条件と同じでしょう?」
「確かに結果はそうだが、ルカッ、見ろ!! このダメな元天使の顔を! 俺たち悪魔とそう変わらん黒い笑いを浮かべてるじゃねぇか!!」

ヴィルフリートの指摘に、思わずルシさんの顔を覗き込むが――彼はプンプン怒っている。

「失礼な人だ! 僕があなたと同じような笑い方をするだなどと、恐ろしいことを言わないでください!」
「してただろ!! 何繕ってんだコラ! お前の顔は何個あるんだよ!? この腹黒性悪色狂い堕天使が!」
「痛……っ、頬を抓らないでください! 性格が悪いのはあなたの方でしょう?!」

あわわわ、大変だ。怒ったヴィルフリートがルシさんの頬を抓って、ルシさんは嫌がりつつも、何だろ……どこか嬉しそうだ。

「ルカ、お前ルシエルを贔屓しすぎだぞ。ルシエルとも婚約の意志があるなら、当然恋人の俺にもあるんだろうな?」
「……うん……あるよ……」

答えるだけなのに……な、なんか照れちゃったな。

好きな人と結婚っていうのは、割と当たり前に考えることではないだろうか。

すると、ヴィルフリートは歯切れ悪く『……おう。それなら、いい』とか言って、ルシさんから離れた。

ルシさんは頬をさすりながら、僕は恋人ではないのでしょうか、と不思議そうに聞いてきた。

もちろんお互い好き合っているんだからルシさんも恋人、になるはずだ。

そう伝えると、ルシさんはまた嬉しそうに微笑んだ。

なんとなくほんわかした雰囲気のところで、また部屋のドアが開いた。


「……この城のことにわたしが口出しする権利も全くない事も自覚しているが……少々構わないだろうか」

扉を開けたのは、クライヴさんだった。

相変わらずニコリともしない顔つきで、私たちを見据えている。

「なんだ?」
「……君らではなく、君らの主人に問いたい」

うわっ、私ご指名か……!!

どうでもいいけどクライヴさん、私の名前覚えてくれてないのか、呼んだことないんだよね……。

「な、なんでしょう……」

私、ちょっとクライヴさん苦手だなぁ……。

学校だったら絶対自分から話しかけないよ。

「君の事は興味がないと言ったが、今もそれは変わらない。だいいち、君の無計画かつ無神経さが今後も好きになれない。
君の一言が、二人にどれだけ影響しているのか分かっているか?
何か問題があった場合、主人としてきちんと振る舞うことができるのか? 目先の問題も解決できないような人間に、振り回される身にもなれ」
……この無表情で言われると、かなり、ぐさっとくる言葉だ。

クライヴさんは私から視線を外し、今度はヴィルフリートとルシさんにも苦言を呈する。

「……そんなに、彼女を求めてどうする。
君らは従者なのに、自らの欲望で行動していないか? 主人が誤った道に進みそうなら、それを止めるのも役目の一つではないだろうか」
「人間と俺たちは違うさ。なぁ、クライヴ? お前の考え方は、多分人間には良く効くんだろう。
実際ルカもしょげてるし、頷ける部分も少なくない。だが……お前、クルースニクだとはいえ、ストイックすぎなんだよ。
ここは魔界で、魔界の常識がある。
ルカの言動も行動も、真面目な人間には褒められたものではないかもしれないが……魔界じゃ別に不思議はない。むしろ、可愛いもんだ」

そう言いながら私の肩を抱き寄せると、ヴィルフリートは私の首筋……あの吸血鬼につけられた刻印を指でなぞった。

「この刻印は、吸血鬼を呼び寄せる。
自分の使命と巻き込んだ詫びに、お前は力を貸してくれると言った。
……だが、お前を見ていると、どうもおかしい。ルカを見ながら、お前は『違うもの』を重ね視ている」

ヴィルフリートの指摘に、クライヴさんの表情が変わった。一瞬……見逃してしまいそうな、ほんの僅かで、些細な表情の変化。

見間違いで片づけられるくらいのものだけれど、確かにクライヴさんは辛そうな顔をした、はずだ。

「……勘ぐりすぎだ。君たちの『愛玩少女(しゅじん)』に興味はない」

何でも色眼鏡で見られてはかなわんな、と呟いてから……クライヴさんは、安心してくれと言った。

「彼女を襲ったクドラクさえ倒せば、その刻印は消えるだろう。そうなれば、その日のうちにここからわたしも去る。
これ以上の世話や迷惑もかけない。そう約束したはずだ」

邪魔したな、と最後に軽く頭を下げてから、クライヴさんは扉を閉めた。


「……難しい人ですね」

ルシさんの言うとおり、なんか、難しいね。人付き合いとか下手そうなタイプだ。

「……まぁ、クライヴさんがこうして言いにきたって事は、よっぽど目に余ったんだと思うよ。二人のことも気に入ってるんだね」

言われたことを反省する部分もあるし、言いたいことは分かるからクライヴさんを悪く思う気持ちはない。

ただ……。


クライヴさんの過去に、何か辛いことがあったんだろうか。

それがちょっと気になってしまった。



翌日、ヴィルフリート城に珍客がやってきた。

ヴィルフリートが私を飾って主人の間(私が主人だとヴィルフリートが告げた、あの部屋だよ)に座らせるので何かと思ったら……。

「相変わらず埃っぽい城ね。キキーモラでも雇ったらどうなの?」

なんと、面会にきたのは真っ赤なドレス姿のエスティディアルである。だから私はこんなところに座らされてるのか……。

しかし、美女は派手な衣装も似合うな……。

「……どのようなご用件です? 言っておきますが、我が主人には指一本触れさせませんよ」

私の隣に立ってくれているルシさんが厳しい声で告げれば、エスティディアルはルシさんを嫌悪の表情で睨んでいた。

「……本当に、あのルシエルだわ。
わたしが人間界にいた頃、一度だけ見た――悪魔と悪魔に関与していた人間を赦しの名の下に罪を清める煉獄の炎へ、放り込んでいたセラフ。
それが、こんな子に骨抜きにされているなんて信じられない」

その頃、人間界にいらしたのですか。確かに僕にもそんな時代がありましたね、と、ルシさんは穏やかに答えていた。

「あれ、エスティディアルとヴィルフリートがつき合ってたのは300年前だよね……その頃人間界にいたとして……ルシさん、若く見えるけど一体いくつなの?」
「年齢ですか? 不要ですので、数えていませんよ」

そうは言っても、もう数百年単位で生きているんだろうけど。

「昔話をしにきた訳じゃないんだろ? ルシエルの過去に興味なんかねぇよ」

そう? 私、ちょっと興味あるなぁ……。

でも、ここでそういうわけにもいかないので黙っていると、エスティディアルはただの雑談よ、とヴィルフリートへ微笑む。

「……わたし、ヴィルのことを諦めた訳じゃないの。でも、無理に奪うこともしない。
貴方が帰ってきてくれるのを、自分を磨いて待っているという方向で決めただけ。だから、貴方の主人とはライバルってことね」

うわっ、まだこの人諦めてないのか。

しかし、こんな美人さんにそんなことまで言わせるなんて、ほんっとにヴィルフリートは好かれてたんだなぁ……。

つい、ジト目を向けると、ヴィルフリートは口元を押さえているが、真面目な顔を……してないな。こいつ、まんざらじゃなくて笑いを堪えてるんだな。

わざと咳払いをしてやって、ヴィルフリートを若干慌てさせると……エスティディアルに『譲ってあげる気はないから』と言い切った後。

「……たまになら、この城に来たらいいわ。私も女の子の友達いないし、あなただって――」
『君の一言が、二人にどれだけ影響しているのか分かっているか?』

好きな人に会えないのは寂しいでしょう、と言おうとして、クライヴさんの言葉が脳裏をよぎる。

私の言葉を聞いていたエスティディアルが怪訝そうな顔をしていたため慌ててしまい、『友達になったら楽しいかもしれないし』と、本来言おうとしなかったものがでてしまった。

「……あなたと友達? 冗談じゃないわ。舐められたものね……!」

結果、また怒らせてしまった。

そのせいで機嫌をかなり損ねてしまい、有益な情報を持ってきてやったが帰るというエスティディアルをヴィルフリートがなんとか宥めた結果、すぐ帰る事には変わりなかったが、吸血鬼に関する情報を持ってきてくれたらしい。

「あなたを襲った吸血鬼クドラク……。どうやら、下僕を急速に作って集めているようね。何をするつもりか、だいたい見当がつくけれど……せいぜい、苦労なさい?」

それだけ言うと、じゃあね、とエスティディアルは瞬時に姿を消した。

「……ふん、あの変態野郎……懲りずに来るってんなら相手になるぜ」

ヴィルフリートはあの吸血鬼を思い出しつつそう吐き捨てている。

うーん、忘れていたかったけど、あいつがまた来るのか……。

「夢の中ではピンチを救ってくれたけど、実際クライヴさん助けてくれるかなぁ……」

伸びをしながら夢のことを思い出せば、ヴィルフリートとルシさんが聞き返してくる。

「え? クライヴさんは、ルカさんの夢に出てくるんですか?」
「ん? ……うん。なんか、靄の中を誰かに呼ばれて歩いていると、行っちゃダメだー、って出て来たことが何度か。なんだろね、私が彼と仲良くなりたい願望なのかな」

あはは、なんて笑い飛ばそうとすると、二人の従者は顔を見合わせて黙ったままだ。

「……あの、冗談、だからさ……」

しかし、ヴィルフリートは『それ本物だぜ、多分』とニコリともせず答える。

「クルースニクは、吸血鬼の天敵だ。
吸血鬼がやるようなことは熟知してる。夢渡りまで出来るとは聞いたこともねぇが、独自に覚えたとするならそれもアリなんだろう……」
「そして、実際にクドラクを追い払っている……とするなら、事前にクライヴさんは、ルカさんを襲ったクドラクの性質を知っていたことになります。でも、クドラクが夢渡りをする事も、聞いたことがありません……」

何か怪しい因縁を感じるな、とヴィルフリートが真面目な顔で呟いている。

「――ま、何が来ようと俺が守ってやる。心配するな」
「僕たち、と言ってくださいヴィルフリート」

二人の従者の言葉は大変にありがたい。

いや、従者兼恋人……なのかな。

ともかく……一つの問題を解決すれば、また一つ問題が浮き上がる。

そして、クライヴさんの事が頭をよぎり、またしても落ち着かない気持ちになるのだった。



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