【魔界で従者を手に入れました/28話】

私たちを背に乗せたグリフォン二頭は、無事にヴィルフリート城(特に正式な名前はないらしい)に着いた。

ルシさんは二頭のグリフォンを優しく労い、手を振って見送ると、クライヴさんに『汚いところですが、どうぞ』とにこやかな笑顔を浮かべて玄関の扉を開ける。

「汚ないところって……。あいつ、居候の分際で随分と勝手なことを抜かしやがる……」

城主であるヴィルフリートが怒る気持ちも分からなくはなかったので、腕をぽんぽんと軽く叩いて宥めておいた。


「お帰りなさいませ……あら、お客様?」

ニーナが既に買い物を済ませて帰ってきていたようだ。

このピンク色のスーツも、人間バージョンのニーナも久しぶりに見る。

……あれから三ヶ月か……みんな、元気でやってるのかな。

少しくらい、私がいなくなって心配してくれた友達とかいるのかな。いてくれたら……いいな。

だとしても、まさか私がこんな異世界で人外のイケメンに囲まれて、毎日何かとギブ&テイクの暮らしているとは誰も予想だにしないだろうし。

そんな事をぼんやりと思いつつ、ニーナに買い物は全部済ませたのかを聞いてみた。

すると、ニーナは本当に大変だったらしく、くたくたですよと言いながらも、荷物は玉座の間(ヴィルフリートがふんぞり返って座ってる部屋。一応城主だから、お客さん来たらここに座って面会とかする)に置いてきたという。

しかし、そう話している間も、ニーナと私たちの物的距離は開いていく。

ほとんど拘束具をつけていないルシさんから漏れている聖なるオーラは堕天使となった今でも強く、下位悪魔であるニーナには側にいるだけで辛いのだそうだ。

「買い物行ってくれてありがとう。で、急ぎじゃないけどなるべく早めに買ってきてほしい本があって――」
「えぇ~……。ルカちゃん、どぉして買い物全部一緒に言ってくれないの~?」

帰ってきたばかりのニーナは、また人間界に出向かなければならないと知って流石に泣きそうだ。

少し休んでからでいいから、と言うと、ちょっとホッとした顔をする。欲しいものは後でリストアップしておこう。

お金はヴィルフリートが出してくれているから、余程無駄遣いしない限りは多分怒られない。

……でも、魔界に日本円って、流通してないよねぇ……。
「ねぇ、ニーナ。素朴な疑問なんだけど……」
「何です?」
「どうやって物を買ってるの? ヴィルフリートに請求する金額、日本円換算だとしても、魔界に私たちの世界のお金って……」

そこまで言うと、ニーナはそっと私を呼んで耳打ちする。

「魔法でただの紙をお金に変えていますもの。おかげで、最近偽札騒動が人間界では凄いんですわ」
――……お金ないなら働くとか偽造するしかないんだろうけど……犯罪じゃないの……。

そうはいっても、強盗しろとも言えないし、結局私もその悪事に加担している一人なので、言葉は噤んでおいた。

ルシさん……ごめんね……。知らないうちに悪事に加担させていたよ……。

ていうか、多分ルシさんの発注する物のほうがお金かかってるよね。武器だもん。

「あ……ルシさんの銃器とかはどうしてるの?」
「ふふ、あんなの買えませんわ。兵隊さんの武器庫からこっそり――」
「もういいや、ありがと」

まっとうな方法ではないのだけはわかったから。今頃武器管理の兵隊さん、上官にフルボッコされてるんじゃないのかな。

ニーナに軽く礼を言って、私たちは普段くつろぐために使っている居間へと足を運んだ。

居間って言っても、空き部屋に毛長のカーペットを敷いて大きなソファ入れたり、それに合わせたテーブル置いただけの、ごろごろできるスペースですけどね。

毛長のカーペットなんて、夢のような感じだったけど……ここ日本じゃないから、土足でカーペットの上にあがることを忘れていたんだ……。

白いカーペットがすぐ汚れたのは悲しかったっけ……。で、そこにみんなで集まると、基本気の利く子であるルシさんが『お茶でも淹れますね』なんて言ってくれる。


……いや、まぁ、このメンバーで言えば絶対自分じゃ動かないヴィルフリートと、お客さんのクライヴさん、一応主人の私だったら……ルシさんも自分で動く方が早いよなぁ……。というか、そうするしかないよねぇ……。


「行儀悪くて申し訳ないけど、ちょっと身体がだるいから、ソファ使って横になってていい?」
「別に構わねぇが……」

それでは、お言葉に甘えて……っと。

布の感触が心地よいソファを独り占め~。

ころりと横になろうとして、あることに気づいて動きを止めた私は……ヴィルフリートの楽しそうな視線に気がついた。

「どうした? 横になるんだろ?」
「なるから……上着貸して」

そう、このカソック……スリットが大きく開いているから、ガーターベルトや下着が丸見えになってしまう。

あのヴィルフリートの表情は、最初から知っていたな……。教えてくれればよかったのに!!

「俺がここに座れば見えなくなるだろ」

と、私が座っているソファへ腰をかけ、私の身体を横に倒した。

まぁ、確かに……向こうに座っているクライヴさんからは見えなくなるんだろうけど……。

現状は、何も変わっていない。それどころか、クライヴさんに見えないような位置から太股をサワサワとまさぐっている。

何すんのよ、やらしーわね。

その手をギリッと抓るが、ヴィルフリートはやめない。もう……エスカレートしてきたら背中を蹴飛ばせばいいか……。

顔をヴィルフリートの腕の隙間から出して、クライヴさんに謝る。

「ごめんね、お客さんいるのにこんな見苦しい体勢で。でも、身体がちょっと辛くて……このままで許してください」
「…………見苦しいときちんとわかっているなら、いい」

あ、やっぱりちょっと無礼な奴だなとか思ったんだ。しょうがないよね。ごめんね……!

クライヴさんは椅子に浅く腰掛けている。

そこへ、笑顔でお茶を運んできたルシさんは……私とヴィルフリートが一緒にいるのを見て、能面のようにだんだん表情を無くしていってしまった。

うわわわ、怒ってる。彼、静かに怒ってるよ!

クライヴさんの前にそっと綺麗な仕草で紅茶を置くと、ヴィルフリートの前にはガチャンと乱暴にティーカップを置き、わざとヴィルフリートのズボンに紅茶を零した。

「熱っ!!」
「やぁ、これは大変ですね。早く着替えてきた方がいいですよ」

思わず立ち上がったヴィルフリートを押し退け、ルシさんはその空いた場所に座る。

が、ヴィルフリートは無理矢理隙間に身体をねじ込んできたので、広いはずのソファはなんだかぎゅうぎゅうになって、結果苦しかった。

「てめぇ、わざとやりやがったな……!」
「人を疑うのは良くありませんよ?」

笑顔で躱すルシさんだが、時々笑顔の裏に怖いところがある。ヤンデレに加え、腹も黒くなってきたのか……。

だんだん悪堕ちしていくルシさんの今後が心配です……。

二人を見ながら、クライヴさんは表情を変えずに軽く咳ばらいをした。

「……そろそろ、話を始めたいんだが」

クライヴさん……時計台にいるときからずっと話がしたいと言っていたのに、よくここまで我慢してくれたよ……。

すみません、どうぞ――とルシさんが言って、クライヴさんは私たちをじっと見据えた。

「差し支えない程度でいいから教えてくれ。

ルシエル、ウァレフォル。貴公らの主人は何者だ?
貴公らのようなクラスの高い者を、二人も従者にしているというのは……普通の人間に出来ることではないぞ」

答えられる範囲でいいといった割に、クライヴさんの声音は少し硬い。

ルシさんとヴィルフリートはお互い顔を見合わせ、瞬時に何かを相談したのだろうか。それからクライヴさんに顔を戻し、ヴィルフリートのほうから長くなるがと切り出した。

「確かに俺たちの主人は人間だ……上の世界の人間とは違う、というのは分かっただろ?
ルカはニーナ……さっき下にいたサキュバスの女が連れてきた異世界の人間だ。
ここは俺の仮定で話すが、異世界の人間は、俺たちの何かを惹きつけるような特殊な力があるように思う」

そうですねぇ、とルシさんも答えるが、いやー……私そんな力はないんですけど。

「でも、向こうでは彼氏もいないし告白もされたことないし……モテなかったよ」

うわー、私寒いことを平然と言ってしまった。失笑するしかない。

でも、ヴィルフリートは『それで構わねぇよ』と、手を伸ばして私の髪に触れると、指で梳いた。

「ルカにあっちで男がいたら、ニーナに連れてきてもらうしかなかったからな」

私の為にそこまで……と思ったが、違う……!!

二人の顔に、善意以外のものが浮いている!!

「……仮にいたとして……連れてきて、どうすんの?」

恐る恐る聞いたところ、二人はにっこりと微笑んだ。

「そうだな……。まず、そいつを素っ裸にひん剥いて、どのくらい粗末なものなのかチェックするだろ。
そのあと、どこで知り合ったのか、とかを詳しく調べる。何か楽しそうだったら記憶を削除する。楽しくなくても改ざんして削除する」
「ふむ、その後ニーナさんから、バカになるまで魅了されて骨抜きにしてもらうしかありませんが……
僕らに寵愛されるルカさんを見て、入り込む隙が無いというか、身の程というものを嫌というほど味わっていただくのも、いいと思うのです」
「ああ、そうだな。自分のモノだという思い上がった考えを、粉々に粉砕する必要はある」
……あの、先生たち? もしもーし。

なんかあれこれと語り出す二人だが、聞いているだけ架空(エア)彼氏が可哀想に思えてくる。

いや、ほんとそういう人が居なくてよかった……私の人生的には、18歳で彼氏のいない青春って虚しいけど……。

「…………」

クライヴさんは、無表情のままこちらを冷めた眼で見ている。盛り上がる彼らの話の腰を折ることもなく、かといってこんな無駄話をきちんと聞いてはいないようだった。

一切の興味がなさそうな感情の籠らない瞳を向けて、黙っている。

「あ、ごめんなさい。ほら、ヴィルフリート……」
「お前が変な話をしたからだろ」

私が急かすと呆れたような顔をした後で、話はかなり逸れたが、と戻してヴィルフリートは話を続けた。

「――惹きつける能力……といっても、本来であれば俺たちを従者にすることなんて無理だ。
俺は、ニーナの連れてきたルカを処女と知らずに犯したことで無条件に【契約】する事になり……
ルカの願い通り、俺は未来永劫下僕としてこき使われることになった。
そして、普通の人間はこの世界じゃ悪魔の精を受けないと生きていけないのは、分かるだろ?
だから、ルカが嫌がっても――毎日そうしないわけにはいかなかった」

クライヴさんは一度だけちらりと私を見て、すぐにヴィルフリートへと向き直った。


そうだなぁ……確かに最初は、死ぬほどここも、ヴィルフリートも嫌だった。陰鬱な空も嫌で、世界なんか壊れればいいって思った。

ヴィルフリートは精を与えるという義務もあって、優しく抱こうとしてくれるんだけど。

私が徹底的に抵抗していたから、最終的には無理やりという形式が多かったなぁ、と、私は当時の事を振り返る――。



『――嫌だってばああっ!!』

私はベッドに押し倒され、身体の上へのしかかるヴィルフリートの身体を、泣き叫びながら押しのけようとするけど……


やっぱり男の力には抗えなくて、ヴィルフリートはびくともしなかった。

逞しい身体は、今でこそ自分からキスしてあげてもいいくらい平気だけど……あの時は怖い以外になかった。

『おい、暴れんなっ……! 痛くしねぇよ……っ、こら叩くな! 引っ掻くのもやめろ!』

必死の抵抗に手を焼き、困ったような顔をするヴィルフリートは、自分のスカーフで私の手首を後ろ手に縛ってから私の身体を仰向けに転がして、その上へと覆いかぶさるように自身の体を沈めてきた。

身体をまさぐる手は、私に不快感と嫌悪しか与えず、重ねられる唇を噛み千切ろうとするくらい、キスだって許しはしなかった。

ヴィルフリートは懲りずに毎日優しく唇を重ね、噛み付かれる寸前で離す。

『危ねぇな。いくら俺が悪魔だって、そんなに強く噛まれたら血が出ちまうだろ』
『いくらでも出して死んじゃえばいいでしょ! あんたみたいなレイプ魔なんか、絶対許さないから!』
『ひでぇ嫌われようだな……。
でもな、俺が死んだらお前も結果的に死ぬんだぜ? 死にたくなけりゃ、俺に抱かれろ』

私の下着を取り去って、唇で身体を愛撫していく仕草も……今ならすんなりと受け入れることはできるけど、その時は触れられるのも嫌だった。毎日、その時は苦痛でたまらなかったから、ヴィルフリートにはきつい言葉ばかり浴びせていたっけ。

キスも本当に優しかったんだけど、私はヴィルフリートを嫌いだったから何度も噛み付いた。

ガリッという嫌な音と共にヴィルフリートが低く呻いて、唇が離れる。

『……やりやがったな』

上唇から、ぽたりと血が滴っているのにも、私は罪悪感を覚えることはなかった。

『それくらいで済んで良かったじゃない』
『そうだな。お前にとっても……いい勉強になると思うぜ』

ぎらりと目を光らせたヴィルフリートの手が私の頬に置かれ、力ずくで自分へと引き寄せ深く口付けてくる。

『んっ……ぐ……や、きた、ないッ……!』
『どうだ、悪魔の血の味は。お前が俺に噛み付くなら、いつまでだってこうしてやる。
俺の血なんか、なかなか味わえる代物じゃないんだぜ?
おい、ルカ……! お前の下僕の血は美味いかと聞いてるんだよ……!』

ぬるりと口に侵入してくる舌や唾液に、血の味が混ざる。

吐き出そうとしても、ヴィルフリートはぴたりと唇を合わせているから飲み込むまでは許してもらえなかった。

嚥下すると、ぺろりと自分の唇を一舐めして、解放してくれる。

『こんな、生活っ……! 死んでるのと、大して変わらないわよ! さっさと殺したらいいじゃない!』

ヴィルフリートは眉を顰め、そんなこと言うなと漏らしたけど、私は死んでもいいって思っていた。

私が悪いにしろ血なんか飲まされるし、好きでもない奴とエッチしなくちゃいけないし、家には戻れない。

誰も助けになんか、来てくれない――そんな毎日に、希望なんてあるはずなかった。

毎日毎日殺せだの死ねだのと同じようなことを叫び続ける私に、とうとう彼も頭に来たのだろう。

ある日、ヴィルフリートは私の顎を乱暴に掴んで睨むように見据えると――じゃあ選べ、と言ってきた。

『生きたまま毎日抱かれるのと、殺されてから反魂の法で蘇生し、毎日犯されるのと……どっちがいい?

記憶や感情はそのまま残して、だ……生きていようが死んでいようが、お前を犯すことはずっと変わらない。

言っておくが……俺はお前を苦しませようと思えば、探すのもうんざりするくらいに方法はある。

俺は、まだ『何も』しようとは思っていないんだぜ……』

『ぅ……っ』

眼を見開いて、ヴィルフリートを見つめたまま私は言葉を失った。

背筋も凍る、冷たい言葉。

これは冗談じゃなくて、本気でどうするか聞いているんだ。

――この状態は……一番マシ。そして目の前にいるのは、本当の悪魔なのだと認識する。

静かになった私の頬に手を置き、悪かったなと謝ってから……『生きろよ』と励ましてくれたっけ。

暫くの私は泣きながら抱かれてばかりだったけど……。

段々ヴィルフリートが優しくしてくれているのが分かってきて、でも私の人生を狂わせたことにも変わりなくて。

それでも……私には彼しかいなかったし、優しくされると……嬉しいと思うときもあって、複雑な心境だった。

私とヴィルフリートの距離が近くなっていったのは……長い気がしたけど、実際そんなに時間はかからなかった。


『っく、は、アッ……! み、ない……でよ……!』
『見たっていいだろ。減るもんじゃない』

ヴィルフリートは自分の上に私を跨らせ、胸を揉みながら腰を揺らす。

じゅぷじゅぷと厭らしい音を立てながら、身体の内側からやってくる甘い電流を、徐々に享受していく。

『はぁー……っ……、くふぅ……! ああッ、あんっ……!』
『ふ……俺を嫌がる割には、どれだけ感じてるんだよ。
声を我慢しなくていい。聴かせてくれる方が……俺も楽しいからな』

そうして、陰核を指で擦り、更なる刺激を与えて、激しく突き上げてくる。

『ンッ、ふあぁっ! そこ、押し込ま、ないでぇっ……!』
『気持ちいい、って言ってみるといい。更に快感が来るぞ』
『き、気持ちいいわけ、なっ……、気持ち、い……くっ、なんか、ない……っ!』

嬌声を押し殺すのがやっとなのは、女のカラダをよく知っているヴィルフリートには分かっているようだ。

『じゃあ、気持よくしてやるよ……』

耳元でそう言うと、私の身体を胸に引き寄せ、ゆっくり焦らすように――……


「……ルカ?」

そう、耳元で、私の名を呼びながら……奥まで……。

「ルカ! 聞いてんのか!?」

ヴィルフリートにお尻を叩かれて、私はハッと意識を引き戻した。

「なんだよ、ボーっとして……眠いかもしれないが、話の途中だからもう少し我慢しろ」

急に静かになった私を訝しんだらしく、何度か呼びかけたようだった。

ああ、私、数ヶ月前のことをずっと考えてたんだ。

「……ご、ごめん。話続けて」

愛想笑いをした私に、ルシさんはもうちょっとですから、と励ましてくれて、クライヴさんはまた話を続けている。

……ああ、びっくりした。

しかし、随分ボーっとしていたんだ……。ヴィルフリートとのエッチなことまで思い出すなん――……!?


瞬間、私のお尻を、つぅ、となぞる指の感触。思わずびくりと身体を震わせると、ルシさんが怪訝そうな顔をした。

なんでもないと首を振ると、ルシさんはまたクライヴさんの話に耳を傾ける。

でも、まだお尻を這う指は止まらない。

ちら、と眼を向けると、こっちを見ているヴィルフリートの……眼は笑っていた。


――……あいつっ……! わざとやってんのね!?

すると、ヴィルフリートは指で私の足に、ゆっくりと文字を書き始めた。一文字目を認識するまで、ちょっと時間がかかったけどね。

しかも、あいつなんて書いたと思う?


『お前から欲情してる匂いがする』と、書いていた。(認識しやすいように平仮名で書かれていた。日本語書けるんだね、ヴィルフリート……)

な、なんでバレちゃったんだろ……思わず身を固くすると、なおも文字は続く。

『俺は悪魔だから淫臭はすぐに分かる。ましてや主人のものなら、わからないほうがおかしい』
……や、それは、困る。

じゃあ、ルシさんにもバレて……?


思わずオロオロしてしまった私だが、ヴィルフリートは大丈夫だと書いた。

『後で解消させるから、それまで辛抱してろ』

と書いた後で手は離れていった。

うわ、もう恥ずかしい……! うかうか妄想してドキドキもできないよ……!

恥ずかしさのあまりルシさんの羽根へモフッと顔を埋めると、ルシさんは少し嬉しそうな態度を見せたが、無表情でじっと見つめてくるクライヴさんの手前もあるのか『話をちゃんと聞いてください』と軽く叱られた。


結局、クライヴさんの話はこうだ。

「貴公らの主人には、吸血種を集める刻印が為されてしまった。
クドラクを退治すれば、その刻印は消えるはずだ。
それにクドラク……いや、吸血種を狩るのがわたしの使命だ。
勝手に奴らが貴公らの主人を目当てに集まってくるのであれば、自分もこの力を貸そう。
頼みとしては、討伐行動をとりやすいようにこの城に暫く居候させて欲しい」

というものらしい。

勿論、ルシさんも構わないと言ってくれたが、城主ヴィルフリートから一点忠告があった。

「うちの主人に、悪戯すんなよ」
「……それは、安心していい。精神的な魅了や性欲には我々クルースニクは耐性がある。
わたし個人としても好きでもない女性に手を出すほど渇いていないし、ましてや……」

そこで言葉を切り、じっ、と私を見てくる眼の奥底……軽蔑も混ざっているのだろうか。

「割り切りの関係ならともかく、自分を好いていない女と寝ても楽しくないと思う」

クライヴさんの言葉は、一瞬ヴィルフリートとルシさんの心を逆撫でたようだ。

だが、二人共突っかかることなく、ぐっと堪えてから『それなら、いい』と承諾する。

「……部屋は空いている所を適当に。必要な物があったら、サキュバスに実費で頼んでくれ」

そうして、ヴィルフリートは立ち上がると、また後でなとクライヴさんに挨拶して、私を抱き上げる。

「行くぞ」

大股で部屋を出ようとするヴィルフリートの肩越しに、ルシさんも立ち上がるのが見えた。

その場に残されたクライヴさんは、座ったまま私達を見送りながら冷めたお茶を口に運んでいた。



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