【魔界で従者を手に入れました/26話】

べちゃ、と、粘度の高い音を立てて――私のお腹の上に、生まれたてのスライムが瓶ごと落とされた。

「くっ……!」

無駄なことだとは解っているけど、手や足をばたつかせて振り払おうとする……けれど、鎖がジャラジャラ鳴るばかりで、がっちり固定された手足なんて、台座から離れはしなかった。

空の瓶がコロコロと転がり……私が寝かされている台座を滑り落ち、床にぶつかると派手な音を立てて割れる。

お腹の上に乗ったままのスライムは、やはりじっとしている。これは『よーし、パパ触手出して頑張っちゃうぞ!』の前フリなのだろうか……。

だとするとこのままじゃ、スライムの背中から触手が無数に生まれちゃうよ……!

ヴィルフリート……! ルシさん、早く来て……!

何度腕を引いても同じ事で、鎖は当然私程度の力で引きちぎれるものではなかった。

無理やり引いたりしすぎたのだろう。手首が枷にこすれて痛みを持った。

「無駄な抵抗をするのをやめることだ。手首にすり傷がつく……」

男が私の手首に触れ、枷を指で少しずり下げると、手首の具合を見ている。

「――ああ、まだ血は出ていないのか。出ているのなら久々に人間の血液を味わえるかと持ったのに、至極残念だ」

本当に残念そうな顔をしているけど、なんで何もかもこいつの好きにさせなきゃいけないのよ。

「私の血液一滴だって、あなたのものになんかならないわよ……!」
「ふふ、勇ましい言葉だ。その気概を維持し続けることが出来れば、再会した折には従者も泣いて喜ぶだろう」

電波男は、スライムに視線をやりながら目を細め――『ただし、そう長くは持つまい』と言ったところで……スライムの背中から、勢い良く触手が現れたのだ。


「――うっ……!」

あの時もそうだけど、嫌悪感しか湧いてこない。

う、ううぅ……! やだ、気持ち悪……ッ、怖いよ……!

つるつるした外見の触手は、私の肌に巻き付いてきた――!!

「き――……ぅっ! あ、ぐぅう、っ……!」

唇を噛んで、悲鳴だけは耐えた。

本音を言えば、涙が出そうなくらいショックだし、凄く怖くて。絡み付いてくる触手も、男の視線も気持ち悪い。

喉が痛くなるくらい大きい声で叫んで、悲鳴だって上げ続けたいところだった。

でも、そんな弱いところは……こんなヤツに見せたくない。

私が全部を見せていいのは……ヴィルフリートとルシさんだけなんだ。

――私はどれだけ二人に甘えているんだろう……。二人の気持ちを思うと、自分が酷いことをしているようで胸がチクリと痛みを持った。

でも、そんな感傷的な気分に浸っているようなところではなく、大事件なのは変わらない。

ヌルヌルとぬめる触手は、私の胸や太ももに絡みつき、肌の表面を触手の先でペタペタ触ったりなぞったりしている。

どんな教育をされているのかはわからないけど、太ももの付け根までは来るのに、秘所に触れようとはしなかった。

そっと撫で上げてくる感触は身体の表面にざわざわとした感覚を呼ぶし、触手の先が二手に分かれ、それが私の乳首をパクッと挟み込む。

「きゃ……!?」

びっくりして思わず声を出してしまった。

しかも、このスライムは本当に色々都合よく開発されている。

内側に肉襞がついていて、それがざわざわと動く。

しかも、触手も乳首を挟みあげてグイグイ引っ張ったり、乳房に巻きついた触手が胸を揺らしたりするから、動きが読めない。

「あっ……、ちょっと、何……」

人の舌の滑らかな感覚とは違って、ザラっとしたところとヌルリとしたところが、交互に責めてくる。

エロい事にかけては、人間って一番開発を熱心に進ませるというけれど、割と悪魔にも当てはまるかもしれない。

時折跳ねる私の身体に、満足そうな男は息を荒げている。うわわ、どうしよう、ますます興奮させちゃってるよ……!

興奮している状態の男も、スライムの愛撫も気持ち悪いけど……なんだか頭が、痛い……。

少しボーっとしてきてるし、身体はどんどん重くなる。瘴気のせいかな……。

でも、気を抜いてしまうと……一気に色々なものが押し寄せそうで怖い。(トイレ行きたいし)

「おや、刺激が足りなかったかね。もっと乱れしまっていいのだよ!」

私がまだ頑張れる状態にあるため、男はスライムへ、もっと責め立てるようにと指示を出す。

すると――私の秘裂をなぞり始め、口の中にも侵入しようと唇の上を這う。

下腹部をちろちろなぞる触手には、やはり侵入してくる気配はない。

ないけれど、秘部を数本の触手が擦り上げ、陰核を挟み込み、緩急をつけていたぶり始めた。

「ふ、うぅっ……!」

こんなにたくさん責め続けられたら……私がいくら我慢しても、すぐにイカされちゃう……!

私が声を押し殺し、口腔への触手の侵入を拒否し続けているのを、赤い目を細めて実に楽しそうに鑑賞する男は、その視線を私の下腹部へと移す。

「人間の娘よ。お前のいじましい姿は、見ているこちらの欲を高めさせる……! ああ、なんと素晴らしき淫猥さ!
見よ、花園を隠す叢でさえ理性をもたぬ生物に掻き分けられ、卑猥な薔薇の花弁から滴り流れる蜜が触手に絡みついている……!
聞こえるか、娘よ! お前の下腹部から発せられる淫靡な音色が! お前の歓喜にむせぶ声を、はやく奏でるのだ!」

えらく興奮してしまっている。うう、私のアソコが大変なことになっているのは感覚的にわかるけど、あんたの声が大きくて音はここまで届かないよ……。

あ、でも確かにヌチャヌチャという音が聞こえてくる。下だけじゃなく、乳首もスライムの触手に引っ張られつつ、ちゅぅちゅうと音がしていた。

「ちょっ……吸わな――んぐ……っ!」

思わず口を開いたところに、数本の触手が殺到する。いきなり喉まで突きこまれたから、えずいてしまいそうになる。

舌の上を撫で、また私の舌を二股に分かれた触手が挟んで逃がさない。

「んー……、ぇう……」

舌がうまく動かないから、言葉もきちんと出てこない。

その間にも、胸、乳首……肉芽や、陰裂をつつく触手は休む事なく責めを続け、私は嫌悪しながら高みにあげられていく。

「んっ! ふぅ、ううっ……!」

も、だめ……! 私――……!

「らめ……ぇっ! れちゃう……! おひ……っこ、れちゃうぉ……!」

がくがくと震える身体。イッちゃうどころか、もうトイレの我慢もできないよ……っ!

「さあ、全部見せてしまいなさい! 恥ずかしく、情けないのに抗えない瞬間を!」

イヤなのに! こんなヤツの前で、私が負けるのは、イヤああっ……!

だけど、だけどもう、ダメっ……! 我慢も限界なの!

ぶんぶん頭を横に振って抵抗していると、ちゅるんと触手が外れた。

「あ、あっ……! 出したくなぁっ……、イヤなのっ! ヴィルフリート! ヴィルフリートぉぉっ……! 助けてっ……!」

呼んでもこんなすぐ来てくれるわけがないのに、私はついヴィルフリートに助けを求めていた。


「――承知した。ルカ、もう喜んでもいいぞ」

なぜか、ヴィルフリートの声が聞こえて……目の前に、黒い衣服に身を包んだ……私の従者が現れていた。

「え……?」

私はつい、高まりや尿意も忘れ……きょとんとした顔でヴィルフリートを見つめた。

そして、電波男は驚愕に目を大きく見開いている。

ヴィルフリートは乱暴にスライムを私から引き離して踏み殺すと、私を拘束していた鎖を引きちぎる。

いとも簡単に鎖は破砕され、手枷や足枷もヴィルフリートがちょっと撫でるだけでぱかりと外れた。

「――随分と視姦で楽しんだようだが、悪趣味すぎて反吐が出るやり口だな。
よしよし、ルカ、よく我慢した。偉いぞ。瘴気を吸いすぎて辛いだろうが、もう平気だ。後でじっくり楽しもうな」

私を胸に抱くと、ヴィルフリートはまたマントを身体にかけてくれた。一体彼のマントは家に幾つあるのだろう。

しかし、納得出来ないらしい電波男は、ヴィルフリート卿、と声を裏返して怒り始めた。


「約束が違いますぞ! クルースニクはどこです!」

指でさされつつも、ヴィルフリートは半眼を男に向け、うるせえな、もういるよ、と、顔を上げず人差し指を天井に向けた。

つられて私と電波男が、何の変哲もない天井を見上げた瞬間――。


思わず耳を覆い、身体を竦めるほどの轟音とともに天井の一部が崩れ、もうもうと立ち込める砂埃と瓦礫の中から……。

ルシさんと、一度会ったきりだったけど、クルースニクのクライヴさんが顔を出した。

しかし、クライヴさんは砂埃を吸ってしまったのか若干咽せている。

「無茶苦茶だな……。なんなんだ、その武器は」
「はは、便利でしょう。使い捨て対戦車ロケット弾、と言いますが……文明の利器ですよ。手に入れるのに異界に行ってもらわないといけなかったですけどね」

ポイ、と、ルシさんは笑顔で『使い捨て対戦車ロケット弾』たる、細長い砲みたいな武器を投げ捨てた。

若干理解に苦しんでいるクライヴさんは、眉を顰めて投げ捨てた物体と天井の穴を見上げてから……電波男を見据え、鋭い視線を向けた。


「他者を巻き込んで、わたしをおびき寄せるというのは外道のすることだ、クドラク……!」
「おのれ……、こう易々と見つかるとは思わなんだ。忌々しや、クルースニク……」

歯噛みして異様に悔しがっているけど、一体あの電波男の中で、私とクライヴさん、どっちが目的だったのだろうか。

ともかく、このクドラクとかいう電波男の設定した『約束』は守ったらしい。

「とりあえず、挨拶代わりです。どうぞ」

クライヴさんが剣を抜いた横から、ルシさんが笑顔のまま銃(ハンドガン……っていうのかな。なんか映画とかでよく見るかっこいいやつ)を電波男に向けて、数度引き金を引いた。

「うわっと……こんな危ねぇモン、当たったら俺だって無事じゃねぇぞ」

慌ててヴィルフリートが私を抱え上げて跳躍し、ふわりとルシさんの傍らに着地する。

「銃弾とか跳ね返せるのかと思った」
「鉛玉やら銀の銃弾だけならまだしも、こいつの銃は自分の力を弾と変換して撃っているからな。当たりどころが悪けりゃ即死だぜ」

なんと、ルシさん……部屋を改装するだけでは飽きたらず、そのDIY精神は彼を改造オタクに変化させてしまったようだ。

「無様ですねぇ……! ですが、君がいけないんですよ? 僕の大事な大事なルカさんに手を出そうとするから……!
ハハハ、どこから撃ち抜かれたいですか? 腕? 足? 腹部? 勿論心臓は最後ですよ!」

歪んだ笑みを向け、ルシさんは電波男の腕を撃つ。ジュッ、という音とともに、射たれた周辺の肉がごっそり消失していた。

一体普通の銃をどうやってカスタムしたのかはわからないけど、ともかくヤンデレとナントカに銃とか刃物を持たせてはいけない、という心得を私は失念していた。っていうか、銃どっから手に入れてんだよ! ニーナァ……!

「……ルシエル、そのあたりにし――」
「いいえ、いいえ。僕の怒りが収まりません」

折角指定されてやってきたというのに、クライヴさんは呆然とルシさんの豹変ぶりを眺めている。

多分、これは自分の出番がないのではないか、とか、なんで呼ばれたんだろう、とか思っているであろうクライヴさん――を見ていると、ばっちり眼があった。

「…………」

クライヴさんが、無言で視線を逸らす。

うわっ!! 私、そういえばちゃんと身体隠してなかった。

慌ててマントの前を閉じ、ピタッとヴィルフリートにくっつくと、ヴィルフリートは非常に嬉しそうな顔をして、私をきゅっと抱きしめる。

……ああ、ヴィルフリートの匂いだ。良かった。もう大丈夫なんだ……。

凄く安心して、ほぅとため息をついた。頭はずきりと痛んだけれど、さっきみたいに鈍い痛みが脈動するようなものはない。


「くっ……! クルースニク! 貴様よくもこのような茶番を仕掛けおって……!」
「いや、わたしは何も……」
「忌々しい……この狂った天使を何とかしておけ! それまで勝負は預けておく!」

クライヴさんも何が何やらわかっていない様子だが、狂った天使はあんまりにもしっくりきすぎるネーミングで可哀想だと思う。

が、キッと電波男は私を見据え――瞳を怪しく光らせた。

「――いけない!! ウァレフォル、目を閉じさせ――」

クライヴさんが叫びながら、電波男に向かっていって剣を振る。

ヴィルフリートも素早く私の視界を手で覆ったけれど……もう私の身体には異変が起きていた。

「痛っ……!」

左肩に、痛みがあったので思わず押さえると、ヴィルフリートがハッとしてマントを開いて肩を確かめる。

「……てめぇ……!」

ヴィルフリートの怒りにも、小さく笑った男は『吸血種の呪いですよ』とあっさり告げた。

「それがある限り、我以外にも他の吸血種に狙われるのです……! ふふ、人間の娘よ、また会いましょう!
その時は……必ず、その首筋にこの牙を――」

言い終わらぬうちにルシさんのハンドガンが乱射される。

逃げるようにコウモリヘ変化し、天井の穴から逃げていった男を、クライヴさんは悔しそうに睨みつけていた。



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