私が魔界にやってきてから、早いもので三か月が過ぎた。
困ったことに朝も夜も暗い魔界には、私が慣れ親しんできた太陽の恩恵はない。
だから、朝だと思っても暗いままだし時間の概念というのは――ほとんど、消えているわけで。
目が覚めても、ゆっくり寝たのかうたた寝程度なのか……そのへん、時計を見るまで曖昧だったりする。
「おはよう、ルカ」目を開き、最初に視界に飛び込んできたのは――……景色ではなく、ヴィルフリートだった。
「……おはよ……う」どうして私の上にいるのか、それはどうでもいい……。
……。はずはない!!
体の異変を感じ、私は一瞬で覚醒する!
「そんなに驚くなよ。俺と常に一緒にいるだろ?」布団の中ではあってもヴィルフリートは裸だったし、私もそうだった。
きちんと着ていたはずのパジャマは……ベッドの下に投げ捨ててある。
「そう怒鳴るなよ。朝なんだから、もう少し可愛い声を出すもんだぜ」身体の中には、既に異物感があった。
私を口でからかいながらも、ヴィルフリートは私のナカに侵入していて内側から責め立ててくる。
人が寝てる最中に、なんて事してんの、このバカ悪魔……!!
ていうか、私もなんで気づかないのか。バカは私も同じだった。
「あふっ……、んんっ! は――……あっ……!」まだ怒りが収まらない私は、文句をマシンガントークでぶつけてやろうと思ったけれど、出てくるのは喘ぎ声ばかり。
口を閉じると、ヴィルフリートが舌で私の唇をなぞるように舐める。
「ほら、ちゃんと啼けって」ぐりぐりと、腰を回すようにしてナカをかき回す。
「ああっ! ヴィルフリート、だめぇぇっ……!」私の反応に満足気なヴィルフリートは、強弱をつけながら腰を揺らす。
恥ずかしながら、毎日こんなことを生きるためもあって続けられているせいで(毎日朝からしているわけじゃないけど!)
身体はすっかり、淫らな行為を覚えてしまったらしく……彼を受け入れて、素直な反応を返してしまう。
しかも、あれからヴィルフリートは私を抱くときの仕草も優しい。
別に愛を囁くとかそういう意味ではなくて、エッチの仕方が、どことなく愛情があるというか。
「ルカ……」私の名前をわざと耳元で囁きながら、深く打ち付けてくる。
「あぁーっ……! そこ、ダメぇっ! 気持よく、なりすぎちゃうからッ……!」ぞくぞくと甘い快感を貪るように、私の身体はヴィルフリートを欲している。
「いいことじゃねぇか。俺も気持ちいい……」確かに時折悩ましげな吐息を漏らすヴィルフリートには、色気を感じるけれど……。
本当のことを言うと、私は彼を好いているわけじゃない。
当初のように『嫌』というわけではなくなったし、実際ここで頼るのはこいつしかいない。
それでも――彼を好きになってはいけない理由もある。
単純明快で、子供ができてしまうと困るからだ。
私が彼を好きにならない限り、それはないだろう。とは思う。
そんなことをしなくても、ゴムだとかピルを貰えば心配要らないんじゃないかと先日聞いてみたが、『バカか。人間の常識がそのまま通用すると思ってるのか? 試しにやってもいいぜ。妊娠していいならな』
俺は全然構わないぞ、とまでいうので、基本ビビリの私は実践できないわけで。
なので、頑に好きにならないようにしている部分も――ある。
でも、毎日一回は必ずセックスしてると、最初は痛くてしょうがなかったはずなのに、数回で快感が得られるようになってしまった。
ヴィルフリートは私の中から一旦アレを引き抜くと、私を四つん這いにさせて後ろから貫く。
「あぁっ――!!」ぞくぞくと背中から這い上がる快感に、たまらずに声を上げてしまった。
シーツをぎゅっと握りしめて、ヴィルフリートを仰ぎ見ると――……
さっきの優しい表情ではなく、私を見下すような視線を向けて、口元を吊り上げている。
どうやら、この体勢だと、支配欲でも刺激されるのだろうか。
「随分気持ちいいんだな、ルカ。それとも朝イチだったのが新鮮か?強く腰を打ち付けられ、重たげに揺れる胸を鷲攫まれつつ――私は目に涙を溜めながら、ごめんなさいと謝る。
……すっごく、情けないんだけど……ああっ……ものすっごく、私ゾクゾクしてるんだよね……。
こんなふうにされるのが弱いのだと知ったときは恥ずかしかったけど、ヴィルフリートはそこも心得てしまっているようだ。
悪魔に隠し事はできないものなのか、私が態度に出すぎるのか。
「ほら、きちんと口に出したら許してやる」言わされてるのか言いたいのか、私は与えられた課題に着色して懇願していた。
「……最高だ。可愛いぞ、俺のルカ……!」褒美なのか、辛抱効かなくなったのか。ヴィルフリートは激しく打ち付けてくる。
ていうか、あんたのじゃないし……!!
――これでは、どちらが従者なのかわからない。更に激しくなった抽送に、頭が真っ白のままもう悲鳴みたいな嬌声を上げ続ける。
「もう出す、からな……ッ!」それからお決まりに、私は彼の精を胎内で受けて……一日を始めるわけだ。
毎日毎日、ヴィルフリートと顔をつき合わせて暮らしているんだけど、流石に朝はやり過ぎだと思う。
「約束だろ? 『セックス中は俺の言うことに従順になること』ってのは――」あの後、行為を終えて非常に満足したらしいヴィルフリートは私を抱きしめてキスをしたんだけど、容赦なく平手を食らわせておいた。
なので、朝食を食べている今になっても、ヴィルフリートの頬は少し赤い。
黙れと言われて、かなり不満気ではあるものの……命令には従っているらしいヴィルフリートは、変な草の魔物で中和した水を使ったコーヒーを飲んでいる。
しかも、ズズーとわざと音を立てて私の気を引き、ジト目で見ながら無言の反抗をしている。
この人魔界のお貴族様なのに、なんなの? 変なとこ可愛いな。
悪魔もコーヒーを飲むのは驚いたけど、私がここに来てから、何度もニーナを使いっ走りにして人間世界の用品を多数持ち込ませたせいだ。
生活水準を人間の庶民レベルに引き下げた……せいなのと、私が今までのペースで暮らせるように配慮してくれているようなところが見受けられる。
そう、ヴィルフリートは基本いい所がある悪魔だったりする。
「……今日は何するの」予定を訊いた私へ、疎ましそうな視線を向けてくる。
『俺を邪険にしておいて、なんなんだよ』という、非常に拗ねた視線も混ざっているので、ここは自分のためにもご機嫌を取っておかないといけないみたいだ。ちゃんとした水で淹れた紅茶のカップを元に戻し、すまなそうな顔でヴィルフリートに話しかけた。
「ごめんなさい、ヴィルフリート……。上目遣いでちろりと見つめると、ヴィルフリートはカップを持ったまま私をじっと見つめている。
「……本当か?」自分でも恥ずかしくて死にたくなるような台詞を口にして、顔をそらすと再び照れ隠しに紅茶を口にする。
勿論……この言葉はいくらか嘘が混じっている。相性がいいかは知らないし、甘えてない……と思う。
だが、ヴィルフリートは『そういう事なら』と笑ってくれた。
顔を背けて、恥ずかしがっている素振りを見せた私。
だけどこれは仮の姿。私はそんなに可愛い性格の子ではない。顔を両手で隠し、邪悪な笑みを相手へ見せるのを防いでいた。
「ああ。期待に応えられるように、努める」ヴィルフリートの殊勝な言葉に、罪悪感が湧いたけれど……いつも私にやってることを思えば、コレでほだされてはいけない。
しかし、私は全く気がついていなかったのだ。
奴は『悪魔』であって、この世のありとあらゆる悪事を熟知していること。
私よりヴィルフリートのほうが邪な笑みを浮かべて、努めるなんて思ってもいない言葉を口にしていたことと――
……私の考えをとうに看破していた、っていう事実に。その後、お互い何事もなかったかのように朗らかに笑い合って、焼けたばかりのトーストを手に取っていた。