【悪役令嬢がリメイク版で敵側のヒロインに昇格したのに、恋愛どころじゃないんですけど!/65話】


 レト王子に今後の計画について相談があると言うと、それなら皆に聞いて貰うほうが話が早そうだということで……その日の夜、セレスくんも交えて会議が行われた。


 なぜ魔王様が毎回いないかと言われれば、魔王様は『魔王』様だからである。

 魔王が、下々の会議に顔を出すわけがないのだ。


 万が一うちの魔王様がそういう……部下との連携やコミュニケーションは大事だとする魔王様だったとしても、計画指針の話なのでほぼ現段階では魔王様の力を振るうところなどなく、気まぐれに何か力を使われるくらいで丁度良いと思われるからだ。


 何せ、魔王様は――アリアンヌ……つまり戦乙女とコトを交える気はない。


 魔界のトップが決めたことなのだから、わたくしたちはソレが叶わぬ最悪の場合――つまり戦争――になることも想定しつつ、魔界の環境を整えていくことが最重要かつ基本的な行動となる。


「随分と気合いが入った様子ですけど、一体どんなことをするつもりなのですか?」

 口には出さないけれど『教会の奴まで呼んで』と言いたげなエリクに微笑みを向けると、わたくしは自分で考えていた錬金術のレシピを見せた。


「……まだ、不完全な面も多いのですが……魔界で日照に相当するような、強くて暖かな光を放つ調合道具を作成したいと考えておりますの。あとは、環境に影響を与えやすい魔物達……自然や精霊に近い魔物・植物系の魔物に協力を要請したいと考えています」



 つまり、魔界に住人を呼び込もうということだ。



 エリクは机に置かれたわたくしのレシピを見て、確かに不完全ですが、と顎に手を置きながらブツブツと呟いている。


「太陽の石……これを取りに行くということなんだけどさぁ。どれくらいのことを言っているか、分かってます?」


「ファイアドレイクを倒すことですわね……魔物に手を掛けるのは申し訳ないけれど」

「魔物はともかく、できると思う?」


「ええ。わたくしたちは……それくらいのこと、そろそろやらなければなりませんの」

 わたくしがはっきり言うと、エリクはそうか、と背もたれにべったりと背をつけて、机の上にレシピを置いた。



「……そのファイアドレイクっていうのは?」

 わたくしとエリクに遠慮がちに聞いてきたのが――なんとレト王子である。


「炎を吐く翼のない小さめのドラゴン……と、魔物図鑑に記してありましたわ。その炎は、生物が吐くとは思えぬほどに高火力であるとか。防御なんてとてもではないけれど出来ず、食らってしまえば一瞬で消し炭になるとか……そういった魔物、ご存じありませんの?」


「ファイアドレイクは魔物じゃないから……聞いたことはないな」

 そういう怪物が地上にいるんだな、と感心しているが……なんか、変だ。


「……? あの、ファイアドレイクは魔物……ではない? その、魔界でいう『怪物』とは……?」


「人間は、魔物も怪物も全部一緒にしているのか……まあ、他種族のことなどたいして分からないものだから仕方が無いかな……」


 嘆かわしいとレト王子は首を振るが、セレスくんくらいならなにか知っているかなと思って聞いても知らないと首を振る。


「……『魔物』は、魔界の生物だから魔物。俺のいう『怪物』は、地上生物としての認識範疇を超えた、攻撃性のあるもののことだ。もちろん、死んでいるものも魔物・怪物どちらにもいる」


 スズメバチやホホジロザメなんかも怪物に入るのかしら。


「……もっと分かりやすくいえば、魔王様やレト王子と意思疎通が可能なものが魔物で、取れないものが怪物で良いのでしょうか」

 すると、レト王子はしばし考えて……一概にそうだとは言えないけれど、という前置きをしてから頷いた。


「魔物と怪物で交配していないとも限らないから。そういう混ざったものとの対話は分からない」

「それなら……、同じように人間や亜人種と魔物の混血というのもいるのでしょうか……」


「それは多分いると思うよ。やっぱり、まだ出会ったことはないけど」

「なるほど……異種族でも子供は出来るのですね……」


 わたくしは学術的に理解したが、セレスくんはニコニコと微笑んで、良かったですねとわたくしに告げる。


「なにがでしょう」

「だってリリー様とレ」「――あああ、セレス、来たばかりで喉が渇いただろう!」


 セレスくんが話している途中で、レト王子が急にうわずった声音でセレスくんのグラスを手に取ると、口に押しつけるようにして飲ませようとする。


「……お飲み物、飲みきれずにこぼれていませんこと?」

「そうだな……セレス、そんなに慌てなくて良いんだよ!」

 目を白黒させ、手をばたつかせながらもセレスくんはお茶を飲んでいるが、一体さっき何を言おうとしていたのだろう……まあ、いいか……。


「……というわけで、その怪物? を退治し、竜素材と太陽の石を採取したいとわたくしは考えておりますの」

 咽せているセレスくんにハンカチを差し出しつつ、わたくしはジャンやエリクにいかがかしらと問うてみる。


「……経験を積もうとするには随分と高いハードルだ。おれは構わないが、あんたを連れて行くなら足手まといになる」

「熟練度は相当高めました。今なら属性武器も余裕で使えますし、防御用の魔術や調合アイテムを駆使すれば――」

「――あんたは弓兵ってモンの動きが出来てねえんだよ」

 ずびしっ、と顔の前に指を突きつけられつつ、わたくしはジャンに痛いところを指摘された。


「ボケーっと敵前に立って、のんびり弓を構えて撃つ、なんて通じるわけねえだろ? 相手だって考えるし、自分の生命が脅かされりゃ逃亡か攻撃の手段にうつる。人間同士なら的になるのはあんたのほうだぜ」


 隠れて弓を射るわけでもなく、攻撃を避けられるわけでもなく、直線上の敵を射る。


「だいいち、戦いに出るような身軽な服装じゃねえし。初心者がそんなヒラヒラのお洋服で戦地に出るならやめときな」

 と、ジャンが指摘するのは……わたくしのドレスである。


 普段貴族が着ているものより、装着する物も少なく、デザインなどもずっとずっと簡素な物であるが、確かに戦いには……向かないものだろう。


「確かに戦いを想定しておりませんでしたから……武器も壊れたのを買い換えたくらいでしたし、新しい装備品も考えなければなりませんわね」

「今も初心者だろ。実戦なんぞこなしてねぇんだから」

 鋭い突っ込みに、わたくしは反論できず『うぐぐっ……』と言葉を詰まらせる。


 それを楽しげに見つめてから、ジャンは何か思いついたのか、わたくしのほうへ身を乗り出した。


「……数日、弓兵の訓練を受けろ。口は悪いが適当な奴を紹介してやる」

 ジャンが『口が悪い』って言うなら相当悪いのでは……?


 そう思っていると、手のひらを差し出される。


「金くれ。金貨2枚。仕事料だ」

「高ッ……!」

 いつもお小遣いあげてるのに、またお金取るのか。


 それに、金貨2枚って……いくらなんでも高すぎではないだろうか。


「短期集中訓練なんだから当然だろ。そいつの合格が出たら、ファイアドレイクだろうとオーガだろうと討伐してやるよ」


「…………わかりましたわよ。口だけヘッポコ野郎を紹介したら、許しませんわよ」

 悔し紛れの暴言を吐き、わたくしは渋々ジャンに金貨2枚を支払ったのだった。


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【補足】

ピュアラバ世界では、ドラゴン種の一部としてワイバーンとドレイクという竜がいます


大雑把に言えば、ドラゴン(いろいろいて、つよい)>>>ワイバーン(空飛ぶ二本足。飛龍)>>ドレイク(四つ足の地竜)って感じです。



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こめんと

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