【悪役令嬢がリメイク版で敵側のヒロインに昇格したのに、恋愛どころじゃないんですけど!/64話】



――メルヴィちゃんがアリアンヌになってから、二年が過ぎた。


 わたくしは14歳になり『ロリ少女』から卒業して『美少女』となっている。

……うぬぼれではなく、実際にこのリリーティアのガワは美少女なのだから本当のことを言っているのだ。


 こちらの世界にやってきて、かなり時間が経っているので……ピュアラバのリメイク絵は細かいところなどだいぶ思い出しにくくなりつつある。


 が、確かリリーティアの外見って(もうちょっとクールな印象はあるが)こんな感じの美少女に相違なかった。


 発育の程度も良好で、自分で言うのもアレだが……ぺったんこだった胸は、なかなかいい感じに成長しつつある。


 バーンと張りだしているのではなく、まあ年相応くらいなんじゃないか? というくらいのものだが、育っているということが重要なのだ。


 将来有望なプロポーションを見せる相手などいないが、わたくし自身が一番喜んでいるので、有益であるというものだ。



 あれから何度もラズールに出かけてはいるが、わたくしを探している者達は――もういなくなった。


 クリフ王子が言っていたように、ウィリアム家に止めさせたのだろう。

 その気になればいくらでも連れ戻す方法はある、とも言っていた。


 だというのに何も手出しせず、わたくしたちは普段通りの生活を送っていられる……魔界ではわたくしたちの生活必需品などを揃えることができないのだから、悔しいが――……クリフ王子の慈悲に感謝すべき所だろう。


 本人にそう言ったら勝ち誇るだろうから言わないし、言えといわれても嫌だけど。




 そのかわり、わたくし宛……もうリリーだって言ってんのに『リリーティア・ローレンシュタイン様』宛の手紙が、なぜか魔術屋のハルさんのところに届く時期があった。


 差出人はアリアンヌ・ローレンシュタイン。

 ご丁寧に住所まで記載されてある。


 内容はその時々によって違うが、だいたいはいろいろと面倒を見てくれるクリフ王子が親身になってくれるから嬉しいし今日もカッコイイ……とか、新しく父となった伯爵が優しいとか、そういう他愛のないことだが、彼女は充実した毎日を送っているようだ。


 はっきり言ってアリアンヌがどういう生活であろうと、こちらはどうでもいい。ただハルさんの所に手紙を送られると先方にご迷惑がかかるので、止めてくれと手紙を書いた――ら、またハルさんのところに封書が届き、ラズールの郵便局にわたくし用の私書箱を作ったので自由に使って欲しいとの旨が書いてあった。


 しかも、あちらに手紙を書くときや荷物を出すときには、料金を支払わずに出して構わないということだ。誰が出すか。


 取りに行くのも使うのも面倒なので半年ほど放置していると、またハルさんのところに手紙が届き、ラズール郵便局に食料や衣類やら何やらと物を送っているので取りに来て欲しいとのことだった。



 私書箱の解約をしようにも支払い者はわたくしではないし、契約者以外が取り消すことは出来ない。


 物を送ってこられても困るので再び文句の手紙を書こうとすると、ジャンから『やり取りするとつけあがる』と止められ、しょうがないので物品はほぼ孤児院の方に回している。


 そちらからは頭を何度も下げられて感謝しきりだったので、お礼ならこの貴族にどうぞ、と私書箱の使い方を教えておいた。


 立派な個人情報漏洩である。


 毎日のようにわたくし名義で、孤児院の皆様からの手紙がローレンシュタインに届いていることだろう。



 ちなみに、わたくし宛の郵便は孤児院の皆様が管理してくださっている。

 セレスくんに任せても良いのだが、あまり他者から親しげに『見える接点』を広げたくないのだ。


 ゆえに、彼との真面目な対話は宝玉の通信で行っている。セレスくんも納得しているし、決して蔑ろになどしてない。


 そのおかげでフォールズにおける上層の派閥なども分かってきた。



 話は逸れたが、食べ物や衣類などはそのまま孤児院に差し上げているし、たまに孤児院へ顔を出したときに手紙を受け取る。別に封書の中身も見て貰ったって良いのだが、それはされていない。


 なぜかアリアンヌはわたくしの私書箱が孤児院で使用されていることに腹を立てた様子もなく『何も無駄にならない仕組みを考えるなんて、さすがお姉様です』と文面で謎の大絶賛をしていた。


 ちゃっかりお姉様と書いてくるので、わたくしはその都度イラッとさせられるのだが……孤児院の皆様には別途、アリアンヌが手紙を送っているらしい。それはそれで偉いとは思う。



……月々の私書箱代と安くもない物品の送付。



 通信費や食料費ならば、とてつもなく無駄になっているはずだが……どうせアリアンヌが払っているわけではないから分からないのだろう。


 まあ、わたくしのお腹に入るものではなくとも……アリアンヌが言うように、孤児院の皆が喜んでいるから別にそれは『無駄』と切り捨てなくて良いかもしれない。


 めぐりめぐって、あの孤児院はローレンシュタイン家の庇護に入っているようなものだ。貴族にとっても、財力と慈悲の心を見せる対象としては悪い方向には傾かない……はずなのだが、アリアンヌがそこまで考えて行動しているかどうかは分からない。


――というわけで、わたくしの私書箱は多少回りくどい方法ながら機能している。




 魔界の様子はといえば――レト王子もヒョロゴボウのボディではなく、普通に身体に筋肉もついて、逞しい青年になってきている。


 あの可愛いレト王子は、可愛さの容量を少し減らしてイケメンになってきた。

 現在充分過ぎる程度にカッコイイのだが、たまにキラキラしすぎて眩しく感じるし、相変わらずゴーレム達には優しく話しかけているので、わたくしはそのうち萌えすぎて心臓発作で死ぬかもしれない。


 エリクは相変わらず錬金術に没頭しているが、彼のおかげで地上の植物が品種改良され、魔力で成長することも可能になった。


 ある意味魔改造された植物たちは、通常の何倍もの速度で成長し、根を地中に伸ばし、葉を広げて仲間を増やしている。


 これからもぐんぐん大きくなって環境に適合するため、自分たちでも進化を続けるだろう。


 緑地が出来ていくのはレト王子にとって大変嬉しいことなので、たくさん増えると嬉しいと仰っている。


 ちなみに作物もそんな感じで大きく成長し、我々だけを養うくらいなら大丈夫と思える程度に、野菜収穫が可能になった。


 というわけで魔王城の周囲には、まあ……いわゆる……環境に適応できた外来種の植物が生育している。


 そして、ジャンはレト王子の剣術の先生にもなっているので、毎朝訓練をつけているのだが――最初の頃は投げられたり足蹴にされたりと散々だったレト王子は、めきめきと上達しているらしく、最近ではジャンと良い勝負をするようになっている。


……けれど、まだジャンも本気じゃないらしい。


「でもレト王子とは何度も剣を交え、打ち合っていますわよね?」

「あれ、利き腕じゃないんだよ……」

 苦々しい顔でレト王子がいうものの、わたくしもジャンが戦っているのは一度しか見たことがないし、その時も利き手じゃ無かったということか。


「手は抜かないけど本気ではないというのでしょうか。なんて嫌な奴なのでしょう」

「おれが本気でやって、レトの顔が見る影もない不細工になっても知らねえぞ」

「それはいけませんわ。ぜひ加減はするべきです」

「だろ?」


 というやり取りがあり、レト王子は顔なんてどうでも良いだろといっていたが、とんでもないことだ。顔は重大なファクターである。



 自分の顔がすこぶる恵まれているのに、それを理解せず何を言っているんだ。



「そんなことを仰いますが、レト王子だって、わたくしが蜂に刺されたようなボコボコで腫れのひどい顔になっても、同じように言えますか?」

「リリーはリリーだ。全然大丈夫」


「フフ……だが、うちのご主人は男を顔で選ぶんだろうな。レトは整っている顔だから、気に入ってもらえてるんだぜ」

「そんなこと致しません! 変なことを仰らないで!」

「へぇ?」

 こんなとんでもないことを言ってくるジャンだって、かなりイケメンではあるのだ。



『ジャンはすごくイケメンだよ』と言えば『知ってる』といわれそうで腹立たしいので、そういうのはコイツにやらない。



 ジャンは一番年長さん……といっても、20歳なので全然『おじさん』という年頃ではない。



 そして普段怠惰に暮らしているのに、お腹が出てくるでもなくスタイルは維持され続けているので、見ていないところで鍛錬でもしているのだろうか。


 ちなみにジャン達のテント暮らしはようやくレンガ造りの部屋になった。


 木材などはまだ魔界にないので、ただ周囲をレンガで覆った……なんかそういう倉庫みたいなものなのだが、風の音が激減し、プライバシーが保たれる作りなので、エリクもジャンも文句を言わない。


 セレスくんはほぼ魔界に来ないのだが、たまにラズールの帰りなどに連れてくるので、小さな部屋をご用意しておいた。

 来るたびに何かを持ち込んでいるので、彼の部屋はそれなりに生活感があるらしい。






「……さて」

 わたくしは日記代わりにつけているノートを閉じ、本棚に押し込むと……別のノートを出した。


 本棚から取り出した水色のノートには『魔界計画表』と表題がそれっぽく書かれている……自分で書いたんだけどね。


 これには、魔界にいた生物や持ってきた植物などが書かれているほか、今後の指針なども漠然と記している。


 いわば管理表みたいなもので、一応後世のことを考えて……地上の言葉で頑張って記入している。魔界の文字は知らないんだもの。


 最初は文字を書くのも凄く下手だったのに、だんだん慣れて綺麗に書けるようになった。

 もう魔王様が作ってくださった読み書き可能になる魔具は必要ないけれど、デザインもかわいいし、何よりこの世界で初めてわたくしのために作られたものだから……大事にしている。


 それに、これをつけて過ごしていたら……ある日、魔王様が『まだ大事にしてくれるなんて嬉しいよ』と笑顔で仰ってくださったのだ。


 それを手に取ってしばらく眺めていたが、やることが途中だったのを思い出し、歴史的な出来事が多く書いてあるページをめくる。


 セレスくんの情報によれば、王都に建設している学院……【セントサミュエル学院】校舎が再来年には完成するという。


 建設費用は教会と王家を筆頭とする貴族からの出資で成り立っており、気合いの入れようが違う。


 魔族と戦うための『候補生』育成施設であることは変わっていないようなので、三年後には生徒が入学するだろう。


 そうなると、実践として魔物も狩られるようになる。


 多くの被害が出る前に……話し合える子達がいるなら……戻ってきて貰いたい。


 きっと、魔物の中にも植物系や天候に多少の影響をもたらす子がいるはずだ。


 少しずつ土が耕されつつある頃なら、もしかすると――呼べるかもしれない。


「……わたくしたちも活動するべきですわ……」

 魔界の復興を第一に、魔族達に掛け合いつつ協力を要請する。


 それに……下心として魔物のドロップアイテムというか、葉っぱを数枚欲しいとかいうときには『僕の葉を使いなよ!』的に千切って譲ってもらえるかもしれない。


 地上で買える素材での調合では、できることに限りがある。


……わたくしたちはショップを多く利用する。当然、流通しているものしか手に入らないのである。


 冒険者にアイテムを納品させるという依頼を組んだとしても、良品をかすめ取られてギリギリ納得できる商品を渡される可能性もある。


 なんといっても人件費が高い。何回もお願いできることじゃないし。


 わたくしたちもここ数年で鍛練を積んできたが、実践経験を積み重ねる必要も、もっと上等な素材を入手する必要もある。


【ほしいもののリスト】には、竜鱗や一角獣の角、上級妖精の片羽など、ちょっと入手が難しいアイテムも多い。


 特に木材が足りない。今後を考えるとこれはとっても重要なのだ。


 しかし……今必要なのは『太陽の石』というもの。


 合成アイテムで、条件が合えば強い光と熱を放出する火山地域にある石。

 これをうまく調合加工して、昼間のように周囲を照らすことの出来る疑似ライトというか太陽を作り出すのだ。


 そうすれば……日照が必要な野菜や植物の成長を導入し、促進できる!

 わたくしは、そのノートを抱えて、レト王子の部屋に向かっていった。



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こめんと

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