【悪役令嬢がリメイク版で敵側のヒロインに昇格したのに、恋愛どころじゃないんですけど!/61話】


 セレスくんはジャン達のテント横に、持ってきた自分のテントを設営し――たのだが、まだ何も起こっていないにも関わらず……エリクの『教会の関係者に調合を絶対邪魔されたくない』という激しい抗議が入った。


 そんな言葉にイライラするようなセレスくんではない……と思いきや、神に近づこうとする傲慢な錬金術の調合などもってのほかだと怒り始めた。



――やはり本当に教会と錬金術師の折り合いは最悪のようだった。

 人の注意はきちんと聞くものである。


 このままでは魔界を復興する前にセレスくんとエリクで争いを始めるかもしれない。

 ゴーレム達の築き上げた城壁がまた壊されるのは嫌だ。


 結局……わたくしはセレスくんを元通り教会へ戻しながら協力をしてもらうという代替案を出した。


 すると当然セレスくんからの『常に一緒にいると言ったのにこれでは意味がない』とする猛抗議を宥めながら、なぜそうするかという理由を、わたくしはちゃんと考えてある、と――本当に急ごしらえの説明を落ち着き払って述べた。


 落ち着いてなどいられるわけもなく、しかし看破されぬよう虚勢を張り続ける……というのはなかなかにつらい。話しながら涙を流すことが出来たら名女優になれるかもしれない。


「セレスくんは教会に属している。内外の様々な知識をお持ちであり、情報を引き出すことが出来ます。それを必要に応じ、こちらに流してください。わたくしたちは地上の情報に疎くなりがちなのですわ。国の大きな催しや――特に魔族との戦を肯定するような組織や人物、魔族売買に関わる者の詳細……そしてこの辺で注意すべきとされる魔族そのものや、セレスくんの『見立て』た、資質ある人物など……まぁ今後の活動で必要な情報は都度変わります。方向も多岐にわたりますけれど。とても……ええ、それはとても重要なお仕事ですのよ。あなたにしか頼めません」

「私に……! ああ、リリー様……お任せください」


 セレスくんは満足げな表情を向け、レト王子とエリクはなんともいえぬ微妙な表情を浮かべている。見えてるけどあえて無視した。



 まず、教会に属しているということはそれだけで強い。


 というか、お父さんがそれなりの権力を持つ司教様なのが強い。


 司教様といえば、神父様より上のクラスだ。

 ラズールの司教様ならば、このあたりの管理を任されているに違いない。


 欲を言えば枢機卿とかいう幹部ポジションならなお良かったが、そこは今後の活動と貢献によってのし上がって貰ったり、セレスくんだって機会があれば昇進して頂いて大いに結構。


 ただ、デメリットは当然ある。



 セレスくんは我々の行動に関わることがおおっぴらに出来なくなる。


 なにせ、教会だって世界中にある大きな組織だ。目をつけられては処罰されてしまう。


 当然信者が多ければ違反者も多いはず。

 そういった者を罰するため、お抱えの『執行人』がいるかもしれない。


 ゲームの中では出てなかった部分もあるだろう。

 リメイクで何やらいろいろ追加されているのだし、見えない部分……教会の設定も練り込まれていないとは限らない。


 なにせ、設定はいくらあっても困らないからだ。


――幸いセレスくんの教会は、司教様と二人で運営されているようなので……今とあまり変わらない生活を続けていけば、よほどのことがなければバレたりはしないだろう。バレたら連れて逃げるからね、安心してくれセレスくん。



 なんやかんや言ったが、なにぶん地上と離れている魔界では、情報は大事。

 特にフォールズの情報は大小多く仕入れておくに越したことはない。


「要するに、普段通りに仕事をしながら諜報活動にいそしむんですか……」

「そういうことですわね。魔界と世界平和のために頑張ってくださいませ」


 世界平和という単語で、何かしらのことは笑って許してくれるセレスくん。

 困ったらその単語で押し切っていこう。


「あの。もし火急の用事があった場合は……」

「どうにもなりませんよ。連絡手段がなかっ――」「最近魔術で、遠見の玉というのを作ることが出来たから渡しておく。顔を見ながら会話が出来る」


 セレスくんに『そんなアイテムはない』と言い放ってやりたかったエリクは、レト王子が手渡したそれを見て更に不機嫌になる。


 セレスくんが、というよりは本当に教会関係者がお嫌いのようだ。


「そんなものがあったならわたしにもくださいよ。前は無いって言ってたから……」

「最近作ったと言ったじゃないか。ちょっとした魔術アイテムを作れるくらいに勉強したんだ」

 ちなみに魔術アイテムの調合も錬金術とほぼ同じである。


 例外もあるけど、四大属性の力を多く使う方が魔術アイテムらしい。

「何かあった場合、それを使ってくだされば……すぐに情報を共有することが出来ますわね」

 使い方はただ魔力を通しながら念じれば良いそうだ。



 セレスくんをラズールに戻し、一時の平穏を味わっていると――その二日後。


 朝食中にセレスくんから連絡が入ってきて、なんと……メルヴィちゃんが帰ってきたのだという。


 わたくしは急いでラズールに向かってもらえるようレト王子にお願いするが、彼は二人だけで行くことを渋り、ジャンの助力を申し出る。


「リリー」

 出かける準備をしようとすると、その背に遠慮がちなレト王子の声が掛けられた。


「……何かあっても、俺が一緒だから」

「は、い? ありがとうございます……」

 わたくしが首を傾げながらお礼を述べると、ひとつ頷いて、彼も仕度を始める。


 いつも一緒なのに、一体何を改めて仰りたかったのだろう。


 真意は気になるところだけど、それを気にしている場合ではない。

 わたくしもぱたぱたと慌ただしく自室に駆け戻った。



 ラズールに着くと、急かす心の訴えるまま大通りを足早に抜けて、教会の前にさしかかる。


――が、教会の階段前に豪華かつ大きな馬車がデンと停まっており、通れなくはないが……教会に行きたい人の進路を塞いでいる。


 セレスくんはこの場にいないので、この馬車の主と共に中にいるのだと思う。

 しかし、一体誰だよ……こんなところに馬車なんか止める非常識なバカ貴族は。



 まあいい。メルヴィちゃんの無事を確認しに行かなくては。


 孤児院はこの先からでも行けるとジャンが言っていた。

 むしろ、孤児院から教会はとても近い。だからお手伝いにも頻繁に来ることが出来たんだな。



 馬車の横をすり抜け、数十歩進んだところで、リリーティア、という本名で呼ばれる。


 この名前を知っているのは少ないし、なんか今の声に猛然と嫌な予感がしたので振り返ると……派手な装飾馬車の扉が開き、誰かが降りてきた。


 こちらを見つめる金髪碧眼の美少年は……。


「クリフ王子……!」

「久しぶりだな。元気そうで良いが相変わらず、その男とつるんでいるとはね……」

 隣のレト王子を見ると眉を顰めたが、新たに側にいたジャンを見て、ふんと鼻を鳴らした。


「また男が増えているな。そういえばカルカテルラの生き残り? だとか聞いたな……あの一族は国外他派との戦で全員死んだと報告もあった。生きているはずはない」


――おいおい。そんな事言って、ジャンに斬り殺されても知らないぞ。

 しかし、意外にもジャンは顔色一つ変えない。

 それどころか、その唇が動こうとする気配もなかった。


 それはジャンも知ってるということなのかな……。


「……邪推するのは下世話な者のすることではございませんか? 人の上に立たれる方にはお薦め致しませんわよ。それにわたくし、清く正しく美しく暮らしておりますので、他人のあなたに心配されるいわれなど、なーんにもございませんわ」


 他人という言葉を殊更に強調してやった。


 むぐぐっ、と声にならぬ憤りを音に乗せ、不機嫌そうにクリフ王子は唸る。


 ふん。手応えのない男だこと。わたくし相手に嫌味など言おうとするからだ。

 クリフ王子と遊んでいるなら、ジャンと軽口をたたき合っている方が……余程悔しい。わたくしでは勝てない。


「それで? わざわざ呼び止めたのですから何かご用がおありなのでしょう? わたくし急いでおりますので、つまらないご挨拶だけでしたら失礼したいのですが」


「なっ、相変わらず貴様はそうやって偉そうに……ま……まぁいい。リリーティア、今日は告げるべき事がある」


「まぁ、何かしら……ああ、そうだ。ウィリアム家に言ってわたくしを探させていたのはあなた? 迷惑ですからソレはもうお止めになってくださらない?」

「ああ、それはもう不要さ。なにせ、僕はとても忙しくてね。貴様のことに構っている暇など無いのだからな!」


 わたくしに張り合って忙しいと言い始めた。

 実際彼は王族だから暇ではないのだと思う。


 おあいにく様ではあるが、わたくしは最初からクリフ王子にかまけている暇はない。

 呼び止められたこの数分だって惜しいくらいだ。


「そ・れ・で用件は何ですの? 当然婚約破棄以外ありませんわよね?」

 そう言うと――クリフ王子は気まずそうに視線を逸らす。


「……いや、まだ……婚約……している」

「……はぁ? あなた、前回は婚約破棄できて嬉しいとかのたまって帰られたのに『まだ』ですって? いったいなにをぐずぐずしていらっしゃるの?」

「うるさい! 僕にもいろいろと――」


「首を縦に振ることが出来ないほどお忙しいと? でしたら寝る時間を20分削って、国王陛下に面会を求めて『リリーティアとの婚約を解消します!』と元気よく告げるだけでよろしいのですわよ。あら、かーんたん!」

 両手をぱんと合わせて首を傾げながら言ってやるが、その女の子っぽいポーズ(だとわたくしは思う)はクリフ王子のお気に召さなかったらしい。


「――ふざけるなっ! 僕がどれだけ……!」

 ビッと指をわたくしに突きつけ、だいたいだ、と声を荒げた。


「貴様は子供の頃から……わがままばかり言い、早く面会しろとかご機嫌取りに来て欲しいやらで一週間のうち何度手紙をよこした?! そして何度突発的な行動に付き合わされたか! 辟易し始めた頃突如失踪し、今度は別の男と一緒ときた。そのあげく、婚約破棄をグズグズするなと!? 一体どれだけ僕を困らせれば気が済むんだ!?」


「――……それは……失踪前のことなどは真面目に記憶にございませんが、それは大層苦労されましたわね。不憫ですこと」

「貴様が全て行ったことだぞ!?」


「申し訳ないことに記憶にございませんわね。犬に噛まれたと思って忘れてくださいまし」

「くっ、本当に、貴様という女は……!!」


――ぶるぶると怒りに身を震わせ、端正な顔は怒りのために青筋と皺が刻まれる。

 リリーティアお嬢様のわがままという歪んだ親愛の情を受け続け、それに応えてきたらしい事が窺える。


 クリフ王子にとっては……この状況も昔とは何も変わっていない『リリーティアの突飛な行動』なのだろう。


 そして突然の失踪。

 さらに伯爵の『婚約破棄します』宣言だ。それは意味も分からなすぎて、どうしたらいいか慌てるだろう。


 ところが何の巡り合わせか、ようやく再会できたときには知らない男と一緒。


 婚約破棄は是非お願いしますとにっこり笑って告げられ、知らん男はリリーと親しげに呼ぶ。

 自分の目の前でイチャイチャしてくる始末だ。



 これは……控えめに見てクリフ王子の怒りは正しい、よなぁ……。



 むしろ無理矢理連れ帰ろうと思わなかった分、前回で愛想が尽きたと取って良いだろう。


「その……本当に何も覚えておりませんの。ただ、あなたにもマクシミリアンにも……いろいろご迷惑をおかけしてごめんなさいね」

「……リリーティア……?」

 わたくしが謝罪するとは思わなかったのか、ぽかんとした表情でクリフ王子は指を下ろす。


「……失踪した後のわたくしと、あなたに絡んできたリリーティアは別人だと思ってください。だから、もうあなたとわたくしはなんの関係も――」

「――そんな適当な作り話はもういい。僕は伯爵家へ新たに娘を迎える手続きを手伝ったりしていた。ラズールに寄ったのもその延長だ」


「伯爵家? 新たに……?」

 はて。どういうことなのだろう。


 この国にローレンシュタイン以外の伯爵などいる……はずもなさそうなのだが、新しくと言っている以上、わたくしが関係していないことだ。



 わたくしの表情が変わったことが楽しかったのか、クリフ王子はドヤ顔でこう告げた。


「実の娘は行方不明なのだ。探しても見つからないので、ローレンシュタイン卿は養女を新たに取ることにした……とても美しい少女をね!」

 なんと、あの家に養女がやってくるというのか。


「あの、養女を取ろうと何であろうと良いのですが……実の娘が『行方不明』とはどういった事でしょうか。リリーティアは除籍……されたのではありませんの?」

「娘を目に入れても痛くないほどに可愛がっていたローレンシュタイン卿は、娘の籍を抜かなければならないことに酷く胸を痛めていてね。見かねた宰相が、行方不明ということで事を収めたのだ」

 すると、クリフ王子は憐憫を込め、わたくしを見る。


「大人しく帰ってきてはいかがかな……『リリーティア・ローレンシュタイン』……一応、まだ貴様は僕の婚約者だ。記憶を失ったというなら、再び教養を学ぶのも大変だろうが、できないこともないはず。それに帰還を誰よりも――伯爵がお喜びになる」

 慈しみを込めた声でわたくしを見つめるクリフ王子だが――その目は当然冷たいままだ。


「伯爵が、ねえ……? 誰の指図でそうなっているか存じませんが、わたくしは戻りません」

「……リリーティア。僕の命令ひとつで少女ひとりを連れ戻すことくらい、たやすく出来るんだぞ。僕が『どのような存在』なのか忘れていないかい?」

「忘れてなど……おりませんわ」


「僕の命令で、君をそそのかしたそいつを捉えることだって出来るんだぞ」

 クリフ王子の指が上がり、再び示すものは……わたくしではなくレト王子だ。

 指を差されたレト王子は、キッとクリフ王子を睨み付ける。


「君も、リリーティアがこうして調子に乗っているのは良くないと思わないか? 本気で僕を怒らせる前に、言うことを聞いたほうが良いよね? 折角、ローレンシュタインに家族が増えるのだから」

「――……その家族、こんな問題児と仲良く出来るとは思えませんわね」

 すると、クリフ王子は愉快そうに笑った。


 ただ、その笑いは勝利を確信したような、そんな……自信に満ちていて、敗者を嘲るような、そんな表情。


「そんなことはないさ『彼女』もここに来ているんだよ……改めて紹介しようと思う。さあ、おいで……」

 クリフ王子が手招きすると、馬車から降りてきたのは――……金髪の少女。




 その少女は。




 わたくしが知っている――ともだちにしたかった、娘だった。



「……こんにちはリリーさま。えへへ……びっくり、されたでしょう?」

「メルヴィ、さん……?」

 緊張したように、それでいてどこか嬉しそうに……メルヴィちゃんははにかむ。



 なんで。なんで、彼女が?



「彼女はもうメルヴィという名前じゃないのさ。そんな庶民くさい名前は、貴族に似合わない」



 クリフ王子の声も、自分の心臓の音も……うるさいくらいに耳に響く。



――どういうこと?



 足が震える。自分はちゃんと自分の足で立っているかどうかも、よくわからない。

……頭は真っ白になって何も……どうして、という疑問以外には考えられない。




「リリーさま……私、アリアンヌ……アリアンヌ・ローレンシュタインです」




 だというのに――非情な宣告がたたきつけられ、今度こそ、わたくしの身体がふらっと揺れる。

 それを、そっとレト王子が支えてくれた。


 彼女が養女になるとか、まだわたくしがクリフ王子の婚約者とか、そういうことはどうだっていい。


 よりによって。



「あなた……アリアンヌ……だというの……?」

「はい。クリフォードさまが名付けてくださいました!」


 クリフ王子……よけーなこと、しくさりやがって……。



――伝説の戦乙女の再来とされる、アリアンヌ。


 あの日出会ったメルヴィちゃんが……アリアンヌだった。




 王都が実家。それはローレンシュタイン家だからじゃなかったはずなのに。


 両親は健在。それはそうだろう。その母など記憶のないわたくしは知らないけれど。



 セレスくんとは――既に出会っているのに、戦乙女と何故判じられなかったのか。

 それは、きっと『最初から近くにいすぎた』せいか、まだ覚醒できてないからだ。


 何も言えぬわたくしを見つめながら、クリフ王子がうんうんと満足げに頷く。


「アリアンヌ、もう彼女に敬称など要らないんだ! 君も同じ家の娘なのだから!」

「…………」

 アリアンヌとなったメルヴィちゃんは、クリフ王子に照れたような笑顔を見せる。


「いいえ。リリーさ……、リリーティアさまは、ローレンシュタインの正統なご息女。そしてわたくしの姉にあたる方ですから……呼び捨てになど出来ません」

「さすがアリアンヌ! 奥ゆかしいところも魅力的だよ……素晴らしいね」

 クリフ王子はアリアンヌの肩を抱き、彼女もまたうっとりとクリフ王子を見つめた。


――……ああ、なんかこういうクリフ王子とアリアンヌがデレデレする会話、ゲームで見た。あー、そう思えば、メルヴィちゃんがアリアンヌって言われて……ちょっとそういう気がしてきたわ……うん、急に気分が落ち着いてきたぞ。



 レト王子の手に触れ、もう大丈夫ですと言ったが、彼は手を離そうとはしなかった。

 その目は優しくて、不安や苛立ちがすっと溶けるような、そして泣きそうになってしまうような安心感がある。


 隣で傍観者を徹していたジャンも、片眉をあげてわたくしをじっと見ている。

「――やれるか?」


 大丈夫か、とかそういうのをひっくるめた確認の言葉だと……思う。

 しかし、こんなことでへこたれているようなわたくしではありませんのよ。


「あら。お優しいこと……ですが、あなた……わたくしを誰だと思っておりますの?」

 ふふんと笑ってやると、同じようにジャンも笑って視線を再びクリフ王子へと戻す。


 時折非常識なところを見せるが、なかなかジャンは気遣いは出来る男。

 わたくしは……仲間やレト王子に支えられている。ひとりじゃないんだ。だから大丈夫。


 突然の衝撃に崩れかけた心と姿勢をきゅっと引き締め直し、アリアンヌとクリフ王子へ悠然と微笑む。


「お二人とも、仲がよろしいではございませんか。そうだわ、わたくしとの婚約を破棄し、アリアンヌさんと婚約してはいかが? 可愛らしい方ですし、クリフ王子も心配はしない……ええ、とってもお似合いになりますわ。そう致しません?」

「ばっ……、バカなことを思いつきで言うな! 婚約破棄して即その家の養女と婚約しなおすなんて、ありえるわけがない! それに、君……一応婚約者なんだぞ!? それなのに、増長させるようなことを自分から……」


 パッとアリアンヌの肩に置いた手を離し、なぜか慌て始めるクリフ王子。

 わたくしの前に立ち塞がらなけりゃ、どうでもいいんだよあんたらのことなんか……。


「さて、アリアンヌさん」

「はひっ……!?」

 わたくしが突然話しかけたので、びくーん! という擬音語もぴったりの驚き方をして、着飾ったドレスが揺れる。


 相変わらず変な返事をする人だ。


「クリフ王子から伺うのではなく、あなたの口から……こうなるまでの行動をお伺いしてもよろしいかしら」


 よろしくなくとも、説明して頂こう――そういう雰囲気がにじみ出ているのが彼女には判ったのだろう。素直に、そして緊張した表情でこくりと頷いた。




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こめんと

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