【悪役令嬢がリメイク版で敵側のヒロインに昇格したのに、恋愛どころじゃないんですけど!/38話】


――畑づくりとスライム退治の両方を爆弾で同時にこなすと、いいことがある。

 そこは漠然と導き出されたらしい。


「正直全ッ然……繋がらねぇけどな」

 ふぁあ、と大きなあくびをしながらジャンが率直な感想を述べてくれた。


 エリクは合成釜を借りると言って出て行こうとしたので、部屋の主であるレト王子も、どのようなものを作るのか見たいと同行していった。



 なので、テントの中でジャンと二人きりなのである。



 これが年頃の男女だったら意識したりドキドキする……こともあるかもしれないけど、わたくしはまだ12歳というロリキャラだ。


 ジャンだって、6つも離れた子供にいきなり手を出したりはしない。



 これでロリコンだったら、多分リメイク版のピュアラバは……『主人公17歳の美少女なのに、なんでロリコンを攻略対象にしたんですか? ひどすぎるので星1にします』とか、乙女ゲーマーの酷レビューの嵐に責められ、まとめサイトでも『【悲報】 乙女ゲームさん、攻略対象をロリコン設定にしてしまう・・・』とか話題になる。そして売れないに違いない。



 恋愛モノとしてヒロインでもある主人公が、対象から愛情を注がれる範囲にないのだから、根本から欠落している場合、擁護も出来ない。



 おっと、彼の名誉を守るために言っておかなくてはいけないけれど、決してジャンはロリコンではないと思う。



 確かめてないので現状不明なだけだし、そんなことを面と向かって聞こうものならわたくしが次のドーナツになる。

 知っていることといえば、ドーナツみたいに敵を無慈悲に選ぶのが好きなこと。



 ちなみにドーナツは私が勝手に作った隠語。



 敵対した人の命を『ドーナツもういっこ食べちゃおう!』みたいに『持ってる情報、一人ずつ殺していけば最終的に残った奴が全部教えてくれるよな?』としか見てない節があるからだ。実際敵に言い放った。



 そんなサイコドーナツお兄さんと二人っきりは怖い。



 しかし、エリクとレト王子の師弟コンビは……あちらはあちらでうまいことやっているらしい。


 なぜそんなことが分かるかと言えば、たまに合成成功のキラリンという音が頭の中で聞こえる……から。


 どうしてそう聞こえるのかは分からないし、わたくしの思い込みかもしれないけど、かなりの的中率で合否が分かるので、多分脳内に直接響いて聞こえている。


 この合成難度とキラリン具合から、どうやら合成品はエリクが作ってくれていると思われる。


 というのも、エリクが結界石を作りたいと言っていたし……ちょっと高度な合成になるから、合成経験が足りないレト王子では失敗してしまうだろう。



 寝ていると、キラリンやボフッという音には気付かないので、たぶん慣れたら効果音のオンオフが出来るだろう。システム画面とかが出るわけではないし、どうやるのかは分からない。



 さて。エリクが多分レト王子に畑の仮定を説明してくれるだろうから、ジャンには私から話すか。



「まず、見て分かるとおり……魔界は本当に何も無かったでしょう?」

「ああ。岩と砂とスライムだけとは聞いていたが、見渡す限り広がってるよな」

 急に話しかけられても気にしたそぶりはなく、ジャンは後方……テントの向こうを振り返る。


 もうテントに隠れて見えないが、この先に本来広がっている光景としては、遙かなる赤い荒野が広がり、時折スライムが透明の体をずるずると引きずりながら、お散歩している。


「魔界は天候の変化がほぼ無いそうです。だから晴れないし、雨も降らない。だから作物も育たないし木々はない」

「へぇ……」


「だからこそ、魔物は地上に来た。それを人間が攻め込んできたと勘違いしたのでしょうね。だから互いに未知なる存在から身を守るため、戦った」



 なるほどねと興味なさそうに言いつつも、ジャンは話を聞いてくれている。


 実はいい人なんだろう。

 他にやることがないから、話を聞いているのかもしれないけれど。



「魔界を良くしようと思ったやつは、今までいなかったってわけか?」

「さあ。いたにはいたのかもしれませんけれど、現状鑑みるに、うまくいかなかったようですわね」


 戦乙女のせいで魔界の歴史的資料は焼失したり、持って行かれたかもしれないらしいので、これも想像でしかない。



 まさか、あの倉庫の本棚が【魔導の娘】関連で埋まっているとは思わなかったのだ。誰も有史の間に見たことがないものを、想像で描かれても困る。



 わたくしのガワは可愛いかもしれないが、麒麟や鳳凰みたいな伝説の生き物と同列じゃないんだぞ。



「それで、今回……錬金術で魔界を開拓するわけですけれども、まず固い岩盤があるせいで、水はけがよろしくない。そして表層は砂なので、保水性もない。わたくし農業の経験もありませんけれど、お花一つでさえ満足に育たない土地だということくらいは分かりますわ」


 少しは興味が出てきたのか、テレビでも見る時のように頬杖をついて寝そべったまま、ジャンはわたくしを見る。


「……へぇ。んで? 錬金術でどう変えるってんだ?」



 この剣や鎧を外してくつろぐ無防備なジャンは、多分スチルか何かだ。

 なんとなくジャンがキラキラして見える。



 エリクやレト王子とは別の方面……ワイルドな魅力があって、ちょっとイイ。



 だが、仲間をそんな萌え視点というふしだらな目で見てはいけない。



 わたくしはそう自分に言い聞かせ、何も無かったかのように話を続ける。


「まず、畑をある程度の大きさで作るため……岩盤を爆破します」

「爆破……するために、爆弾を作んのか」

「当然です。わたくしが毎日ツルハシで削れと仰るの? やってられませんわ、そんなこと……それで、スライムを爆破位置に囲い込んで……叩く」

 握ったままの手のひらを上に向け、一気に指をぱっと開く。


 その仕草でなにがどうなったか、ジャンも分かるだろう。



「結果、固い岩盤が割れて、スライムの……粘体……だかなんかも取れる、でいいのか?」

「その通りです。ただ、岩盤がどの程度削れるか、その下から何が出てくるかを考慮しないといけませんからね」

 水とかが噴き出したらやり直しだもの。



「爆弾を岩盤用とスライム殺すのに使うのか……おれもいつか必要になるかもしれねえな。そういうのも面白そうだ。よし、作ってもらうか」

「……聞かなかったことに致しますわ」


 ジャンの場合、乙女ゲーでやってはいけないホラーな想像しか出なかった。

 うん、持たせないでおきたい。



「岩盤の下に土があれば問題ないのですが……土が無い、ただ岩盤か砂だけ、という仮定で次の説明に行きます」

「はいよ」



「細かいところは省きますが、スライムの粘体を砂と混ぜ込んで、保水力を高めます。地上から土を持ってくるということも考えましたが、できるだけ魔界の環境を壊したくないので、魔界で出来るだけのことはしたいのです」


 かといって、結局作物がないんだから苗や種は地上で調達しないといけない。

 だったらもう全部揃えても良いんじゃないかと何度か思ったりした。



 その結果、持ち運びを重視し、必要最低限のみにしようと思ったのだ。



「そして、ゴーレムを作って――」「待て、ゴーレムってあのデカイ人形だろ」

 ジャンが起き上がって、わたくしの言葉を途中で遮ってゴーレムのことを確認した。


「そうですねぇ」

「そーですねって、そんなもん作ってどーすんだよ。戦うのか? 何と?」

「基本的には畑の面倒を見て貰います」


 ちょっと豪勢だとは思うが、24時間文句も言わず働いてくれるのだ。

 後々うまくいったときを考えるとありがたい。



「爆破した岩盤を砂にする作業、近づいてきたスライムを倒して砂と混ぜる作業、定期的に水やりをする作業……などをこなすため、大きいのがひとつ、小さいのがふたつ必要ですね」


 その材料調合をエリクに頼んでいたのだ。そして、全て完成したという。



「……岩盤を砕く強度が砂にはありません。だから硬い金属で作り、成形しやすい流動金属が必要でした」

「なるほど……だからミスリルか鋼が欲しかったのか」

「そういうことです」



 わたくしは素直に頷き、土壌作成計画は『スライム・ゴーレム・大量の金属・雨呼びの雲』という錬金術のアイテムを含めた全てが必要だと話す。



「錬金術で、鋼を流動的な魔法金属にし……ゴーレムを成形する。そして、命を吹き込む。流動金属はその時点で固まるそうです。雨呼びの雲は……中級素材が必要なので……。まだ出来なくても良いですが、作物が芽吹いて育ちはじめた頃までには欲しいですね」


「ご大層なこと考えてるもんだ。おれがあんたくらいの頃は――」

 そこまで自分で言って、ジャンは急に表情を歪めた。


「……なんでもねぇ」

「はあ」


 急に機嫌を損ねてしまったらしく、ジャンはこちらに背を向けるようにして横になる。少しばかり拒絶の意思を感じた。



「難しい話ばっかりでわかんねえな。眠くなった」

「寝ていて大丈夫ですよ。スライムが来たら起こしますわね」

「自分で追い出せよ」


 そうして、わたくしとジャンは二人が戻ってくるまでの間、無言で過ごしていた。




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こめんと

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