【悪役令嬢がリメイク版で敵側のヒロインに昇格したのに、恋愛どころじゃないんですけど!/27話】


 わたくしたちのテーブルにジョッキを持ってやってきた見知らぬ男性。


 長さがばらばらの、オシャレとかに無頓着そうな灰色の髪。

 それでも不潔そうではなく、野性味を感じさせる髪型で、この人によく似合っている。


 この世界で黒瞳が珍しいかどうかは分からないが、わたくしには懐かしさと親しみを感じさせる色合いだ。


 つり目できつそうな印象だが、よく見れば素敵な顔つき。

 急にやってきたので絡まれるのかと思ったが、普通に空席がなかったようだ。


 断る理由もないため、エリクは男性に頷きを返す。



――……あ。この人、多分パッケージ裏にいた。

 確か剣を持っていた気がするけど、もしかして……。



「あの。お兄さんは傭兵さんですの?」

 思わず聞いてしまった。


「あん? なんで……傭兵だ、と思ったんだ?」

 ぶっきらぼうな口調で逆に問い返される。質問しているのはわたくしなのだが。


「だって……炭鉱で働いているような格好には見えませんもの。ふらっとテシュトに寄った剣士さん……、にも見えなかったので……依頼が終わった傭兵さんかなと」

 わたくしは男性の着ているレザーメイルを指し、敵意がないと分かってもらえるよう微笑む。


「……ガキのくせに、まあまあ洞察力あるじゃねーか」

「うふふ。褒められてしまいました」


 朗らかな子供であることを装ってみるが、見知らぬ男性には変化がないのに、エリクとレト王子のわたくしを見る目が監視者のそれになる。なんでだ。


「そのお嬢ちゃんの言うとおり。おれははした金で雇用者を守って戦う、しがない傭兵だ。あんたらは見たところ術士のようだが、こんな街に何しに来たんだ?」

「鉱石を買いに。錬金術の研究に必要なので」

「錬金術ぅ? ああ、あのよくわかんねえ鍋で煮るヤツか」


 多分合成釜のことを言っているのだろう。しかもだいたいあっているから訂正は不要だし、エリクもそんなところですと言って頷いた。


「わざわざこんなとこまでご苦労なもんだ」

「鍛冶屋が近くにないからとここまで来てしまいました。本当に物好きですよね。本当に……」

 エリクめ。遠回しにわたくしへの文句を言っている。


 男はあまり錬金術に興味がないのだと思う。本当にどうでも良さそうな相づちを打って、ジョッキを呷っていた。


 しかし、人と関わりをあまり持ちたくないであろうヒョロゴボウその2であるエリクが、年長者だからとわたくしたちを守ってくれている。ありがとうエリク。


 彼に感謝しつつ、このお兄さんについて考える。



 十中八九……リメイク版で攻略対象者として現れた新キャラだ。

 どちらのルート対象なのかは知らないが、エリクの時と同じように、うまくいけばこちらの仲間に引き込むチャンスなのだと思う。


 しかし、どう話を持っていけば良いのか……。


 ボディガードとしてお願いするにしても、普段わたくしとレト王子は魔界にいるので、出かけるのは週に数回だ。

 いつでも行動できるよう期間限定で拘束することになるなら、費用も発生する。


 それに、エリクの所に置いておくわけにもいかないし、魔界に置くなんてもっとムリだ。


「お……お兄さんは、この街に住んでいる傭兵さんですか?」

「いや? おれは転々と旅をしながら、金が無くなりゃ仕事を探してる。帰る家も、待つ人もいない。騎士じゃないから守るべき主君も要らず、いつでも自分の死に場所を探すだけさ」


 なんかかっこいいことを言っているようだけど、要するに……ただイケている住所不定の自殺志願者ということである。



 よく見たら……なんかあんまりお肉ついてないし……。


「あなた、ちゃんとご飯食べてますの……?」

「飯食う金があったら酒を飲むな。おこちゃまには分からねぇんだろうけど」

 そう言ってまた酒を呷った。



 体が資本の商売なのに食べるものも食べず、酒ばかり飲むなんて……なんて、だめな人なの……!?

 だから生きる気力もなくて、死に場所を探しさまよっているの……?


 この人も、誰かが見てあげないと死ぬのでは……?



「リ、リリー……!」

 わたくしのオカンスイッチみたいなものに電源が入りそうなのを悟ったレト王子が、わたくしを正気に戻そうと控えめに呼びかける。


「あんたらは、三人で旅を……?」

 怪訝そうな顔でわたくしたちの顔を見つめるイケメン。


「まあ、そんなようなものですわね」

「術士でご苦労なことだな。護衛くらい雇えよ……」

「そう、ですねぇ……」

 エリクの顔をまじまじと見ながら、他のテーブルに聞こえない程度の声で男は呟く。


 緊張で表情を硬くしながら、エリクも男にぎこちなく視線を向けた。


「おいおい、そう怖い顔すんなよ。ちょっと困ってる、って顔してるぜ」

 落ち着けよとエリクを宥めながら、わたくしたちの顔をじっくり見ている。


 ああ……これはもう覚えられたかもしれないな……。

 ここで逃げおおせても、何かの情報とかが出回ったら捕まるかも……。


「――どう見ても訳あり。何があったかは知らねぇが、そんな匂いがあんた達からするんだよ。そんな厄介ごとを抱えるあんたに単刀直入に言おう。傭兵(おれ)を雇う気はないか? 腕っ節には自信がある。損はさせないぜ」



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こめんと

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