「……つまり、わたしは彼と一緒に納品と買い物を代行しながら、街の様子を見ろと」
「そういうことになりますわね」
わたくしたちの素性をおおよそ知っているエリクは、急に瓶をたくさん持ってやってきたわたくしたちに驚きつつも、事情を把握してなんとも言い得ぬ表情をした。
「ラズールに行く用事なんて早々ありませんからね。それは構いませんけれど……そうですか。あなたのような方にも婚約者がいたのですか」
「もう違うとはっきり申し上げましたわよ?」
「いた、という過去の話です。まあ、わかるようなわからないような、と」
そうしてエリクは不躾にもわたくしの上から下までを眺める……という行動を、レト王子が軽く机を叩いて止めさせるまで続けた。
はっとしたエリクがレト王子と視線を交差させ、失礼、と謝罪する。
「まあ、過去ですからね……」
「そう申し上げておりますし、わたくしまだ全体的に成長中ですので」
「それ以上可愛くなると困るな」
にっこりとレト王子が微笑んでくれるのだが、さすがにずっとロリキャラでいたくはない。
あの出るところは出て、へこむところはへこむという、素晴らしいプロポーションと誰もがため息をつくような麗しい立ち姿になりたいのだ。
というか12歳の少女がここまで頑張っているのが凄いのでは? 天才少女と呼んで貰って構わない程度なのでは?
誰も言ってくれないので自分でそう思いながら、とりあえずクリフ王子の不興を買ったため、目をつけられた可能性があると話した。
「そうですか……。見つかったのは運がなかったでしょうが、あなたがたお二人は容姿が人目を引きますからね。週に結構な頻度で通っていたら、ひとの記憶にも残りやすかったでしょう」
そういうエリクも、素朴さはありながらも整った顔立ちだと思うが、仮に……レト王子と一緒にいて目立つかどうかと言えば、それは難しい。
最近にんじんにクラスアップしてきたゴボウ体型の顔立ちが良すぎたのだ。
「それぞれちがって、みんないい……ですわね」
「は?」
意味分からないという顔を男二人がする。
――おっと、呟きが漏れてしまっていたようだ。
ニコッととりあえず笑って誤魔化し、買い物リストを渡す。
「……油紙、硫黄、火蜥蜴の粉末……ふむ……各種結晶……」
それをエリクはざっと見て、何を作ろうとしているかが分かったらしい。
「既にこれは持っています。だからこれとこれ……これも……消します」
エリクは引き出しを開けてゴトゴトと材料をいくつか取り出し、リストの項目を消す。
「あら、こんなに? 助かります」
「いえいえ。そうだ――術符も、当然ご所望ですね?」
「――あなたが作ってくださるなら、ラズールで自分の買い物を10万ゴールド分まで許しますよ」
金額にすると相当なものなのだが、調合やマジックアイテム関連では、10万ゴールドなど即吹き飛ぶ額なのだ。でも、エリクは目を輝かせて反応する。
「それは嬉しい! 張り切って書きます。なんでしたら『もうひとつのほうの』アイテムの調合もしておきましょう」
「……なんて素晴らしいのでしょう! あなたがわたくしたちの力になってくださって本当に助かります」
わたくしとエリクは微笑みあい、それをよく分からない顔で見守っていたレト王子も、分からないまま微笑んでいる。
「レトも錬金術の本を見たでしょう?」
「読んでおおよその理解をしたものと、内容全部を覚えるのは違うぞ」
なんとなくわかりそうな、と言いながら首を傾げるレト王子に、エリクは正解を言いかけてわたくしに止められる。
「ここまで来たら、できあがるまで内密にしますわ」
「そうですか。わかりました」
実際、隠すほどのことでもない。
というか、実物を知ったらもしかしたら……不安がらせるかもしれない。
効果の程は、作らないと分からないし。
髪の色と目の色を変えて帽子を深く被ったレト王子と、何も姿を変えていないエリクがラズールに向けて出発した後、わたくしはエリクからもらった材料を鞄に収め、弓を構えると村の入り口へと進む。
「おう、嬢ちゃん。今日は一人か?」
羊を放牧しに行くオズさんと出会い、こんにちはと頭を下げた。
「ええ。二人は用事があって別行動です。ときに、このあたりにスライムは……のそのそ歩いておりませんか?」
「あのプヨプヨしたやつかい? いるぞ、少し行った西の沼地付近に。用事があるなら気をつけるんだよ」
「ありがとうございます。ちょっと数が必要なので、ちゃちゃっと倒して参ります」
えっと驚くオズさんに、軽く手を振って、わたくしは西の方を目指す。
魔界のスライムを倒そうとしたけれど、風が強くて弓は使い物にならず、王子に斬り捨てて貰うには数が必要でしたもの。
少なくとも材料として200匹は狩らないといけないので、わたくしが一人の時に熟練度アップを狙いつつ、討伐しておこう。