自分が履いている下着の右紐をゆっくり外すと、左側も引っ張って結び目をほどく。
足の間の叢を眼にすると、ルシさんは声にならない呻きなのか、息を吐いたのか判別できないような音を漏らした。
ニーナがわざとそうして指摘すると、ルシさんは後ろめたい気持ちを見破られたのか、視線を彷徨わせた。
「……僕はただ、ルカさんがこれからどうしようというのかを気にしただけで……」悪魔に薄汚いだとか狡猾だとか好き放題罵られたルシさんは、目に見えて怒っているものの、最低・最悪という言葉に良心が反応しているようだ。目を伏せ、反論さえできなくなってしまった。
ルシさんの前に足を開いて座り、秘所が見えるように指で押し開く。
興奮してしまったせいで、そこは十分なほど潤っている。指で触れれば、絡みつく滴と擦れる感覚に、ぴりぴりと微弱な快感が湧いてきた。
ルシさんの手を掴むと、指を蜜壷に触れさせ、引っ込められないうちに内部へ誘う。
「あ、あぁんっ……!」入ってきたルシさんの指は、やっぱり自分のものとは違う。そしてルシさん自身は顔を苦しそうに歪め、指をソコから抜こうとするのだが……
自分が天界の住人であることで、素直になれぬばかりか――ここで新たに芽生えてしまった抗いがたい欲求。葛藤や差異が生まれて……自分でもどうしたらいいのか迷っているようだ。
だいたい、さっきまであんなに抵抗していたのに――。一回達してしまったせいか、もうだいぶ素直になっている。
一生懸命自制しようと努力している……らしいけど、それでもジワジワ欲望が滲んでくるようだ。
それに、ルシさん……私がこうして快感を得ている姿や顔を、観察しているかのようにじっと見つめている。
「あ……んっ!」ぴく、と指がナカで小さく動いて内壁を擦り上げ……ん?
今のはわざと動かしたのかな? それとも、嫌がったのかな。とにかくその細かな動きにも、私は鼻にかかる声をあげつつルシさんを呼んだ。
「ルシさん、ちゃんと見てる……? あなたの綺麗な指、もう私の……やらしい液でびちゃびちゃにされてちゃってるんだよ……。自分の身体は、もう男の人が欲しくてしょうがないみたいだ。我ながら、考えていたよりも厭らしい身体になってしまってきている……。
まったくさー、これも、あいつの……、……?
これも……?
どうして、私がこうなったのか……誰のせいなのかと考えようとすると……サッと頭に靄がかかる。
顔どころか輪郭も思い出せない。
忘れちゃだめだ……。ダメっていうか……私がどうして魔界にいるのか、が既に思い出せない。
そうだ、私、どうしてこんな厭らしいことを平気でしようとしてるの?
しかもルシさんはさっき出会ったばっかりだっていうのに、飲精までしちゃったよ。
そもそも、ルシさんとどうやって出会ったんだっけ?
……そうだ、倒れてるルシさんを誰かと見つけて、喧嘩して……誰かって――……誰?
記憶の中で、誰かの声が思い出された。
親近感のある、この声は安心するけど――
ちょっと……やだ……! どうして思い出せないの?
焦躁に駆られ、そのままニーナへ顔を向けると、彼女は怪訝そうに片眉を上げて私と視線を交差させる。
「誰と……っ!」ずきん、と頭が痛む。思いだそうとすればするほど、頭は痛くなって吐き気もする。
「ルカちゃん? なんで泣きそうな顔してるの?」ニーナは人差し指を自分の唇に置いて、クスリと笑った。魅力的な赤い唇は、指に押されてその形を蟲惑的に魅せる。
「大丈夫……ちょっとだけ、記憶を封じさせていただいたんですよ……。私の困惑に気が引かれたのか、ルシさんがゆっくり顔を上げ、ニーナと私を交互に見比べている。
「大切かどうかは……あたしにはわかりませんけれど。いいじゃないですか。終わったら思い出せるようにはしてあるんだから」狼狽する私の手を、そっとルシさんは自分の方へと引っ張って気を向けさせる。
私を見上げるルシさんは、不満がありそうな眼をしている。
「……貴女は、魔界の住人を……悪魔を愛しているのですか……?」だって、一緒の暮らしている人の顔も名前も思い出せなかったら、不安にもなるじゃない。
ルシさんにもそう説明したのだが、ルシさんは半分納得したような、半分疑惑の入った眼差しを向けてくる。
なんか、こんなふうに居心地の悪い視線を向けられる覚えは……ないはず……。
「とにかく……思い出したかったら、早いところ――」そんなどこか気まずい空気の間に入ってきてくれたニーナは私の肩を押し、ルシさんの身体を跨ぐようにして立たせる。
「――シちゃってください。魔法解けますから」そうか。ルシさんを気持ちよくしてあげるっていうことも途中だし、私の魔法も切れるんなら早くやっておかなくちゃいけないよね。
「ごめんね、ルシさん……待たせちゃった。身を堅くするルシさんだったが、逃げようとか、私を押し退けようという気持ちはないようだ。
ルシさんの上半身にゆっくり片手を添えて……もう片方で上を向いたままのアレを握って、期待に蜜を吐き出す陰部にあてがう。
じゃあ、早速……。
「待っ――ルカさん……! それはやはりダメです……! 姦淫だけは、やめっ……、やめてください……!」あ。急に拒否し始めた。
し始めたけれども、どうしてだろう……。
私には、ルシさんが全力で拒否している……ようには、見えない。
だって、止めるために私の腰に手が添えられているけど、そこに触れている手――全然力が込められていない。
いくらが力が抜けているからって、抵抗できないことはないはずなんだけど……。
……ははぁ。罵られたいのかな。それとも、ニーナが言ったみたいに実はもう天界に帰るの諦めているのか、これからの行為に期待しちゃってるのか……。ふるふると首を振る仕草が、なんか可愛い。でも、一応……聞いてあげないとダメかな。
「そんなに、やめてほしい?」私の言葉にこくりと素直に頷くルシさん。
「ルシさんは……それでいい? 構わないのね?」逡巡した後、彼はそう言い――私はもう一度、教えてといって顔を近づけた。
「お願いします……、って、自分でもう一度ちゃんとはっきり言って?こくりと力強く頷くと、それを信じたルシさんは……
一瞬残念そうにも見える顔をしてから、か細い声で『お願いします』ときちんと『お願い』……――いいや、違うな。『おねだり』をしてくれた。
え? という顔をしたルシさんを見つめながら、私はゆっくり腰を沈める。十分に濡れそぼった肉襞をかき分けて、ルシさんの肉槍が奥へと侵入していく。
「ああ……っ! ルシさぁんっ! 私のっ、中に来てるっ……!」こんな時にまで、神様に縋ろうとするルシさん。
でも、私は自分でさらなる快楽を貪ろうと、ぐいぐいと腰を揺すりながらルシさんを少しずつ飲み込んでいく。
「あ……いや、だ……神が、お怒りに……! ルカさん、貴女はなんと、惨いことをっ……!」少し腰を上げれば、ぬちゅりと淫靡な音が室内に響き、私とルシさんにざわざわとする快感を与えていく。
「あっ……ああ、ルカさん、貴女はっ……! 人でありながら、その心根をっ……、悪に染めるおつもりですか……!」ルシさんが私をまだ糾弾してくるけど、その声にはもう威厳はない。
天使でも、もう何もできないんだ……。そう思うと、なんだかルシさんが虚勢を張っているように思えて可愛らしく、下で淫らに繋がったまま唇を重ねた。
「うふ……悦んでる……ルシさんのアソコ。びくびくってナカで動くのぉ……っ! 私の中で、ちゃんと『いる』って示してるよ……」止むことがない快楽を耐える天使様は、気がつけば私のお尻に両手を添えていた。
指先が食い込むくらい、結合部を深く押さえつけている。
「エッチね……ルシさんも。こんなに汗だくだし、お許し下さいって……あぅっ……! 許してって言いながら、逆の事し……あ?」蕩けそうな快感を味わう私が見たものは……目の錯覚かと思う程度のものだった。
ルシさんの純白の翼に、黒っぽい靄……瘴気……とは違うものが、吸着されている。
そして、ルシさんの羽根が、少し黒ずんできたのだ……!!
「……うふふ……」
後ろでそれを見ているはずのニーナの、押し隠そうとする小さな笑いが聞こえた。
どうやら……これを、待っていたみたいだ。
「ル、シさ――……!」羽根が大変なことになっている、と教えておこうとした矢先、私の頭にかかっていた靄も、さぁっと離れる。
記憶の一部がスッポ抜けたみたいになって、すごく変な感じだったから記憶が戻ったのは、スッキリして全部記憶が元通りになったってことには間違いないんだけど……。
今まで分からなかった『誰』かのことも、全て思い出した。
「――ぁ……」瞬間、私は頭から水をかけられたかのように……身体が震えた。
私に組み敷かれているルシさんは、私が助けようとした天使で……既に彼を『助ける』なんて事は不可能だ。
しかも、私自身で――汚してしまっている。
「く……っ、ルカさん……!」もう私は動いていないのに、添えられた手に力が込められている事や、ルシさん自身の腰が勝手に動いてしまっているのも……判っていないのだろうか。
私は、ルシさんと繋がっている部分へとゆっくり視線を落とし、自分だけではなく彼の下腹部までも蜜で汚していることに気がついた。
肉に絡んで、結合部から滴るそれは……とても、正視できるものではなくて目を逸らす。
なんてことをしてしまったのか。
それに、こんなところを――ヴィルフリートに見られてしまったら、どうしよう。
別に私とあの悪魔は恋人でもなんでもない。だけど、背徳感がこみ上げる。
「ああっ……ヴィルフリートっ……! ごめんなさ……!」どうして、そう口走ってしまったのかもわからない。
はっきりと漏れた言葉は当然、ルシさんにも聞こえている。お尻を掴んでいた指は、私の二の腕へ場所が変わった。
「ルカさん……僕はそんな名前じゃありません……! 一体誰を考えているんです?!」なぜか怒られてしまった。
ヴィルフリートというのはあの悪魔のことですかと問われ、何故かそっちに対しても口ごもってしまう私。
「どうなのですか!」ぬち、と下から突き上げられて、私は快感に依存した悲鳴を上げた。
「っ、ルシさん……、ごめんなさぁ……! あっ、ああっ!」更に激しく責められて、私は止められない喘ぎ声を上げ続ける。
「あああっ! 待って、ルシ、さんっ……! あっ、あッ……! おくっ、あたっちゃう……! あたっ、ひゃ……ううう!」さっきまでとは何故か形勢が逆転して、ルシさんは自分も大変なことになってるのに私に尋問している。
「る、るひ、ひゃぁあん……! 羽根、はね、がぁっ……! 大変、なのっ……!」怒りをぶつけるように吐き捨てると、ルシさんの柱はギリギリまで引き抜かれ、そのまま私の最奥まで一気に貫いた。
「あ、んんっ……ふぁああぁんっ……!」身体を駆け巡る快感に、すっかり欲に蕩けた身体がぶるぶると震え、結合部がひくついてルシさんをきゅうと締め上げる。
「ルカさん……!」彼も相当気持ちよさそうな顔をしていて、ルシさんの手は私の胸を揉みしだいている。
「さっきから胸が目の前で揺れて、僕を誘うんです……。厭らしい躯だ……!」私が動かしているわけではなく、ルシさんが動くと振動も動きも身体の中に直接伝わって、互いに甘くて激しい快楽の波がやってくる。
「ふぁっ……、あう、ふ……やぁあっ……! ゆるし、て……! くださ……イっ……!」快感に濁ってとろんとしたルシさんの瞳は、なんだか昏いものを感じさせた。
「許すわけ……ないじゃないですか……? ルカさん、責任はちゃんと……取って下さいね」責任、と耳にした私は……何か薄ら寒いものを感じたけれど、それは何かと聞こうとすると、再びルシさんに突き上げられた。
「あっ! ああんっ! や、そこ、だめ……! 気持ち良くなりすぎ……て、もう我慢がっ……できな――」がくがくと、私の身体が震える。頭も真っ白になってきちゃって、いろいろ、ほんとに限界で。
「い、やぁ……! 私、もう、ルシさんっ、もうダメ……! イッちゃ、イッちゃうっ……!」頭を振って抵抗しても、ルシさんは歪んだ笑みを見せて突き上げるのを止めてはくれない。
「いいですよ。そのまま、達してください……! 一緒に……っ!」もう、我慢が出来ないと思った瞬間……部屋のドアが思いっきり開かれた。
「ルカ! 詳しいことと説教は後だ……! そいつにイカされるな!」血相変えて姿を見せたのはヴィルフリートだった。
そう言われても、我慢できない……! しかも、なんで、アイツっ……!
こんなときにっ、そんな、バカなセリフしか、言わないのよぉぉっ……!!
でも、姿を見せてくれたことに対してだけは……よかった、と思ったらもう、ダメだった。
「ば、ばかっ、ば、かっ……や、あ、あぁっ……! あ――、っ、ヴィル、フリーーーッ……トぉぉぉ!!!」ぶるぶる震えながら、その瞬間を迎えてしまった私の顔を見て、ヴィルフリートが全速力で駆けてくる。
そのままずかずかと私たちのところに近づいて、私の身体をふんだくるようにして腕に抱くとルシさんから毟り取る。
「……ふ、ああぁ……ッ!!!」まだ絶頂に浸る私の足を高く上げて、ヴィルフリートはおずおずと私の陰部を指で開いた。
その刺激でさえ、絶頂を迎えたばかりの身体には過敏に伝わって、ぎゅっとヴィルフリートのマントを掴む。
でも、本当に少し……遅かった、みたいだ。
私のそこには……もう、ルシさんの達した証がなみなみと注がれていた。
「てめえ……!」ヴィルフリートの怒った声に対して、ルシさんの涼しげな声が耳に届く。
「ルカさんには……天使の『贖物』確かに背負っていただきました」な、に……? あが、もの……?
ぼうっとした頭をもたげてみれば……ルシさんが、くくくと喉で笑いながら私を見下ろし……ヴィルフリートが唇を噛み締めてルシさんを恐ろしい形相で睨みつけているところだった。