【魔界で従者を手に入れました/7話】

ヴィルフリートの腕の中で必死の抵抗を試みてみたものの。

しっかりとした男の人の身体は、私をぐっと押さえこんで離さない。

お互い裸で密着しているわけだし、肌に触れあう感触は(無理やりだったにしろ)エッチなことをしていた時より生々しかった。

「ちょっ、と……離しなさいよ! 変態!」

それを思い出しちゃって、想像を追いやりつつ抵抗するために腕をばたつかせると、ヴィルフリートの顔に手が当たってしまった。

「オイ……暴れんなよ」

ぎろりと鋭い目で睨まれ、主に身の危険という意味で恐怖を感じた私は……小さくハイと返事をして極力動かないようにと身を固くした。

絶対この人、目ヂカラだけで人が殺せるよ。

人形のようにおとなしくなった私を見て、よしと小さく返事をすると……大理石みたいな独特の模様を持つ石でできた浴槽のふちへ私を降ろして座らせる。

――……お風呂は広くて綺麗。ヨーロッパの職人につくらせましたと言われても納得する。

装飾は……細かくてうねうねしてる飾り彫りのような豪奢なものがびっしり彫られていて、床から天井までの高さも結構ある。

ギリシャ彫刻みたいな感じの壁画? 壁面彫り? ……なんて言うんだったかな。

バロ……ック、様式? とかそういう雰囲気がある。一言でいっちゃうと、装飾盛りすぎ。

すっごく高級感があって綺麗なんだけどね。庶民にはくつろげるお風呂じゃないよ。

そうそう、私なんかには黄色い洗面器のある銭湯とかのほうがよっぽどいい。

(そのほうがいいんだけどね……ここでわがまま言ったってどうにもならないよね)

魔界に銭湯なんかあるわけないし。


はぁ。やんなっちゃうな……。とため息をつくと、お湯を足先から太腿、お腹と掛けられた。

「熱くないか?」
「えっ…………う、うん。大丈夫……」

お湯を私の身体に掛けながら、ヴィルフリートは気を使ってくれてる……みたいだった。

なんだ、ちょっとはいいところある……ん?

「ねえ、なんかこのお湯、色が変。匂いはいいけど……」

お湯の色は茶色くて、透き通っているけど……こういう温泉あるよね。そんな感じ。

そんな色のお湯に、なんだろう、お花? なのかな。入浴剤にありそうな、フローラルな香り。

「ああ、水か。気に入ったのか?」
「うん。気分が和らぐ感じがする。なにこれ?」

コイツで中和している、と言って、ヴィルフリートが浴槽の中からずるりと何かを引きずり出す。

べしゃ、と水っぽい音を立てて雑巾みたいなものが放り出された。


床に出されたのは、人の顔のようなものがついている……草。

しわくちゃのお年寄りが苦悶の表情を浮かべているみたいな顔。

そんな感じなのが長いこと水の中に放置されていたのか、変色して茶色くなっていた。

根っこにあたるような部分は、まるで腕から先がついているみたいに、無数に枝分かれしていて……先っぽは必ず指の数と同じく五本に分かれていた。

「きゃあああぁッーー!! 何よこれぇ!!」

思わず悲鳴を上げながら立ちあがると、太腿などにかかっていた水を手でばっばっと払いながらその場で足踏みをして落とす。

身体の上から滑り落ちる水滴が、ぱたぱたと床へと零れ落ちていく。

「何って、コイツは草の魔物だ。入れておかないと、水が中和できねぇんだよ。いい匂いって気に入ってたんだから別にいいだろ」

まるで変な生き物でも見たような顔をして、ヴィルフリートの眼は私を追っている。

「良くない! やだもう……気持ち悪い……要するに魔物のエキスが匂うんじゃん……」
「そういうことだ。しょうがねぇだろ、こいつらはいくらでも生えてくるし、こっちも助かってんだから」
「もしかして、こいつの水を飲んだりするの?」

あまりの気持ち悪さに視線を逸らしながら聞いてみると、飲むのは別の草の魔物をいれたもの、だという。やっぱり草の魔物なんだ……。

「私には入ってないやつ頂戴」
「面倒だな。自分で川から汲めよ」

飲んで大丈夫なのかな。病気になったりしないのかな……という心配をしていたら、再びヴィルフリートは私にお湯を掛けようとする。

それをサッと避けると、彼からとても気に入らない、とでもいうような目を向けられた。

「避けんな。洗うんだろ」
「だって……」

普通の水質のお風呂入りたい――と言うと、またイラついたらしい。

ヴィルフリートの赤い瞳に静かな怒りが灯ったのを私は見た。

やばい、と思った時には腕を掴まれ、胸に抱えられるとざぶざぶお湯で流されてしまった。

「やだー! やだったら!」
「いい加減にしろ! 暴れるとここで犯すぞ!」
「それはもっと嫌ー!!」

お湯は正体を知らなければよかった。世の中には知らなくていい事って、割と身近にある。

いい匂いではあるんだけど、全然気分は晴れたりしない。

しかもその草は石鹸代わりにもなるみたいで、草が髪の毛みたいに生えているところを毟り、私の身体に押し当てて軽く泡立てている。

「ッ……!」
「暴れたら分かってんだろうな」

犯すぞ、という響きが込められているので、抵抗も出来ず嫌悪感と戦う私。

もう……お風呂嫌いになりそう。

頼んでもいないのにヴィルフリートは指で私の身体を洗ってくれるんだけど、なん、か……手つき、ヘン?

「ヴィ、ルフリート……? あっ……! やっ、あんたの洗い方、変だよっ!?」
「あー。気にしなくていい。折角だから洗いながら楽しんでるだけだ」

ちょっと……! 何考えて……!!

でも、胸を揉まれたり、太腿を撫でるように洗われたりすると、身体が勝手に反応を返す。

しかも、このスケベ悪魔……私の胸の先をきゅっと握って摘まんだり、厭らしいことを平気でする。


知らない男に身体を触られたりするのは冗談じゃないけど、なんで、かな……。


そんなに、嫌じゃないんだよね……。ああ……どうしよう。なんか身体が熱く……。


「あっ、はぁ……っ! ヴィルフリート、もうやめてよ……! 私、なんかおかしい……」
「当然だろ。言い忘れたが――この草を人間の身体に塗って泡立てると、催淫効果がある。便利なもんだぜ」

――……さいいん。

つまり、エッチな気分にさせるってこと?

「ちょっとっ……あっ! ……あんた、まさか最初からこれも狙って自分の服っ、脱いだわけ……!? ひぃんっ!」

この悪魔っ、と罵ると、そうだよという当たり前の返事があった。

こいつらには『悪魔』なんて(けな)す言葉にも褒め言葉にもならない。

変なことをされないようにと思って太腿をぴっちり合わせているのに、その間から無理やり手を入れてきて、また私の秘部に指を伸ばしてそっとなぞる。

ぞくぞくするような感触と、電流が身体に走るような感覚が背中に走った。

「っ、はぁ……あっ……!!」

喘ぐ唇へ、ヴィルフリートはさっきよりもずっと優しく唇を塞ぐと、舌をぬるりと絡めてきた。

恋人にするようなやり方なのかどうかは……恋人いた事ないからわからないけど、こんな感じ?

でも相手はヴィルフリート。気持ち悪いのに、頭がぼうっとして……抵抗する気力すらも奪われてしまってて、もう……どうしよう……このままじゃ……。

「いい反応だ。お前の『ここ』も十分な湿り気があるし、遠慮する必要はなさそうだ」

そうして力が入らなくなった私を浴槽のフチにつかまらせて、ヴィルフリートは満足そうに立ち上がる。


また『そっち』も勃ってるし。


浴室には私の悲鳴が木霊した後――……また、今日二度目の痛い思いをしなくてはならなくなったのだった。


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