ラーズが停泊している船に戻ってくると、乗組員達はほっとしたような表情を浮かべる。
彼らは船の主であるフィーアのことも、ラーズの後ろに続いているとばかり思っていたようで、彼が一人で戻ってきたと理解したときは戸惑いの様相を見せた。
「大丈夫ですよ。先ほどの大混乱があった後だ。
船員にとっては主人の無事を確認したいだろう。
そして未だ船内も慌ただしい声が遠くで聞こえてくる。
主人が不在の今、指示や新たな情報を知りたいとラーズを不安そうに見つめてくる彼ら。
「ふむ……船内に負傷した乗務員や、破損箇所はありますか?」水夫はラーズに礼の姿勢を取り、素早く持ち場へと散っていく。
安心させるために指示は出したが、フィーアが戻ってきたところで、もっと忙しくなる。どの場所も一刻を争う状況なのは変わらない。
すぐにミュリエルとイルメラを探そうと思っていると、奥のほうからドタドタと慌ただしい足音と、女の声が聞こえてきた。
きんきんした高い声が耳を打つ。
確認するまでもなく、イルメラが視界に飛び込んできた。
相変わらずラーズとシェリアを名前ではなく『イリスクラフト』と呼んでくるのはなぜなのだろう……と、イルメラとミュリエルの両名の姿を確認しながら、ラーズは頭の片隅で思う。
「あれっ? 一人? レティシス様やみんなは?」意外そうな口ぶりで、ミュリエルはラーズに確認を取る。
「ベルクラフトを拘留した際の所持品や調書を確認したいのです」するとミュリエルの表情は曇り、申し訳ありませんが、と頭を下げた。
「調書作りについてはわたし達、一切関わっていません。ラーズがそう説明すると、あからさまにミュリエルの顔が引きつった。
「あの、それは……ですね……。これは面倒ごとになる。
そういう感情も透けて見えている。
「以前からギルド内には……確かにベルクラフト家への不信感はありました。ミュリエルは、それなりに思うところや事実をまとめて話してくれたようだ。
ラーズは大仰に頷き、ミュリエルの意見に対しても正直に述べてくれたことへ礼を告げ、平然と『わたしが行くのではありませんから』と言った。
と言い――ミュリエルをとてつもなく驚かせた。
コメント
チェックボタンだけでも送信できます~