【ルフティガルド戦乱/37話】

カイン達と共にベルクラフトの屋敷へ突入した恭介。

だだっ広い屋内にもうもうと砂埃が舞う中浮かんできたのは、人間の三倍はあろうかという巨大な銀獣だった。

青みがかった不揃いの体毛。

狼のような狐のような、細長い形状の顔。低く唸る獣の口には、相手を噛み裂くための鋭い牙が並んでいた。

頭部から突出する捻り曲がった角は、まるで山羊の角を思わせる。

魔物と向かい合う魔術師の老人……そして、シェリア。

そこに【在る】展開――本に載っていた記述とは異なる事――に、恭介は人知れず興奮と感動を覚えた。

当時12歳の少年だった恭介は、本……『ルフティガルド戦争』と共にこの世界に来てしまってからも、幾度読んだか忘れるほどにその本を読み返し……『自分は何がしたいのか』を考え続けた。

やはり、何度考えても『カインとシェリアが共にいて欲しい。悪しき事から回避させたい』という想いが強い。

そうすれば、きっと後の展開は、悲しいことにはならないと思ったからだ。

だが、本の記述が変わらない事もあったし、事象を変えようとすれば反動がある。

あの本が発火した理由など、正確にはわからない。

ルァンは歴史が大きく変わろうとしているから本が消失したというが、恭介もこの状況に立ち会って、ようやくその実感が湧いてきたようだ。

いなくなったシェリアはここにいる。カインも救出できると確信に近い希望を抱いてここにいるはずだ。

だからこの状況は……きっと乗り越えられるはず。恭介はここが正念場だとカインに祈るような目を向けた。


「……貴方が、デルフィノ・ベルクラフトさん……ですね」

だが、口を開いたのはラーズだった。

意外な事に、シェリアへの問いかけをするでもなく、真っ先に老人へと声をかけたのだ。

「……ラーズ・イリスクラフト。そして……随分大勢で詰めかけたものだ。
君たちは旅の途中ではなかったかな。こんなところで寄り道をしている場合ではあるまいよ」
「本当にその通りです。わたしは盗られたものを取り返しに立ち寄っただけ。
そこにいるシェリアと……隠している我が母ランシールを」

すると、獣はぴくりと顔をラーズの方へと向け、それを視認したデルフィノは小柄な体躯に似合わぬ大きな笑い声を発した。

シェリアは俯いたまま、ラーズやカイン達を見ようとはしなかった。

「……ランシール。知能は失せても、母性は残っているということか。それとも匂いで分かるのか? 貴様にとって、大事な息子だものな」

嘲弄して銀獣に視線を送るデルフィノ。当のランシールは紅い目を息子であるラーズへ向けている。

ラーズはデルフィノの言葉に困惑しつつ魔獣の様子を注視するが――やがて、彼の口から僅かに呻き声が漏れた。

「……禍々しく棘のある魔力のなか、微かですが……懐かしいものも感じます。
忘れまいとした、その魔力。貴女は、本当に……ランシールなのですね」

悲しげな笑顔を変貌した母親へ向けるラーズ。

ランシールは、喉の奥できゅるる、と小さく声を出し……自身の爪を、ゆっくりラーズへ伸ばす。

無論、それは届かぬ距離だ。

「ラーズ……!」
「お静かに。貴方は口を開く必要は無い」

カインが剣を抜こうとするのを杖で制し、ラーズはランシールの行動を見つめ、朧気な記憶の中の母を思い出す。

『ラーズ。シェリアをお願いね』

その約束をしたとき彼は幼すぎたから、母の顔も良く覚えてはいない。ただ、悲しそうな緑の目とその言葉が、今まで自分の中に残っていた。

伸ばしても届かないその爪はラーズの身を裂こうとする意志を感じない。それどころか、その届かない距離は別れを求めるもののようにも感じる。

「らー……ズ」

掠れる獣の鳴き声が、自分の名を呼ぶようにも聞こえた。

杖を震えるほどに強く握りしめ、ラーズは怒りを込めた眼差しをデルフィノへ向ける。

「……ベルクラフト。貴方は取り返しのつかない大変な事をしてくれました……。
もはや、あなたを許すわけにはいかない。ここで、一族の争いも終結させましょう」

ラーズは杖を自身の眼前に構え、戦いの意志を見せるが――デルフィノはほくそ笑むだけだ。

「大変な事、か……そうだな、わしの不在の間、オルフェオは大変な事をしてくれた……。
まさか治療の金銭を惜しんでこの娘にグラナトコープスを投与したとは、バカな息子だよ。
おかげでイリスクラフトの魔力と血を手に入れる機会もまた失われ、ランシールも魔獣化している……魔術ギルドにも勘付かれてしまうのは時間の問題。
息子を二人……そちらにとっては弟を一人失ったか」

こつ、と踵が床を叩き、階段の上を見上げるデルフィノ。

「……ランシールには拒絶され、母の愛を知らぬ子ではあったから、シェリアを逃がさないのではないかと思ったが……ふん、最期に姉へ情を持つとは思わなかった。
ついさっき始末したが、あれも愚息であった」

姉、と聞いたラーズは、まさか、と口にする。

「……母と貴方の」
「そうだ。お前達の異父兄弟でもある」
「……!」

もしかしたら血縁者がいるかもしれないと思っていたが、いざ事実を知ると……心の中に、様々な感情が押し寄せる。

「……実の子を手にかけたとは!!」
「それなりに可愛がっていたよ。わしの言う事を訊いている間はな。
不必要な物は切り捨てる。代わりは……術師の女でも連れてきて子を産ませればいい。
イリスクラフトの血を取り込む事も、いずれまた巡って来よう。そうそう、お前の子に娘がいるだろう? それで構わん」

悪びれもなく告げる老人に、ラーズは理解が出来ないと頭を振った。

「ベルクラフトがどうということじゃない。
貴方がたのやっていることは狂っている。正しい事も悪い事も分からないほどに歪んでいる!
腐った性根は正しくあり続ける事は出来ない。滅ぶべしベルクラフト!」

激昂するラーズの言葉を受け、老人は口の中で短く術を紡ぐ。

すると、シェリアの指に嵌められた指輪――父ルドウェルから渡されたもの――が、紫色の鈍い光を放ち、弾ける。

「……あぁああああーー!!」

その途端、黙したままだったシェリアの身体を電流のような光が駆け巡る。激しい痛みに耐えきれず、シェリアの喉から悲鳴が絞り出された。

「そうだ、お前には悲鳴が相応しい!! 我々一族に泣いて詫びろ!! 一生を捧げるのだ!!」

肩で荒い息をするシェリア。彼女の目は仲間を見ようとはしない。助けて、とも言わない。

術の効力が切れ、がくりと膝をつくシェリア。

腕には赤く輝く魔法の鎖が未だ毒々しく絡みついており、先ほどの魔法もその鎖も指輪から出ているようだ。

「シェリア様! 今お助けしますから……!」

フィーアの声にも、シェリアは振り向こうとしない。背を丸めるようにして項垂れ、首を横に振るだけだ。

「シェリア……?」

カインの声が投げかけられるとシェリアはびくりと身体を震わせ、振り返ろうとして……止める。

「……もう私のことは、忘れてください……」

シェリアの口から発せられた言葉は、忘却を願うものだった。耳を疑った一同に、デルフィノはくつくつと笑うだけ。

「聞こえただろう。イリスクラフトの娘は我々に従う……いや、もはやイリスクラフトでも……人間でもない」
「なんだと……? その人に何をした」

リエルトが反射的に尋ねた途端、ランシールは突如唸り声を上げ、身を低くする。どうやらリエルトを敵と見なしたようだ。

恐ろしい殺気を感じながら、リエルトは細剣を抜く。

「銀の兜……オルフェオの言っていたアルガレスの皇子か?
ふふ、今までこの娘を手放さなかった事……こちらも随分と辛酸を舐めさせられたが、厄介払い出来たと喜んで構いませんぞ」
「そんな事を訊いてはいない。その女に何をしたかと聞いている!!」
「その女、とは随分他人行儀な事ですな。まあそれも仕方ありません……この娘はもはや化け物となる因子を取り込んだ。
やがてランシールのような魔獣となるのです」

信じがたい事実に、リエルトは言葉すら発せなかった。それはラーズも恭介も同じで、指一本動かす事が出来ず、言葉の重みを自身の中で反芻しているだけ。

だが、一人だけその場から動いたものがあった。

「――ベルクラフトぉおおお……!!」

長衣を翻し、ウィアスを引き抜くとラーズ達の間をすり抜け、デルフィノへ斬りかかろうと疾駆するカイン。

「おやおや。勇ましいお嬢さんだ。わしを斬るつもりかな?」

怒りに満ちた形相を愉快そうに眺め、シェリアの肩を掴むと自身の前へと突きだす。

突如刃の前に差し出されたシェリアは驚きに大きく目を見開き、カインも振り下ろしかけた剣を懸命に止めようとする。

力を流そうとするカインだが、膂力の乗った剣はそう簡単に変えられるものではない。

「くそっ……!!」

悪態をつきながら剣の軌道を変化させることにより、シェリアの身体を傷つける事はなく、ウィアスの刃先は床石を削る。

息を吐きながら、シェリアに目を向けたカイン。二人の視線が交わり、シェリアははっとした表情を浮かべた。

目の色ばかりは隠せていないし、ウィアスがあるので斬りかかってきた謎の人物が誰なのか気づいてしまったのだろう。

シェリアに手を伸ばしかけた瞬間、カインはシェリアの指先……指輪が輝いたのを見た。

途端、突風が幾重の刃となってカインの身体を傷つける。

「う、ぐあぁっ……!」

至近距離で発される魔法は、カインに避ける隙など与えなかった。

体中から血花を散らし、風圧に押されてカインは床に倒れる。

駆け寄ろうとするリエルトが動いた瞬間、ランシールが彼に飛びかかった。

「うわっ……!」

すんでのところで攻撃を避けたリエルトを助け起こす恭介と、急ぎ弓を構えるフィーア。

「リ……」

思わずリエルトと名を呼ぼうとしたシェリアだが、正体を知らせる事になって困るのは彼だと判断したのだろう。

そして、自身の指輪を不安そうに眺めた。

「……この、指輪……どうして」

今、自分は魔法を使えないはずだ。そして、こんな攻撃用の呪文も識らない。

疑問を理解したデルフィノは、刻印魔法だと教える。

「ルドウェルが我々へ伝えたのだ。その指輪にかけられた術の使い方を。
『魔法』というものは魔力に限りがあるでな、通常、そうたくさんは使えん。
が、それは魔法の指輪。刻印された魔術を発動する言葉があれば魔力のないものでも扱える。
術さえ知っていれば、指輪を嵌めている者を戒める事も、そこから魔法を発する事も可能というわけだ」

皮肉な事に、父親から渡された指輪は守りのためではなく、お前を縛り付けるための呪われた道具でしかなかったなと嘲笑うデルフィノ。

あの時オルフェオが自身に発した言葉は真実だった――。そう悟った。

「あぁ……なんだ……私、はじめから……」

シェリアの口から漏れたのは、物事を勘違いしていたと理解した瞬間に出る明るさを帯びた声。

父がカインとの同行を許可したのも、カインの言葉に折れたわけではない。最初から、それを利用してベルクラフトに渡すつもりだったのだ。

どうあっても――……。

「私の決められた運命から……そして父様から逃げられることはない。それをこうして形にしたのね」

指輪を見つめながら、そう呟く顔にはうっすらと乾いた笑みが浮かんでいた。

逃げられない。違う運命を歩む事なんて出来ない。そう、希望は持つべきではなかったのだ。

「――人の強い思惑が形になるなら、オレの信念も形になるはずだ」

血を滴らせながら、カインはゆっくりと起き上がり……シェリアとその後ろのデルフィノを見据える。

「ラーズ、いろいろ手段を考えてくれたようだが……もう無理だ」

自身の唇を手の甲で拭って淡い口紅と血液を擦り落とすと、カインは金髪の長いウィッグを掴んで放り投げる。

「もはや怒りで自分が抑えきれない。許せ」

剣を握り直し、デルフィノに剣先を向け、カインは貴様を許しはしないとはっきりと告げた。

そんなカインにほとほと困ったような顔をしながら、ラーズはカインの隣に歩み寄って軽く治癒魔法をかける。

「……きっと、こうなるのではないかと思っていました。
貴方は昔から……我々の言う事より、自分の行動(したいこと)ばかり優先されるから……何度気を揉んだ事か」

ラーズが思い出したのは、幼少の頃。

ベルクラフトに渡すと決まったシェリアの手を引いて、ルドウェルとアレス皇帝にそんなことやめさせろと迫った事だ。

「……シェリア。お前、もう人間じゃないのか」

カインからの突然の問いかけだったが、シェリアは既に諦観の色を見せている。

「そうみたい……だから、もういいの」
「なにが『もういい』んだ」

カインが聞き返しても、シェリアは答えない。

「『もういい』ことなんか何もないはずだ……リエルトにまた会いたくはないのか? あの子は、お前の事を待っている。
リエルトにも、オレにも……シェリアは必要だ」
「……そんなこと、どうして【今】言うの? どうして……もっと早く言ってくれなかったの……もう、遅いよ」

悲しげに呟かれた言葉は、彼女が浮かべる涙と共にカインの心を抉る。

「……ごめん、もっと前から言ってくれてもやっぱり無理だった。
最初から……父様は何も計画を変えたりしなかったでしょう。
私……魔物になったって言われて、それが本当かどうかも分からないのに……ベルクラフトが私を騙して喜んでるだけかもしれないのに、凄く怖い。
誰かを手にかける事も怖いし、身体が変わるのも怖いよ。魔物になって誰かを殺すなら、いっそ死んでしまいたい……!」
「……だったら、オレが殺そう」

僅かな静寂の後に告げられた言葉に、シェリアは悲しみすら忘れて言葉の意味を探った。

今、カインは殺すと言わなかっただろうか。しかし、聞き間違えではないらしい。

「お前が変貌して何者かの手にかかって死ぬのなら。オレの父から親子三代にわたって、周到にかけられた魔女の呪いがあるのなら。
愛する者を失うか、自分が死ぬか。あるいは――全てを失うか。愛する何かを壊すなら、オレはそれを、お前を失う事に使おう」

驚愕するシェリアを見据えながら、カインは死の淵にあった初陣を思い出していた。


『皇子。まだ死にたくないでしょう?』

あの黒い魔女は、いつからそこにいたのか自分にそう語りかけていた。

『だから、取引しましょう』

力が入らぬ全身。自分は死ぬのだと理解していたあの時、額に手を置かれた。

――そうだ、まだ。しにたくない。

カインは、僅かに残った力で頷いていた。

『素直ね、皇子様』

ふふっと愉しげに笑い、血に塗れた髪を指先で梳き、女は呪詛を吐く。

『でも、残念ね。皇子様。実は生まれたときからあたしに呪われている。
【亡国の呪い】って言ってね、自分が一番好きな物をなくしてしまうの。
あなたのお父様も、后を亡くした。でも、仕方が無い事なの。皇帝はお后様を愛していたから。
もし、国を何よりも愛してたら、国が滅んでしまってたのよ……その方があたしには良いのだけれど。
お后様が亡くなったとき、皇帝はそれはそれは悲しんでいたわ。
だから教えてあげたの。生まれたばかりの皇子様も――同じ呪いを受けているって。やがてこの国は滅ぶ事になると』

そう語る女の目には、強い憎しみが宿っていた。

『皇子様、あなたをまだ生かしてあげる。そのかわりに、もうひとつ……呪いをあげるわ』

指先はそこにあるのに、身体の内部が氷のように冷えた――とはいえ、その時瀕死ともいうべき状態のカインには、身体の感覚は失われているはずだった。

だが、身体……いや、もっと深い、感覚的な部分……そう、魂と言うべきか。そこが、がっちりと掴まれたように感じたのだ。

『あなたは……呪いに、   て――自分で、愛した人を殺すのよ。そうしたら……――』

何を言っていたのか思い出せないものの……言い終わるや否や、身体も魂も引きちぎられるような痛み――無論、実際にそんなことはないが――を感じ、カインは女の嘲笑のなか意識を手放した。

当時を思い出しながら、カインはシェリアに口を開く。

「シェリア……【亡国の呪い】がリエルトにも受け継がれているのなら、いずれリエルトも何かを失う苦しさを味わうことになるかもしれない。
だが、それは【今】ではない。それに、オレは絶対、誰の策略にもお前とリエルトを渡さない……そう誓っている。
剣士の誓いはレティシスが勝手にやってしまったからな、もうお前へ誰かが捧げられないんだぞ。
挙句、自殺することばかり考えて……これ以上オレをいじめないでくれ。泣き顔でも見たいのか?」

カインは少々軽口を叩いたが、すぐに真面目な顔で、シェリアに告げる。

「……嘘偽りなく、オレはシェリアを……お前を愛している。だから、お前が人ならざる姿になって誰かに傷つけられるなら。
オレの呪いが……愛がお前を死に至らしめるというなら、オレがお前を殺す役を担おう。そして……共に逝こう」

カインの言葉に反応したのは、シェリアだけではない。そこにいる『レナード』というリエルトの耳にも届いた。

――父は、あの人を愛していたから死んだというのか。

この時代の父は、愛するものを殺す事を選び……リエルトが知っている時代の父は、自分が死ぬ事を選んだ。

だったら。

この時代のシェリアは、どうするのだろう――?

「……ちょっと、気を散らさないで! 当たったら死んでしまいますわよ!」

足にフィーアの強烈なキックを食らい、思わずバランスを崩して転ぶリエルトの頭上を爪が掠める。

「痛……あ、ありがとう、ございます」
「ええ、その通り。恩人と思って戴いて構いません。あぁおぞましい、代償に男の身体を触ってしまうなんて……」

悪態をつきつつ獣に矢を打ち込もうとするフィーアだが、これはラーズの母親であることにはたと気づく。

「どうしましょう……ラーズ様とシェリア様のお母様を傷つけてしまいます……けれど、自らの命が危ないのですから迷っている暇はありませんわね」
「ぼく、あなたがときどき見せる頭が悪いくらい思い切ったところ好きです」

恭介がそう告げると、フィーアはじろりと一度彼を睨み、矢をランシールへと放つ。

「足を折る準備が出来ていませんから、今は褒め言葉としておきます」
「怖ぁ」

茶化すような口調のまま、恭介はちらりとイルメラの事を思い出した。

周囲を見渡すが、彼女の姿は既にここに無い。隠密行動が得意というのは本当のようだ。

「……なに笑ってるんです、気持ち悪い」
「え、ぼく笑ってます?」

フィーアの指摘に自分の頬を撫で、首を傾げる恭介。

「だって、嬉しいから」
「あら、そう。水を差すようで恐縮ですが、喜ぶのはちょっと早いのではないかしら」

魔法で矢を強化し、フィーアはリエルトを狙うランシールの手を狙うが、邪気とも瘴気とも言えそうな魔力の層が攻撃を阻み、威力を弱めてしまう。

「この争いが片付いてから、ゆっくり喜んで下さいまし――足を折られたいのでしょ?」
「ぼくの喜んでる事分かってて意地悪するの良くないですよ?
でも、仰る事はご尤もなので……頑張っちゃいますか!」

恭介もそう言いながら拳を眼前で構え、息を長く吐く。

「――ぼくがいた世界(ところ)に『事実は小説よりも奇なり』って言葉があったんですけどね。
その言葉を肌で実感するとは思わなかった。
だから、断言したい――運命は、諦めなかったら変えられるって!!
長い悪夢を、終わらせるんだ!!」

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