【異世界の姫君/59話】

「……姫もリネットも無事で良かった。迅速かつ的確な判断だったよ」

事情を聞いて駆けつけたヒューバートは、ありがとう、と言ってレスターを労った。

当然の事をしたまでで礼を言われる事ではありません、と逆に頭を下げたレスターに、ヒューバートは笑みを見せる。

「相変わらず硬いね。どう致しまして、でいいよ」

頭を下げたままのレスターの肩を軽く叩き、アヤのほうを向く。

「……視えましたか」

ヒューバートの視線はいつもより強い。

「はい…」

恐怖のせいか、すっかりしおらしくなったアヤは返事と共に小さく頷いた。

「姫。そろそろお分かりでしょう。
貴女はどうやら、ある程度時間や場所に関係なく、この世界の出来事を識る事ができるようだ。
その能力、過去は言うまでもなく、未来は……今のところ当たっていますね」

それが貴女の力なのでしょう、とヒューバートは言い含めるようにして聞かせ、一度ゆっくり目を閉じてから、それなのに、と口にする。

「ご自身でも少しは気にされていたのでしょう? ……なぜ、すぐにレスターへ相談されなかったのですか?」

レスターに相談していれば同じことが起こっても、アヤの予知が外れるのかどうかも確かめることはできたし、二人ともこんなに怖い思いをしなくて済んだかもしれないのだ。

「ごめんなさい……言い訳になりますが、本当にあれが泉のせいで得た能力なのかもわからないし、もしかしたら気のせいかと、思って……。
自分の妄想とかだったら、ご迷惑が……」
「はっきりと、映るのですよね?」

無言で頷くアヤ。

「はっきり言います。
それは妄想ではありませんよ。貴女の能力です。
嫌なことが視えた場合は、気のせいだとお思いになりたい気持ちも理解できます――でも、現実に起こり得ることです」

ヒューバートは『僕にもそう思った時期はあります』と同意する。

「僕は貴女の言葉を……レスターを守ってくださるというお言葉を信じた。
だから……貴女にはしっかりしてもらいたい」
「あの……わたしを守ってくださるというのはいったい……?」

自分の名前が出たことを不思議に感じたレスターは、怪訝そうな表情を浮かべつつ、ヒューバートとアヤに尋ねてくる。

「……姫はね」
「ヒューバート様……!」

アヤが止めようと声を掛けるが、彼は首を横に振った。

「ううん、もう夜襲とレスターのところだけは話してしまう方がいいよ。
陛下はそれくらいならお許しになる」

真面目な顔でヒューバートは提案して、レスターやリネットは、じっとアヤを見つめている。

その視線に居心地の悪さと、後ろめたさを感じつつ……アヤは重い口を開いた。

明日、夜襲が起こるかもしれないこと。

そこでレスターが、死んでしまう事。

だが、それはこの力が発現する前の事で、自分が来たことによっていろいろ外れていることもあるという。

アヤが言葉に詰まりながらも話し終えると、レスターは重苦しい顔をしたまま、アヤを見つめていた。

「……だから、姫は『死ぬ』という言葉に敏感だったのですね」

自分が死ぬという言葉をアヤから聞かされるのでなくとも……いい気分はしない。

しかし、アヤはルエリアやヒューバートらにそれを防ぎたいと言ってくれたのかと思うと、胸がいっぱいになる。

「ありがとうございます……。
そこまで思ってくれるあなたに出会えて、わたしは嬉しい」

ですが、とレスターはすぐに元の表情に戻って、アヤと視線を交える。

「わたしはそう簡単に死んだりしません。一緒に生きるという約束もした。
その夜襲が現実に起こるとして……クレイグたちを捕縛し、終わってから……陛下にきちんとわたしたちの許可を頂かなくてはいけませんし」

それは俗に死亡フラグというのだが、アヤ達の世界のごく一部で使われている用語など、レスターに知る由もない。

「あ、あの、なんだかわたしが口を出していい話じゃない気がするのですけど……」

先ほどからずっとヒューバートの側で話を聞いていたリネットが、おずおずと意見をする。

「アヤ様のお力で、クレイグたちの潜伏先を知ることは……できないのでしょうか……」

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