【悪役令嬢がリメイク版で敵側のヒロインに昇格したのに、恋愛どころじゃないんですけど!/序】


 あなたは【悪役令嬢】をご存じだろうか。


 主人公を執拗に、そして陰湿にいじめくさりつつも悪びれる事なく『イモ女が●●様に近づくからこうなるんですのよ、ザマァみさらせですわ!』という内容を告げながら高笑いしている……身分とプライドが高く、意地と性格の悪いご息女を。


 無論、因果応報――かつ主人公の人徳やら人脈により、ラスト間際には攻略対象、お偉い奴らから公衆の面前で罪を暴き倒される。


 多少やってもいないことまで上乗せされ、身分を剥奪されたり追放されたり、酷い場合には処刑される……なんともめでたしめでたしで済んで良いのか悪いのか分からない、そういう倍返しザマァ役の女性でもある。



――それが、わたくし『リリーティア・ローレンシュタイン』に設定されていたはずだ。それを、本編開始以前にしくじってしまった気がする。



 これから長ったらしく誰でも分かるように現状までの詳細を述べようと思う。



 まず第一に、わたくしは本来の『リリーティア・ローレンシュタイン』ではない。


 ここでこそ『わたくし』なんて気取ったお嬢様デフォルトスタイルで喋っているものの、本来は『あたし』か『ワシ』という振れ幅が謎の一人称であり、中身だって『は? 現実の男? 何それ? 二次元男子が至高だろ!』っていう思考の、どうしようもないほど残念な女だ。



 それに残念だけれど『わたくし』という一人称がなぜか変えられない。



 そう。本来のわたくしは乙女ゲーをプレイする側の人間であり、日々乙女ゲーのスチルやトロフィーを取り尽くすために頑張る、誰にも見せられないガチオタだ。


 そんなわたくしは【ピュアフル♡ラヴァー ~ 戦乙女の恋は戦場と共にあなたへ ~】という、よく分からん副題のほうがタイトルより長いじゃないかとツッコミたくなる乙女ゲーを、つい先日までプレイしていた。


【ピュアフル♡ラヴァー】は今から15年ほど前に出たゲームらしく、今までいろんなゲーム機に移植されてきたものだ。


 一作目から年数がかなり経っているので、設定の一部・システム・グラフィック・キャラデザ全て刷新したリメイク版が本日発売されたのだ。


 システムも違うってそれってもう新作じゃない? という感じもしなくはないが、旧キャラ達をそのまま使うためリメイク作、ということらしい。


 リメイクをやるために無印版の【ピュアフル♡ラヴァー】を復習プレイしていたが、さすがにレジェンド乙女ゲーム。何度やっても面白かった。


 先ほど購入してきたリメイク版。

 一緒に買った乙女ゲー雑誌で情報を見たところ、ゲーム内容詳細じゃなくてグラフィックの話しかしていない。まずゲームシステムを教えてほしい。


 雑誌を手に取り、ペラペラと特集ページまでめくった。


 確かにグラフィックは綺麗に変わっている。

『謎の新キャラ??』なんて見出しで新キャラも何人か増えてるっぽいし、詳しくは今日発売の【Reピュアフル♡ラヴァー ~ 戦乙女と魔道の娘 ~】――タイトルに『Re』がついただけで、なんかストーリーに重みのあるサブタイに生まれ変わった――をプレイするしかないようだ。


 結局何ゲーになっているのか不明だし。

 と、少しの疑問を抱きながら――いざ、ソフトをReに入れ替えてスタートした瞬間、わたくしの住んでいた家の電気は全て消え、なぜか携帯ゲーム機までも電源が落ちた。


 停電……なら暫く待てば復旧するだろう。だけど、フル充電してあったゲーム機の電源まで一緒に落ちるのはおかしいと思う。


 あり得るとすればゲーム機本体が故障していること……だが、それは今一番困る。折角楽しみにしていたゲームが直前で出来ないなんて辛すぎる。


 確認もかねて電源ボタンを押し直した瞬間――光が溢れた。



 あんまりにも眩しいので目を灼かれないようまぶたを閉じ、しばし耐える。

 もう良いかなと思って目を開けると、わたくしはふかふかベッドに横たわっていて、窓からは明るい光が差し込んでいた……。

 


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こめんと

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